正しい悪役令嬢の育て方

犬野派閥

文字の大きさ
上 下
35 / 106

第九話 そのアイテムは!④

しおりを挟む
 私は笑みを零す。

「よし、決まりね!」

 シエザのステータスも魔力量の低さは気になるところだったから、これで多少はレベルアップするに違いない。
 それに、こういった共同作業のイベントを経ると、キャラ同士の親密度も上がったはず。
 私はモブなので関係ないだろうが、キュロットが二人と仲良くなれば、私の地位も今以上に盤石となるだろう。

 着々と人生イージーモードの道を歩んでいるという手応えにほくそ笑んでいると、

「ローリント伯爵家のシエザ嬢はいるだろうか?」

 と、どうやら私のことを探している様子の声が耳に入ってきた。
 何だろうと教室の入口を見やれば、そこにはヒーシスの姿がある。
 ヒーシスは私の姿を認めると、気品溢れる笑みを零してやってきた。

「このクラスだったか。見つかってよかった」
「殿下、いったいどうして……」

 そう問いを放ちかけたが、私の抱く疑問よりも重要なことに思い至り、すぐさま言った。

「あぁ、ちょうどよかった! 殿下にお見せしたいものがあったんです!」
「! 何と、シエザもわたしにもう一度会いたいと、そう思ってくれていたのだな!」
「ええもちろん。お呼び立てする手間が省けました」
「そうかそうか! それで見せたいものとは?」
「ふっふっふっ。こちらです、どうぞ!」

 そう言うなり私は半歩横にズレて、背後に隠れるような位置にいたキュロットを押しやった。
 キュロットとヒーシスは婚約者同士。キュロットは豪奢かつ麗美な縦ロール姿を見てもらいたいだろうし、ヒーシスも彼女の麗しい姿を目前にすればきっと心躍ることだろう。

 キュロットは虚をつかれた様子で目をぱちくりさせたあと、私の方をちらりと見やり、なぜだか少し不満げにぷくぅと頬を膨らませてみせた。

「うん? どうしたの?」
「何でもありませんわ!」

 キュロットはふいっと顔を反らしてヒーシスに向き直ると、制服のスカートを軽く摘んで優雅に一礼してみせた。

「ご機嫌麗しゅう、殿下」

 ヒーシスは目を丸くしてキュロットの縦ロール姿を眺めていたが、やがてはたと我に返る。

「何と言うか……懐かしい姿だな。幼少の頃以来か、その髪型は」
「はい。殿下が髪をいたわってくださいましたのに、勝手に元の髪型に戻してしまい申し訳ありませんわ」
「気にすることはない。よく似合っている」
「ありがとうございます」

 ……うーん。思ってたような反応と違うな。
 二人とも照れてんのかな?

 釈然としないでいると、ヒーシスがそっと私の方へと近付いてきた。
 自分の身体でキュロットからの死角を作るようにすると、密やかな声で訊いてくる。

「わたしに会いたかった理由というのは、キュロットの髪型のことだろうか?」
「ええ、そうですけど」
「そうか……」

 より可愛くなったキュロットに会えたというのに、ヒーシスはなぜだか瞳を翳らせている。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

王弟転生

BL / 完結 24h.ポイント:163pt お気に入り:101

絶対防御とイメージ転送で異世界を乗り切ります

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:119

馬鹿でもいいよ

青春 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

ラッキーアイテムお題短編集7

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

婚約破棄された悪役令嬢は今日も幸せです。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:17

マイナス転生〜国一番の醜女、実は敵国の天女でした!?〜

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:896

わたしは忘れても、あなたは忘れないでいる。

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:5

処理中です...