上 下
2 / 50
第一章

第2話 妹との関係

しおりを挟む

 この話の主な登場人物

 カトリーヌ 主人公(わたし)
 フランツ 護衛

 オーギュスタン(オーギュ) 許嫁
 アラベル 妹

  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆


 館に着くと、わたしは馬車を降りる。
 オーギュスタンは先に降りてエスコートをしてくれない。
 それをしてくれるのは護衛のフランツだ。

「お嬢様、足下に気をつけて」

 そう言って手を差し出してくれる。

「ありがとう」

 その彼の手をる。
 これがいつものやりとりだ。
 本来はオーギュスタンの役割であるはずだ。
 でも彼は馬車から降りようともしない。

「では、ごきげんよう」と言って中から手を振るだけだ。
 わたしも手を振って、屋敷へと戻る。
 ほんの数歩、歩く。
 そのとき、目の前。
 屋敷のドアが勢いよく開き、中から何かが飛び出してきた。

 長いブロンドをたなびかせながら、レースのついたスカートの裾をまくって勢いよく走ってくる。
 妹のアラベルだ。

 わたしに目もくれず、一目散に脇を通り抜ける。
 彼女の金髪とわたしの栗毛が交差する。
 そのすれ違うときに微かに甘い匂いがした。
 何のコロンかわからないけど、ときおり、そんな甘い匂いがする。
 そして、ここ最近はそのコロンを付ける回数が多くなり、匂いが濃くなっている。

「オーギュさまっ」

 そのとき馬車の扉が開き、オーギュスタンが姿を表す。
 そして言う。 

「アラベルッ」と。
 満面の笑みで出迎える。
 そして両手を開いた彼の腕の中に、妹が飛び込む。

 そして連呼する。
「オーギュ、オーギュさま」と。

 それを受けて彼も連呼する。
「アラベル、ああ、アラベル」と。

 そして人目もはばからずに抱擁する二人。
 それを見ているわたし。

「オーギュさま、きょうはもう終わったの?」

「今日のしご、いやデートは終わりだよ」

 “仕事”と言いかけてデートと言い直した。
 それは、わたしとのデートが彼の仕事でしかないという本心。その現れ。
 それが言葉でなって出かかっている。
 わたしの目の前で。

「じゃあ、きょうはもうお帰りになるのね」

「ああ、戻りながら街で買い物するつもりだ。そうだ、アラベル、一緒に街まで来ないか」

「よろしいのですの」

「構わないさ、何でもほしい物を買ってあげる。そして帰りにカフェに寄ろう、おいしいタルトのお店があるって話だ。そこへ行こう」

「うれしいっ」
 そう言ってアラベルはオーギュスタンにさらに抱きついた。

 ──下手な小芝居。

 わざと衆人監視の前で、さも帰るついでに誘ったという小芝居を繰り広げている。
 二人でこそこそと出掛けたらあらぬ噂がたつ。
 だけど婚約者の目の前でどうどうと誘えば、それは、妹を可愛がる義兄という仮面をかぶることができる。
 そんな小芝居だ。

 わたしはきっと歯をかむ。
 彼は誘ったわたしを無視して妹のアラベルを誘う。
 しかも目の前で。
 厳しい表情をしていのだろう。

「お嬢さま、わたしが一言注意してまいりましょう」

 フランツが難しい顔で前に出る。
 それをわたしは押しとどめる。

「やめて」

「でも、お嬢さま、これでは」

「もうこれ以上、恥をかきたくないの。わかって」

「すみません、出過ぎた真似を」

「ううん、いいの。そしてありがとう、わたしに気づかってくれて」

 その会話の間もオーギュスタンとアラベルの二人は楽しそうに会話を続け、そして馬車へと乗り込む。
 しかもオーギュスタンは妹をエスコートしているではないか。
 わたしには決して差し出さない手。
 それで妹の手をうやうやしく取り、馬車へ乗り込むことをサポートしている。

 そのとき、妹のアラベルがわたしの方をちらと見た。
 そして目が合った。
 彼女はふっと薄笑いを浮かべる。
 その勝ち誇った表情。

 ──貴女の大事な物はわたしの物よ。

 そう言っていた。

 そして馬車の扉が閉まると、やがて走り出す。
 わたしはそれを敗北感に包まれながら見送るしかなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今更困りますわね、廃妃の私に戻ってきて欲しいだなんて

nanahi
恋愛
陰謀により廃妃となったカーラ。最愛の王と会えないまま、ランダム転送により異世界【日本国】へ流罪となる。ところがある日、元の世界から迎えの使者がやって来た。盾の神獣の加護を受けるカーラがいなくなったことで、王国の守りの力が弱まり、凶悪モンスターが大繁殖。王国を救うため、カーラに戻ってきてほしいと言うのだ。カーラは日本の便利グッズを手にチート能力でモンスターと戦うのだが…

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

【完結】出戻り令嬢の奮闘と一途な再婚

藍生蕗
恋愛
前夫との死別で実家に帰ったブライアンゼ伯爵家のレキシーは、妹ビビアの婚約破棄の現場に居合わせる。 苦労知らずの妹は、相手の容姿に不満があると言うだけで、その婚約を望まないようだけど。 ねえ、よく見て? 気付いて! うちの家、もうお金がないのよ?? あなたのその、きんきらきんに飾り立てられたドレスもアクセサリーも、全部その婚約相手、フェンリー様の家、ラッセラード男爵家から頂いた支度金で賄っているの……! 勘違いな妹に、貴族の本分を履き違えた両親。 うん、何だか腹が立ってきたぞ。 思い切ったレキシーは、フェンリーに別の相手を紹介する作戦を立てる。 ついでに今までの支度金を踏み倒したいなんて下心を持ちつつ。 けれどフェンリーは元々ビビアと結婚する気は無かったようで…… そうとは知らずフェンリーの婚活に気合いを入れるレキシーは、旧知の間柄であるイーライ神官と再会する。 そこでイーライとフェンリーの意外な共通点を知り、婚約者探しに一役買って貰う事にしたのだが…… ※ 妊娠・出産に対するセンシティブな内容が含まれます ※ 他のサイトでも投稿しています

女官になるはずだった妃

夜空 筒
恋愛
女官になる。 そう聞いていたはずなのに。 あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。 しかし、皇帝のお迎えもなく 「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」 そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。 秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。 朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。 そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。 皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。 縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。 誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。 更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。 多分…

彼女が望むなら

mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。 リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……

妻のち愛人。

ひろか
恋愛
五つ下のエンリは、幼馴染から夫になった。 「ねーねー、ロナぁー」 甘えん坊なエンリは子供の頃から私の後をついてまわり、結婚してからも後をついてまわり、無いはずの尻尾をブンブン振るワンコのような夫。 そんな結婚生活が四ヶ月たった私の誕生日、目の前に突きつけられたのは離縁書だった。

処理中です...