正しい悪役令嬢の育て方

犬野派閥

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第五話 王太子殿下②

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 もっと色々と試してみたい。そう考えた私は、試行錯誤しながら魔法を使っていく。
 どうやら氷魔法は大気中の水分を凍らせているらしい。ただこの方法だと魔力の消費が激しいようで、魔法を使う度に軽い疲労感を覚えた。
 対して噴水の水を凍らせるのは省エネで、魔力消費を抑えられる分、集中力を他のことに割けるため、自分のイメージした通りの結晶を生み出すことも可能だった。

「あ、コツ掴めてきたかも。こりゃ楽しいわ」

 精密な氷の彫刻まで作れるようになった私は、氷の薔薇を次々と精製していった。花壇一面を氷の薔薇で埋め尽くそうと、一心不乱に魔法を使っていたその時だ。背後でガサッと物音がした。

 慌てて振り返った私は、そこに思いがけない人物を目にし、ポカンと口を開ける。
 月光を連想させるような輝く銀髪に、線のほっそりとした流麗な容貌。立っているだけで気品というものが香水のようにまとわりついているような、そんな美少年の姿がそこにあった。
 私は喘ぐように声を零す。

「ヒーシス王太子殿下……」

 ドミタニア王国の第一王子、ヒーシス・ドミタニア。
 キュロットの婚約者であり、つまるところ彼女の破滅フラグの鍵を握る、目下のところ最重要人物といえるメインキャラクターである。

 まさかのヒーシスの登場に私は焦った。モブとはいえ私は伯爵家の令嬢。王太子殿下に非礼を働こうものなら、どんな末路が待っているかわかったものではない。

(うわ参ったな。まだキュロットと親交すらできてないのに。まさか王子とエンカウントしちゃうなんて)

 ヒーシスの相手はキュロットに一任して、私は取り巻きらしく、安全圏で穏当な学園生活をエンジョイする予定なのだ。ここはうまく立ち回らなければ。
 ヒーシスはヒーシスで、こんな寂しい場所に人がいるとは思っていなかったらしい。言葉を探すような間を挟んだあと、静かな眼差しで口を開く。

「驚かせてしまって済まない。こちらから変わった魔力の波動が感じられてね。その薔薇は君が咲かせたのだろうか?」
「はい、あの、勝手なことをしてしまって申し訳ありません。花の精霊たちがひどく寂しがっていたので……」

 スラスラと紡いだ自分の言葉に私は違和感を覚えた。
 はて、花の精霊とはいったい何を言っているのだろう。私は氷魔法を試してみたくて、氷の薔薇をせっせと作っただけだというのに。
 そこまで考えたところで、ハッと思い至った。

(そうだ! 今の台詞、ヒロインが王子と初めて交わした会話だ!)

 聖魔法を使って薔薇を咲かせたヒロインに興味を抱き、ヒーシスが声をかけてくる……といったことから二人の交流は始まるのだ。
 下手な対応は取れないと焦るあまり、私はヒロインの台詞を丸パクリしてしまったらしい。
 ヒーシスは少し驚いたように眉を上げた。

「君は花の精霊と交流できるのか」
「いや、そのぉ……」
「少し話がしたい。隣いいだろうか」

 そう言うと、ヒーシスは返事も待たずに私の横にやってきた。
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