正しい悪役令嬢の育て方

犬野派閥

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第十九話 お茶会ですわ④

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(キュロットは悪辣なお嬢様じゃないってことを証明するには……そうだ! アルエが天真爛漫に働いてるとこ見れば、変な噂も立たないはず!)

 私は祈るような気持ちでアルエの姿を目で追った。
 アルエは純朴な笑顔を振りまきながら生徒たちの座るテーブルを回り、かいがいしく給仕している。

「これはシフォンケーキだべ。ほっぺ落ちるほど美味しいからたくさん召し上がってくんろ。
 あっ、紅茶のお代わりだべか。すぐお持ちするっぺ」

 ……おお。安定のなまり全開。
 侯爵家の格式にこだわらず、方言を聞き咎めることなくありのまま自由にメイドを働かせているとなれば、キュロットは心の広いお嬢様となるはず。

(アルエ、グッジョブ! そのまま元気に明るく給仕を続けて!)

 私がエールを送るなか、アルエはティーポットを手にテーブルを回っていく。

 とそのとき、手掛けていたスイーツが完成したのだろう。オロンが配膳を頼むためアルエに近付き、そこで不眠不休の疲れが出たか、足をもつれさせる。

 オロンが咄嗟に伸ばした腕がアルエの背中を押すような格好となった。
 その拍子にアルエの手からティーポットが離れ、テーブルで軽薄な笑みを浮かべていたルフォートに熱々の紅茶をぶっかける。

「ほあっぢょう! あぢょぢょぢょぢょ!」

 それまでの涼し気なイケメンはどこへやら。ルフォートは奇声を発して椅子から落ち、床でゴロゴロと転げ回る。

「やばっ! 白銀よ埋め尽くせ、ホワイトブリザード!」

 私は咄嗟に、魔力を抑えた暴雪魔法を唱えた。雪が一瞬にしてルフォートの身を半分ほど埋め尽くす。

「ルフォート、大丈夫!?」

 私が駆け寄ると、ルフォートは寒さに身を震わせながらも応じる。

「だ、大丈夫だよハニー。水も滴るいい男とは言うけれど、まさか雪も滴る美男子が見たかったのかい? いけない仔猫ちゃんだ」

「この状況でけっこう余裕あるわね!?」

 もうここまできたらプロ根性である。
 とにかく、大事に至らなくてよかった。そう思いつつアルエの方を窺うと、アルエは自分の仕出かしたミスに怯え、雪まみれのルフォートよりもガタガタと身を震わせている。

 私が何か言うよりも先に、アルエは私の身体にすがりつき、必死の形相で訴えてくる。

「おおおお嬢様、勘弁してくんろ! クビだけは! クビだけは許してくんろ!
 給仕もろぐにできずに田舎に帰らされたとなっだら、おっとうとおっかあに申し訳が立だね!」

「ちょっ、別にクビになんて……」

 わたしが戸惑っていると、そのやりとりを見ていたクラスメイトがひそひそ声で言う。

「おい、あれどういうことだ? キュロット様主催のお茶会だし、侯爵家のメイドだろ?
 何でシエザ様に訴えてるんだ?」

「きっとキュロット様が怖すぎて、一番のご親友であるシエザ様に助命を嘆願されているのよ」

「キュロット様は何を……うわ。何かブツブツ一人で呟いてるぞ」

「処刑方法を考えてらっしゃるに違いないわ。なんて恐ろしい……」

 悪役令嬢まっしぐら!
 お茶会でキュロットの好感度上がるはずだったのに、悪役令嬢補正でもかかってんの!?
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