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第二十八話 公開告白するんですか?②
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そんなことを考えていると、クラスメイトのざわめきがさざ波のように伝わってきた。
なんだろうと思い視線を巡らせば、教室にキュロットが姿を現すのが見て取れる。
上品で凛とした所作は普段通りのキュロットだった。しかし、決定的にいつものキュロットと違う部分が目に留まる。
クラスメイトをざわつかせた理由でもあるそれは、チャームポイントとなって久しい縦ロールが解かれ、ストレートの髪に戻っているということだ。
今日は縦ロールのセットをしていない。とはいえ、毎日髪を巻いていたので、セット前でもカールの際立つお嬢様になっていたはず。それが全てなくなっているということは、自らストレートに戻したのだろう。
私は少なからずショックを受け、しばらくの間は身動き一つできなかった。しかし、トントンと肩を叩かれ、はっと我に返る。
肩口を指先で叩いたのはブラドだった。ブラドとルフォートが、目顔でキュロットとコミュニケーションを取るべきだと訴えている。
躊躇ったのはほんの数秒だ。私は力強く頷くと、自分の席に座ったキュロットの元へと向かう。
一つ深呼吸。
「お、おはようキュロット」
「……おはようございます」
ガン無視されたらどうしようと思っていたが、どうやらそこまでの塩対応をするつもりはないようだ。
まずはひと安心しつつ、私は言葉を続ける。
「髪型、前のに戻したのね。縦ロールよく似合ってたのに」
「どんな髪型にしようとわたくしの勝手ですわ。それに、今のおしとやかな髪型のほうがシエザにとっても都合がよろしいんじゃなくて? 何せヒーシス殿下はこちらの方がお好みのようですし」
うわぁ。がっつり根に持ってるよ。
私は困り果てるが、何とかキュロットの機嫌を取ろうと猫なで声を出す。
「そんな意地悪なこといわないでよ。それに、自分のしたい髪型にするのが一番でしょ?
何だったらお昼休みにでも皆でセットし直して――」
「余計なことをしないでくださいまし!」
激情にかられたキュロットの一喝に、教室は水を打ったように静まり返る。
キュロットは悲壮感を漂わせる眼差しで私を見つめ、苦しげに言い放った。
「もうわたくしに構わないでくださいまし。どうせわたくしたちは、短い学園生活の中で多少の縁ができただけの間柄。
わたくしはこれまで通り、殿下に相応しい女性となるよう自己研鑽に励みますわ」
その台詞にはさすがにムッとした。私は険のある声音で反論する。
「ちょっと、それはあんまりなんじゃない? そりゃ本来の王妃様と私たちじゃ身分が違うわ。でもさ、今は王立学園に通う学生同士でしょ。
それに、私たちと過ごした時間、キュロットだって楽しかったんじゃないの? それを否定するつもり?」
「……夢だったのだと、そう思うことにしましたわ」
「夢?」
「ええ。この数ヶ月の出来事は夢だったのだと。叶うことのない普通の学園生活を夢に見ていたのだと、そう思うことにいたしましたわ」
怒りと悲しみが私の中で渦巻いた。
キュロットは私たちとの時間を否定しなかった。けれど、それが続くことも望みはしないと切り捨てたのだ。
彼女の思いを踏みにじったのは私だ。
それでも、裏切られたと感じる私は、すごく自分勝手な人間なのだろうか。
なんだろうと思い視線を巡らせば、教室にキュロットが姿を現すのが見て取れる。
上品で凛とした所作は普段通りのキュロットだった。しかし、決定的にいつものキュロットと違う部分が目に留まる。
クラスメイトをざわつかせた理由でもあるそれは、チャームポイントとなって久しい縦ロールが解かれ、ストレートの髪に戻っているということだ。
今日は縦ロールのセットをしていない。とはいえ、毎日髪を巻いていたので、セット前でもカールの際立つお嬢様になっていたはず。それが全てなくなっているということは、自らストレートに戻したのだろう。
私は少なからずショックを受け、しばらくの間は身動き一つできなかった。しかし、トントンと肩を叩かれ、はっと我に返る。
肩口を指先で叩いたのはブラドだった。ブラドとルフォートが、目顔でキュロットとコミュニケーションを取るべきだと訴えている。
躊躇ったのはほんの数秒だ。私は力強く頷くと、自分の席に座ったキュロットの元へと向かう。
一つ深呼吸。
「お、おはようキュロット」
「……おはようございます」
ガン無視されたらどうしようと思っていたが、どうやらそこまでの塩対応をするつもりはないようだ。
まずはひと安心しつつ、私は言葉を続ける。
「髪型、前のに戻したのね。縦ロールよく似合ってたのに」
「どんな髪型にしようとわたくしの勝手ですわ。それに、今のおしとやかな髪型のほうがシエザにとっても都合がよろしいんじゃなくて? 何せヒーシス殿下はこちらの方がお好みのようですし」
うわぁ。がっつり根に持ってるよ。
私は困り果てるが、何とかキュロットの機嫌を取ろうと猫なで声を出す。
「そんな意地悪なこといわないでよ。それに、自分のしたい髪型にするのが一番でしょ?
何だったらお昼休みにでも皆でセットし直して――」
「余計なことをしないでくださいまし!」
激情にかられたキュロットの一喝に、教室は水を打ったように静まり返る。
キュロットは悲壮感を漂わせる眼差しで私を見つめ、苦しげに言い放った。
「もうわたくしに構わないでくださいまし。どうせわたくしたちは、短い学園生活の中で多少の縁ができただけの間柄。
わたくしはこれまで通り、殿下に相応しい女性となるよう自己研鑽に励みますわ」
その台詞にはさすがにムッとした。私は険のある声音で反論する。
「ちょっと、それはあんまりなんじゃない? そりゃ本来の王妃様と私たちじゃ身分が違うわ。でもさ、今は王立学園に通う学生同士でしょ。
それに、私たちと過ごした時間、キュロットだって楽しかったんじゃないの? それを否定するつもり?」
「……夢だったのだと、そう思うことにしましたわ」
「夢?」
「ええ。この数ヶ月の出来事は夢だったのだと。叶うことのない普通の学園生活を夢に見ていたのだと、そう思うことにいたしましたわ」
怒りと悲しみが私の中で渦巻いた。
キュロットは私たちとの時間を否定しなかった。けれど、それが続くことも望みはしないと切り捨てたのだ。
彼女の思いを踏みにじったのは私だ。
それでも、裏切られたと感じる私は、すごく自分勝手な人間なのだろうか。
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