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第十九話 お茶会ですわ⑦
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私が何を言わんとしているのか察したらしい。ネッバスは普段よりも一層冷淡な表情を浮かべると、押し殺した声を漏らす。
「シエザ・ローリント。滅多なことを口にすべきではない」
「ええ、そうですね。私も滅多なことが起きなければいいと、そう考えての発言です。
ネッバス先生も、もし洞窟でヒーシスの身に何か起こっていたら、ただでは済まなかったでしょう?」
「わたしが魔法薬を使って魔物を呼び寄せたとでも言いたいのか?」
「まさか! どうしてそんなことを仰るんです? 私は単に、引率者として責任を取らされていただろうと言ってるだけですよ。
それとも何か後ろ暗いことでもあるんですか?」
「何を馬鹿なことを」
私とネッバスは互いに探り合うような視線を交わす。
(うーん。基本的に無表情だし、常に顔色悪いから動揺しているかどうかもよくわかんないわね。仕方ない、もう少し踏み込んでみるか)
そう考えた私は、さらに言葉を続けた。
「もう一つお尋ねしたいことがあるのですが。ネッバス先生は『影牙』という傭兵団をご存知ですよね?」
「……さてな。どこかで耳にしたかもしれないが」
「いやいや、ご存知ないはずないじゃないですか。だって先生、魔法薬の研究のために、ご禁制の品をいくつか『影牙』から買い取ってるでしょう?
あの傭兵団、盗賊まがいのことも平気でしてるし、そういう取引は日常茶飯事ですよね」
「!?」
さすがに表情が動いた。
私がいま口にした情報は、『王立学園の聖女』内で語られることであり、本来なら誰も知り得ないものだ。
ネッバスとしては、たかが一生徒がなぜそんなことをと、戦々恐々となっていることだろう。
私は畳み掛けるように言った。
「その『影牙』が、殿下に対してよからぬ企てをしているのではないかという噂があるんです。
しかもこの学園で事を起こす気らしく、学園にいる協力者から見取り図まで手に入れているとか」
「馬鹿な、あれがそんなことに使われるはずが!」
そこまで口にしたところで、ネッバスは自分の失言に気付いたらしく、慌てて口を噤んだ。
(あーらら。思ったよりも簡単にボロを出したわね。少し迂闊すぎない、この先生)
まあ、だからこそ色々な人間に利用されるわけだろうけど。
やはりネッバスはこの世界において策動キャラであるようだ。しかも今の発言から察するに、自分の行動がどのような結果を生むかわからぬまま、何者かの指示通り動いているらしい。
(ネッバス先生って『王立学園の聖女』でも小者扱いだったしな。王太子殿下に対する謀略って知ってたら、絶対に怖気づくものね)
だが、私の言動によって、自分が何に加担させられていたのかわかったはず。それを証明するように、ネッバスはよろけながらも立ち上がり、
「わ、わたしはこの辺で失礼するとしよう」
そう言って、お茶会の会場から立ち去っていった。
私はふぅと吐息を漏らす。
(とりあえずこんなところかしらね。ネッバス先生って小心者だし、これでこの件から手を引いてくれたらいいんだけど)
後は私の考えや今のネッバス先生とのやり取りをボイドに伝え、王宮のしかるべき部署に動いてもらえば、裏で糸を引く人物が炙り出せるかもしれない。
「ゲームには出ていなかったけど、王位継承権を狙う第二王子とかいんのかなぁ。
私っていうイレギュラーな存在が悪役令嬢の取り巻きになったから、本来起こるべきイベントのシナリオが書き変わってるとか……?」
そこまで思い悩んだところで、私はブンブンと頭を振った。
せっかくファビラスな世界に浸るためにお茶会を開いたというのに、さっきから気苦労ばかりだ。
私はこのモヤモヤとした空気をいったんリセットしようとトイレに――あら。はしたないですわ。
お花摘みに出かけたのだった。
「シエザ・ローリント。滅多なことを口にすべきではない」
「ええ、そうですね。私も滅多なことが起きなければいいと、そう考えての発言です。
ネッバス先生も、もし洞窟でヒーシスの身に何か起こっていたら、ただでは済まなかったでしょう?」
「わたしが魔法薬を使って魔物を呼び寄せたとでも言いたいのか?」
「まさか! どうしてそんなことを仰るんです? 私は単に、引率者として責任を取らされていただろうと言ってるだけですよ。
それとも何か後ろ暗いことでもあるんですか?」
「何を馬鹿なことを」
私とネッバスは互いに探り合うような視線を交わす。
(うーん。基本的に無表情だし、常に顔色悪いから動揺しているかどうかもよくわかんないわね。仕方ない、もう少し踏み込んでみるか)
そう考えた私は、さらに言葉を続けた。
「もう一つお尋ねしたいことがあるのですが。ネッバス先生は『影牙』という傭兵団をご存知ですよね?」
「……さてな。どこかで耳にしたかもしれないが」
「いやいや、ご存知ないはずないじゃないですか。だって先生、魔法薬の研究のために、ご禁制の品をいくつか『影牙』から買い取ってるでしょう?
あの傭兵団、盗賊まがいのことも平気でしてるし、そういう取引は日常茶飯事ですよね」
「!?」
さすがに表情が動いた。
私がいま口にした情報は、『王立学園の聖女』内で語られることであり、本来なら誰も知り得ないものだ。
ネッバスとしては、たかが一生徒がなぜそんなことをと、戦々恐々となっていることだろう。
私は畳み掛けるように言った。
「その『影牙』が、殿下に対してよからぬ企てをしているのではないかという噂があるんです。
しかもこの学園で事を起こす気らしく、学園にいる協力者から見取り図まで手に入れているとか」
「馬鹿な、あれがそんなことに使われるはずが!」
そこまで口にしたところで、ネッバスは自分の失言に気付いたらしく、慌てて口を噤んだ。
(あーらら。思ったよりも簡単にボロを出したわね。少し迂闊すぎない、この先生)
まあ、だからこそ色々な人間に利用されるわけだろうけど。
やはりネッバスはこの世界において策動キャラであるようだ。しかも今の発言から察するに、自分の行動がどのような結果を生むかわからぬまま、何者かの指示通り動いているらしい。
(ネッバス先生って『王立学園の聖女』でも小者扱いだったしな。王太子殿下に対する謀略って知ってたら、絶対に怖気づくものね)
だが、私の言動によって、自分が何に加担させられていたのかわかったはず。それを証明するように、ネッバスはよろけながらも立ち上がり、
「わ、わたしはこの辺で失礼するとしよう」
そう言って、お茶会の会場から立ち去っていった。
私はふぅと吐息を漏らす。
(とりあえずこんなところかしらね。ネッバス先生って小心者だし、これでこの件から手を引いてくれたらいいんだけど)
後は私の考えや今のネッバス先生とのやり取りをボイドに伝え、王宮のしかるべき部署に動いてもらえば、裏で糸を引く人物が炙り出せるかもしれない。
「ゲームには出ていなかったけど、王位継承権を狙う第二王子とかいんのかなぁ。
私っていうイレギュラーな存在が悪役令嬢の取り巻きになったから、本来起こるべきイベントのシナリオが書き変わってるとか……?」
そこまで思い悩んだところで、私はブンブンと頭を振った。
せっかくファビラスな世界に浸るためにお茶会を開いたというのに、さっきから気苦労ばかりだ。
私はこのモヤモヤとした空気をいったんリセットしようとトイレに――あら。はしたないですわ。
お花摘みに出かけたのだった。
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