正しい悪役令嬢の育て方

犬野派閥

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第二十七話 不穏な悩み①

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 自室のベッドに横たわりながら、私は虹の香水の小瓶を光に透かしてみた。鏡面のようなクリスタルは私の憂鬱な表情さえもきれいに映し出し、キラキラと七色に輝かせている。

(キュロットのこと、傷つけちゃったな……)

 確かに彼女の思いを汲むことなく、身勝手に動きすぎたとは思う。
 けれど、まさかあそこまで追い詰めてしまうとは想像すらできなかった。

「まあ、ゲームではヒーシスにぞっこんだったからミリシアを執拗に虐めてたというより、次期王妃という地位を剥奪されるから躍起になってた感じだったしな。
 ヒーシスのこと嫌いってわけではないだろうけど、自由恋愛とは程遠いか。それなのに、友達から変に焚きつけられたら、そりゃ気分を害するわよね」

 それにしたって、あの悲しみようは少し度を過ぎているようにも思う。もしかするとキュロットには、密かに思いを寄せる相手がいるのかもしれない。

「もしそうなら、さっさと言ってくれたらいいのに。恋バナ、嫌いじゃないんだけどな」

 とはいえ、そんな親しい間柄に戻ることは果たしてできるのだろうか。キュロットはもう二度と、私に笑いかけてくれないのではないか。

 マイナス思考がさらなる不安を掻き立て、私の胸をざわつかせる。
 私は頭をワシャワシャとかき、キュロットのことをいったん脇へと追いやることにした。

「ああもう、キュロットのことはとりあえず保留! まずはミリシアの行動に対処しないと!」

 キュロットの件はもしかしたら時間が解決してくれるかもしれない。しかしミリシアの暗躍は、放っておけば決着するようなものではない。こちらからも何らかの対策を立てておかないと。

「って言っても、ミリシアはいったいどんな手を打ってくるつもりかしら。
 もう手段は選ばないみたいなことを言ってたし、何らかの行動に出るのは間違いないんだけど……」

 本人を直撃するのが最も手っ取り早いのだが、バックガーデンで見失ったあと、ミリシアを見つけることは叶わなかった。転入初日だというのに、授業をボイコットし、完全に姿を眩ませたのだ。

(何か嫌な感じね。裏で何を企んでいるのかしら)

 そう考えたとき、ふと脳裏を過ぎったものがあった。

(企みっていえば、ネッバス先生や影牙の連中も気になるところよね。
 まあ、ゲームでは終盤にならない限りは動き出さないし、今のところ大丈夫だとは思うけど)

 いや、待てよ。
 ゲームではこうだったから、という慢心のせいで今の危機的状況に陥っているわけだし、油断はできない。
 そもそも、ゲーム内容を知っているのが私だけという前提でアドバンテージがあったわけだが、ミリシアという転生者が加わった以上、今後このゲーム世界がどう転ぶかは未知数だ。

「というか、ミリシアってどのタイミングでこの世界に転生したんだろう?
 戸惑ってる感じもなかったし、転入初日からあんだけ積極的に動いてんだから、昨日今日この世界に転生したってわけじゃなさそうだけど」

 そんなことを考えていると、ふと薄気味悪い仮説が思い浮かんだ。
 ミリシアはここがゲーム世界だと知っている。つまりは、この世界において鍵となる人物について、転生した当初から把握していたということ。

 もし仮に。
 もし仮に、ミリシアが王立学園に転入してくるよりも前に、ネッバス先生や影牙とコンタクトを取っていたとしたら……。
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