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第二十四話 ヒロインの余裕③
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私は胸がもやもやしてくる感覚を味わった。ゲーマーとしての性が拒否反応を起こしているのだろうが、きっとそれだけではない。
(……生きてるでしょーが)
ミリシアはまだ転生したてかもしれない。この世界のことをまだ完全に把握していないだけかもしれない。
ただ、それでも。
(生きてるでしょーが。キュロットも、ヒーシスも、ブラドもルフォートも。FPSゲームに出てくるボットと違って、この世界で懸命に生きてるでしょーが!)
それなのに、単なる攻略対象として、次々とコンタクトを取っていくその姿勢が、なんだかひどく腹立たしい。
その怒りが顔に出ていたらしい。それまで私のことを歯牙にもかけない様子でいたミリシアが、不意にスッと目を細めた。
「なに? モブのくせに何か文句あるわけ?」
大ありだと啖呵を切りたかったが、私の脳裏にふとキュロットの姿がよぎる。
(いけない、いけない。私の平穏な人生だけじゃなく、キュロットの将来もかかってくるんだった。友好関係までは築けなくても、ミリシアとは不可侵条約くらいは結んどかないと)
私はキュッと拳を握りしめて憤りを押し殺すと、努めて冷静な声を出す。
「……わかった。ミリシアの行動を邪魔するようなことは避けるわ。『王立学園の聖女』ではキュロットが色々とちょっかいをかけるけど、それも私が食い止める」
「あら。意外と物わかりがいいじゃない。あんたらのガキ臭い嫌がらせなんてどうということはないけど、厄介事が減るのは助かるわ」
「ただし、こちらの条件も飲んでもらうわよ。キュロットにはいくつも破滅ルートがあるでしょう? その破滅ルートを回避するのを手伝ってちょうだい。
キュロットと明確な対立軸を作らなければいいだけだし、簡単でしょう?」
「……」
ミリシアは返答の代わりに私のことを値踏みするようにじっくりと見やった。その眼差しは爬虫類じみた冷たさがあり、背筋がぞくりと粟立つのを感じる。
やがてミリシアはにやりと口角を上げ、端的に告げる。
「断る」
私は目をむいてミリシアを見返し、焦れるように言った。
「何でよ!? 難しい条件じゃないし、お互いに利になるでしょう!?」
「そりゃそうかもしんないけどぉ。あたしは逆ハーレム満喫したあと王子ルートに入って、この国の絶対権力者になるつもりだから。
そうなると王子の元婚約のキュロットって邪魔なのよね」
「だから、そういった対立を避けるルートがあるでしょ!」
「それってアレよね。キュロットがミリシアを良きライバルと認めて、大団円で終わるトゥルーエンド。
嫌よ。あのルートって色々と面倒じゃない。キュロットにはさっさと退場してもらったほうが楽でいいわ」
「なっ……!」
私は思わず言葉を失った。怒りと焦燥で頭の中がぐちゃぐちゃになり、軽い目眩すら覚える。
それでも私はかろうじて反論の言葉を紡いだ。
「ヒーシスがあなたを選ぶとは限らないでしょ。手を組んだほうが得策よ」
ハンッ、とミリシアは鼻で笑った。
「馬鹿を言わないで。あんただってわかってるでしょ。王子はあたしを選ぶ。だってあたしは――」
そこでミリシアは自分の胸元に手をやり、勝ち誇るように続けた。
「この世界のヒロインなのだから」
ぐうの音も出ないとはこのことだ。『王立学園の聖女』は難易度の高い乙女ゲームではない。この世界においてヒロインがどれほどモテるか、ゲームをプレイした私は痛いほど知っている。
私が何も言い返せず立ち尽くしていると、ミリシアは側によってきて、
「まあ、モブはモブらしく、目立たないようにしてなさいな」
嘲笑うようにそう告げ、図書館を後にしていった。
(……生きてるでしょーが)
ミリシアはまだ転生したてかもしれない。この世界のことをまだ完全に把握していないだけかもしれない。
ただ、それでも。
(生きてるでしょーが。キュロットも、ヒーシスも、ブラドもルフォートも。FPSゲームに出てくるボットと違って、この世界で懸命に生きてるでしょーが!)
それなのに、単なる攻略対象として、次々とコンタクトを取っていくその姿勢が、なんだかひどく腹立たしい。
その怒りが顔に出ていたらしい。それまで私のことを歯牙にもかけない様子でいたミリシアが、不意にスッと目を細めた。
「なに? モブのくせに何か文句あるわけ?」
大ありだと啖呵を切りたかったが、私の脳裏にふとキュロットの姿がよぎる。
(いけない、いけない。私の平穏な人生だけじゃなく、キュロットの将来もかかってくるんだった。友好関係までは築けなくても、ミリシアとは不可侵条約くらいは結んどかないと)
私はキュッと拳を握りしめて憤りを押し殺すと、努めて冷静な声を出す。
「……わかった。ミリシアの行動を邪魔するようなことは避けるわ。『王立学園の聖女』ではキュロットが色々とちょっかいをかけるけど、それも私が食い止める」
「あら。意外と物わかりがいいじゃない。あんたらのガキ臭い嫌がらせなんてどうということはないけど、厄介事が減るのは助かるわ」
「ただし、こちらの条件も飲んでもらうわよ。キュロットにはいくつも破滅ルートがあるでしょう? その破滅ルートを回避するのを手伝ってちょうだい。
キュロットと明確な対立軸を作らなければいいだけだし、簡単でしょう?」
「……」
ミリシアは返答の代わりに私のことを値踏みするようにじっくりと見やった。その眼差しは爬虫類じみた冷たさがあり、背筋がぞくりと粟立つのを感じる。
やがてミリシアはにやりと口角を上げ、端的に告げる。
「断る」
私は目をむいてミリシアを見返し、焦れるように言った。
「何でよ!? 難しい条件じゃないし、お互いに利になるでしょう!?」
「そりゃそうかもしんないけどぉ。あたしは逆ハーレム満喫したあと王子ルートに入って、この国の絶対権力者になるつもりだから。
そうなると王子の元婚約のキュロットって邪魔なのよね」
「だから、そういった対立を避けるルートがあるでしょ!」
「それってアレよね。キュロットがミリシアを良きライバルと認めて、大団円で終わるトゥルーエンド。
嫌よ。あのルートって色々と面倒じゃない。キュロットにはさっさと退場してもらったほうが楽でいいわ」
「なっ……!」
私は思わず言葉を失った。怒りと焦燥で頭の中がぐちゃぐちゃになり、軽い目眩すら覚える。
それでも私はかろうじて反論の言葉を紡いだ。
「ヒーシスがあなたを選ぶとは限らないでしょ。手を組んだほうが得策よ」
ハンッ、とミリシアは鼻で笑った。
「馬鹿を言わないで。あんただってわかってるでしょ。王子はあたしを選ぶ。だってあたしは――」
そこでミリシアは自分の胸元に手をやり、勝ち誇るように続けた。
「この世界のヒロインなのだから」
ぐうの音も出ないとはこのことだ。『王立学園の聖女』は難易度の高い乙女ゲームではない。この世界においてヒロインがどれほどモテるか、ゲームをプレイした私は痛いほど知っている。
私が何も言い返せず立ち尽くしていると、ミリシアは側によってきて、
「まあ、モブはモブらしく、目立たないようにしてなさいな」
嘲笑うようにそう告げ、図書館を後にしていった。
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