正しい悪役令嬢の育て方

犬野派閥

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第五話 王太子殿下④

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「ええと……“どんな一面を持っていようと関係ありません。薔薇を美しいと感じ取るその澄んだ心こそ、あなたの本質なのだと私は理解していますから”」

 私のその発言に、ヒーシスはハッと息を飲んで押し黙った。
 まあ、それも当然だろう。ひた隠しにしていたであろう一面を晒したというのに、全てを受け止めるような台詞が、何のてらいもなく返ってきたのだ。私の覚えはめでたいはず。

(……ん? というか今の台詞って、王子ルートに入るための重要な選択肢だったような)

 ゲームを進めていくと、ヒーシスが王族という重責に負け、ヒロインの前で弱音を零すシーンがある。その際に、バックガーデンでの出会いを引き合いに出して、ヒロインがヒーシスを勇気付けるのがまさに今の台詞だ。

(これ、私がヒロインのフラグ折っちゃったりしてないわよね?)

 うーん……。
 まっ、大丈夫だろう。
 何たって私、単なるモブだし!

 そう結論付けた私は、ボロを出さないうちに立ち去るべく動いた。まだどこか心ここにあらずといったふうで、私のことを見つめ返してくるヒーシスに、

「それでは、私はこれで」

 そう端的に告げ、踵を返して駆け出した。
 ヒーシスがとっさに声をかけようとしたのを感じ取り、指をパチンと鳴らし、氷の薔薇を瞬時に細かな氷晶へと返す。

 ダイヤモンドダストのような煌めきが辺りを舞った。その輝きに溶け込むようにして走り去りながら、私はこうも思う。

(あぁ、ヒロインもこんな感じだったな。花びらが舞う中で、足早に立ち去るんだっけ。王子はその美しさに見惚れて声をかけることも忘れちゃう的な)

 うーん。
 これ、本当にヒロインのフラグ折ったりしてないか?
 あるいは変な分岐点を作ってないか?

 ……ま、大丈夫か!
 だって私モブだし!!
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