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第二十五話 圧倒的小者感③
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私がうーんと唸っていると、キュロットが心配そうに顔を覗き込んできた。
「大丈夫ですの? なにか様子が変ですわよ。突然あんなことを仰るなんて、いつものシエザらしくありませんわ」
「ああ、ごめん。つい変なこと口走っちゃって。キュロットに言わされてるみたいに皆が誤解しなきゃいいんだけど……」
するんだろうなぁ、誤解。
キュロット高笑いしながら立ち去っちゃったし。取り巻きの私を使って釘を刺したみたいに捉えちゃうんだろうなあ。
ああ、これぞ悪役令嬢の宿命!
しかしキュロットは気にしてないとばかりに首を振った。
「そんなとはいいんですの。それよりも、本当ですの? ミリシアさんに、殿下はわたくしの婚約者なのだから近付くなと仰ったというのは」
「いや、言ってない言ってない! バックガーデンでヒーシスとミリシアが会ってたのは知ってるけど、そんなふうなことは言ってないわよ」
「本当ですの?」
キュロットはやけに真剣な面持ちでそう訊ねてくる。
私は少し気圧されながら答えた。
「も、もちろん。誓ってそんなことは言ってないけど」
私の言葉を聞いたキュロットは、ほぅと安堵のため息をついた。
「それを聞いて安心しましたわ。確かにわたくしと殿下は婚約しておりますけれど、シエザにそんなことを言われるのは悲しいですもの」
「?」
私はキュロットの言わんとすることがいまいちわからず小首をかしげた。
(何が悲しいんだろ? もしかして、他に好きな人がいて、それを仲の良い私が気付けてないから悲しいとか、そういう話?)
とはいえ、『王立学園の聖女』では、キュロットはヒーシスに一途だった。
それに、キュロットと仲の良い男子となると、他にはブラドとルフォートくらいしか思い当たらないが、恋愛感情を抱いてる様子はうかがえない。
どういった意味なのかと頭を悩ませた私は、やがて一つの結論に達した。
(ああ、そっか。キュロットとヒーシスは深く愛し合ってるんだから、ミリシアが割り込む隙なんてないってことね。
それを私が疑うようなことを言ったと思って悲しかったと。なるほど)
まあぶっちゃけ、『王立学園の聖女』でのヒーシスはミリシアになびくわけだが、その未来は確定しているわけではない。
キュロットがヒーシスを心から愛しているというならば、私が取るべき道は一つ。何が何でもキュロットとヒーシスをくっつけ、ミリシアには誰とも結ばれず学園を卒業するバッドエンドの道を歩んでもらうのみ。
私はキュロットの両肩をガシッと掴み、彼女の瞳をひたと見つめた。キュロットは驚いた様子で目を剝いたあと、ほのかに頬を染める。
「ど、どうしたんですのシエザ。なにかありまして?」
「悲しませちゃってゴメン。キュロットの気持ち、よくわかったわ」
「え!? ほ、本当ですの!? やだ、恥ずかしいですわ」
「恥ずかしがるようなことじゃないでしょ。そうとわかったら、今からバックガーデンに向かいましょう」
「あんな人気のないところに今から? ま、待ってくださいまし。わたくし心の準備が……」
「なに言ってるの、いいから行くわよ」
私はキュロットの手を引き、半ば強引に歩き出す。
キュロットは何か言いたげだったが、真っ赤になった顔を伏せがちにして、黙って私に付き従うのだった。
「大丈夫ですの? なにか様子が変ですわよ。突然あんなことを仰るなんて、いつものシエザらしくありませんわ」
「ああ、ごめん。つい変なこと口走っちゃって。キュロットに言わされてるみたいに皆が誤解しなきゃいいんだけど……」
するんだろうなぁ、誤解。
キュロット高笑いしながら立ち去っちゃったし。取り巻きの私を使って釘を刺したみたいに捉えちゃうんだろうなあ。
ああ、これぞ悪役令嬢の宿命!
しかしキュロットは気にしてないとばかりに首を振った。
「そんなとはいいんですの。それよりも、本当ですの? ミリシアさんに、殿下はわたくしの婚約者なのだから近付くなと仰ったというのは」
「いや、言ってない言ってない! バックガーデンでヒーシスとミリシアが会ってたのは知ってるけど、そんなふうなことは言ってないわよ」
「本当ですの?」
キュロットはやけに真剣な面持ちでそう訊ねてくる。
私は少し気圧されながら答えた。
「も、もちろん。誓ってそんなことは言ってないけど」
私の言葉を聞いたキュロットは、ほぅと安堵のため息をついた。
「それを聞いて安心しましたわ。確かにわたくしと殿下は婚約しておりますけれど、シエザにそんなことを言われるのは悲しいですもの」
「?」
私はキュロットの言わんとすることがいまいちわからず小首をかしげた。
(何が悲しいんだろ? もしかして、他に好きな人がいて、それを仲の良い私が気付けてないから悲しいとか、そういう話?)
とはいえ、『王立学園の聖女』では、キュロットはヒーシスに一途だった。
それに、キュロットと仲の良い男子となると、他にはブラドとルフォートくらいしか思い当たらないが、恋愛感情を抱いてる様子はうかがえない。
どういった意味なのかと頭を悩ませた私は、やがて一つの結論に達した。
(ああ、そっか。キュロットとヒーシスは深く愛し合ってるんだから、ミリシアが割り込む隙なんてないってことね。
それを私が疑うようなことを言ったと思って悲しかったと。なるほど)
まあぶっちゃけ、『王立学園の聖女』でのヒーシスはミリシアになびくわけだが、その未来は確定しているわけではない。
キュロットがヒーシスを心から愛しているというならば、私が取るべき道は一つ。何が何でもキュロットとヒーシスをくっつけ、ミリシアには誰とも結ばれず学園を卒業するバッドエンドの道を歩んでもらうのみ。
私はキュロットの両肩をガシッと掴み、彼女の瞳をひたと見つめた。キュロットは驚いた様子で目を剝いたあと、ほのかに頬を染める。
「ど、どうしたんですのシエザ。なにかありまして?」
「悲しませちゃってゴメン。キュロットの気持ち、よくわかったわ」
「え!? ほ、本当ですの!? やだ、恥ずかしいですわ」
「恥ずかしがるようなことじゃないでしょ。そうとわかったら、今からバックガーデンに向かいましょう」
「あんな人気のないところに今から? ま、待ってくださいまし。わたくし心の準備が……」
「なに言ってるの、いいから行くわよ」
私はキュロットの手を引き、半ば強引に歩き出す。
キュロットは何か言いたげだったが、真っ赤になった顔を伏せがちにして、黙って私に付き従うのだった。
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