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第十二話 バトります③
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「でもでも、私達も負けてないわよね。キュロットの縦ロール整えるために毎朝小一時間ほど繊細な魔法操作してるから、けっこう地力がついてるのよ。
私は前より魔力量増えてるし、ルフォートは魔法の持続力が上がってるから、連続で戦闘になっても戦えてるでしょ? ブラドだって――」
「僕は何もしてない!」
急に大声を出され、私はビクッと首をすくめた。
ブラドは後悔するように微かに口を開くが、そこから次の言葉が発せられることはなく、ただ悲しげに目を伏せてしまう。
(び、びっくりした。もしかしてブラド、さっきの戦闘のこと気にしてんのかな?)
確かにブラドの放ったファイアボルトは骸骨兵の盾に阻まれてしまった。そのせいで遅れを取り、危うい場面を作ってしまったことを恥じ入っているのだろう。
しかし、私の見解は全く異なる。
ブラドは近衛騎士団の長を代々務める伯爵家の子息ということもあって、戦闘で輝くのは魔法ではなく、練達の剣技である。
もちろん『王立学園の聖女』で魔法も扱っていたが、それは剣での近接戦闘を補完する形の広域魔法ばかりだった。
要するにブラドの戦闘スタイルは、相手が少数ならば懐に飛び込んで剣技で圧倒し、多数の場合は破壊力に特化した爆炎魔法で敵を一掃するというもの。
(だからむしろ、味方を巻き込まないよう、あれだけ魔力をセーブしたファイアボルト撃ったことに驚いたんだけど。
もしかしたらブラドが一番の成長株かもしれないんだけどなぁ……)
そのことを伝えてあげたいのだが、ここは『王立学園の聖女』というゲームの世界で、本来ならできないはずの魔力操作を行えている――なんてことを話せるはずもない。
さてどう慰めたものかと頭を悩ませていると、先ほどの大きな声に何事かと思ったのだろう。少し離れた場所にいたキュロットが、心配そうに問いかけてきた。
「どうしたのですか? 何か問題でも?」
「な、何でもないよ!」
そう答えたのはブラドだ。
ブラドは微かに滲んだ涙を袖口で拭いながら、キュロットたちの方に戻ろうとする。
と、その時だ。ブラドのすぐ側、デスワームが掘ったであろう横穴に、キラリと光るものが見えた。
最初は見落としていた魔鉱石の輝きかと思ったが、その推測はすぐさま否定された。光跡を描いて迫ってくるのは、デスワームの牙である。
「ブラド!」
咄嗟にブラドに抱きつき、一緒になって地面を転がった。さっきまで私たちがいた空間を、デスワームの牙が穿つ。
安堵する間もなく、私達の周囲の岩盤が音を立てて砕け、中から複数のデスワームが、鎌首をもたげるように顔を覗かせる。
「嘘でしょう!? 近くにまだこれだけいたの!」
すぐさま臨戦態勢に入ろうとしたが、その直後、足元で地鳴りが起こった。岩盤に大きな亀裂が幾筋も走ったかと思うと、不意に身体が沈み込むような感覚に襲われる。
デスワームの群れが空けた穴のせいで、洞窟の一部が崩落した!
そう悟った時には、私の身体は既に深い縦穴へと落下していた。すぐ側には私と同じ運命を辿るブラドと、崩落に巻き込まれた何匹かのデスワームの姿がある。
私は前より魔力量増えてるし、ルフォートは魔法の持続力が上がってるから、連続で戦闘になっても戦えてるでしょ? ブラドだって――」
「僕は何もしてない!」
急に大声を出され、私はビクッと首をすくめた。
ブラドは後悔するように微かに口を開くが、そこから次の言葉が発せられることはなく、ただ悲しげに目を伏せてしまう。
(び、びっくりした。もしかしてブラド、さっきの戦闘のこと気にしてんのかな?)
確かにブラドの放ったファイアボルトは骸骨兵の盾に阻まれてしまった。そのせいで遅れを取り、危うい場面を作ってしまったことを恥じ入っているのだろう。
しかし、私の見解は全く異なる。
ブラドは近衛騎士団の長を代々務める伯爵家の子息ということもあって、戦闘で輝くのは魔法ではなく、練達の剣技である。
もちろん『王立学園の聖女』で魔法も扱っていたが、それは剣での近接戦闘を補完する形の広域魔法ばかりだった。
要するにブラドの戦闘スタイルは、相手が少数ならば懐に飛び込んで剣技で圧倒し、多数の場合は破壊力に特化した爆炎魔法で敵を一掃するというもの。
(だからむしろ、味方を巻き込まないよう、あれだけ魔力をセーブしたファイアボルト撃ったことに驚いたんだけど。
もしかしたらブラドが一番の成長株かもしれないんだけどなぁ……)
そのことを伝えてあげたいのだが、ここは『王立学園の聖女』というゲームの世界で、本来ならできないはずの魔力操作を行えている――なんてことを話せるはずもない。
さてどう慰めたものかと頭を悩ませていると、先ほどの大きな声に何事かと思ったのだろう。少し離れた場所にいたキュロットが、心配そうに問いかけてきた。
「どうしたのですか? 何か問題でも?」
「な、何でもないよ!」
そう答えたのはブラドだ。
ブラドは微かに滲んだ涙を袖口で拭いながら、キュロットたちの方に戻ろうとする。
と、その時だ。ブラドのすぐ側、デスワームが掘ったであろう横穴に、キラリと光るものが見えた。
最初は見落としていた魔鉱石の輝きかと思ったが、その推測はすぐさま否定された。光跡を描いて迫ってくるのは、デスワームの牙である。
「ブラド!」
咄嗟にブラドに抱きつき、一緒になって地面を転がった。さっきまで私たちがいた空間を、デスワームの牙が穿つ。
安堵する間もなく、私達の周囲の岩盤が音を立てて砕け、中から複数のデスワームが、鎌首をもたげるように顔を覗かせる。
「嘘でしょう!? 近くにまだこれだけいたの!」
すぐさま臨戦態勢に入ろうとしたが、その直後、足元で地鳴りが起こった。岩盤に大きな亀裂が幾筋も走ったかと思うと、不意に身体が沈み込むような感覚に襲われる。
デスワームの群れが空けた穴のせいで、洞窟の一部が崩落した!
そう悟った時には、私の身体は既に深い縦穴へと落下していた。すぐ側には私と同じ運命を辿るブラドと、崩落に巻き込まれた何匹かのデスワームの姿がある。
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