正しい悪役令嬢の育て方

犬野派閥

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第十八話 聖女の動向①

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「ふぃ~。ただいまー」

 私がローリント家の邸宅に戻ると、すぐさまメイドのアルエが出迎えてくれた。

「お帰りなさいまし、お嬢様。今日もお疲れのご様子だっぺ」
「ん、まあね。学園の授業もけっこうハードだし、キュロット関連で色々と魔力を消費するから。アルエ、また部屋でマッサージお願いできる?」
「お安い御用だべ。あぁ、だどもその前に、旦那さまがお帰りだす。先にご挨拶された方がいいんじゃないべか」
「お父様が?」

 玄関ホールをふと見やると、ボイドが奥の扉からちょうど姿を現したところだった。隣には母のマーレーもいる。

 ボイドは私を目にすると破顔し、両腕を大きく広げて駆け寄ってくる。

「おお、愛しき我が娘よ! 元気にしていたか?」

 そのままハグをしようとするボイドの腕をするりとかわすと、私は何事もなかったように一礼する。

「お帰りなさいお父様。お元気そうで何よりです」

 ボイドは公務で辺境の村へと出かけていたため、会うのは一週間ぶりである。
 とはいえ、私は私で学園での生活に忙殺されていたため、ボイドが留守にしていることをここ数日は失念していた。
 まあ、年頃の娘を持つ父親というのはどの世界でもそんなもんである。

 ボイドは眉尻を下げ、捨てられた子犬……もとい。リストラされた哀愁漂うサラリーマンのような風情で言う。

「うう、シエザが冷たい。お父さんはお仕事頑張ってきたというのに。ママ、ひどいと思わないか?」
「あなた、そんなことよりお土産は?」

 お母様けっこうエゲつないっすね。
 元のシエザの性格、たぶんお母様譲りっすね。

 そんな一家団欒の場に、「あのお……」と、遠慮がちなアルエの声が響いた。
 私たちがアルエを見やると、彼女は申し訳無さそうに口を開く。

「旦那さま。お話中のところ失礼しますだ。あんのぉ、わだすのおっとうとおっかあは元気にしてただべか?」

 いったい何の話だろう?
 私が怪訝な顔をしていると、マーレーが端的に言う。

「お父さんはアルエのご実家であるランド男爵家に行っていたの。男爵から気になる報告が上がってきたからって」
「ああ、そういえばアルエは男爵家の末っ子だって言ってたわね」
「んだ。男爵位があるとは言っでも、昔からの貴族ではないんだどもな。
 代々モンスター専門の狩人で、マユル村近辺のモンスターを討伐してたら、その功績が認められて男爵位とマユル村の統治を任されるようになっただ。
 おっとうは今でも狩りに出てるし、貴族とは名ばかりの田舎者だべ」
「そんなに卑下することないじゃない。モンスター退治って重要な仕事よ。それで男爵位をもらうって立派だし、そのマユル村の人達も助かって……」

 うん?

(狩り? 男爵? マユル村? 何かどっかで聞いたような単語ばかり並んでんだけど)

 記憶を手繰った私は、やがてはたと思い至る。

「ああっ、思い出した! マユル村ってヒロインの生まれ故郷だ! それじゃあ、狩りの途中で魔物に襲われた男爵って、アルエのお父さん!?」
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