14 / 106
第五話 王太子殿下②
しおりを挟む
もっと色々と試してみたい。そう考えた私は、試行錯誤しながら魔法を使っていく。
どうやら氷魔法は大気中の水分を凍らせているらしい。ただこの方法だと魔力の消費が激しいようで、魔法を使う度に軽い疲労感を覚えた。
対して噴水の水を凍らせるのは省エネで、魔力消費を抑えられる分、集中力を他のことに割けるため、自分のイメージした通りの結晶を生み出すことも可能だった。
「あ、コツ掴めてきたかも。こりゃ楽しいわ」
精密な氷の彫刻まで作れるようになった私は、氷の薔薇を次々と精製していった。花壇一面を氷の薔薇で埋め尽くそうと、一心不乱に魔法を使っていたその時だ。背後でガサッと物音がした。
慌てて振り返った私は、そこに思いがけない人物を目にし、ポカンと口を開ける。
月光を連想させるような輝く銀髪に、線のほっそりとした流麗な容貌。立っているだけで気品というものが香水のようにまとわりついているような、そんな美少年の姿がそこにあった。
私は喘ぐように声を零す。
「ヒーシス王太子殿下……」
ドミタニア王国の第一王子、ヒーシス・ドミタニア。
キュロットの婚約者であり、つまるところ彼女の破滅フラグの鍵を握る、目下のところ最重要人物といえるメインキャラクターである。
まさかのヒーシスの登場に私は焦った。モブとはいえ私は伯爵家の令嬢。王太子殿下に非礼を働こうものなら、どんな末路が待っているかわかったものではない。
(うわ参ったな。まだキュロットと親交すらできてないのに。まさか王子とエンカウントしちゃうなんて)
ヒーシスの相手はキュロットに一任して、私は取り巻きらしく、安全圏で穏当な学園生活をエンジョイする予定なのだ。ここはうまく立ち回らなければ。
ヒーシスはヒーシスで、こんな寂しい場所に人がいるとは思っていなかったらしい。言葉を探すような間を挟んだあと、静かな眼差しで口を開く。
「驚かせてしまって済まない。こちらから変わった魔力の波動が感じられてね。その薔薇は君が咲かせたのだろうか?」
「はい、あの、勝手なことをしてしまって申し訳ありません。花の精霊たちがひどく寂しがっていたので……」
スラスラと紡いだ自分の言葉に私は違和感を覚えた。
はて、花の精霊とはいったい何を言っているのだろう。私は氷魔法を試してみたくて、氷の薔薇をせっせと作っただけだというのに。
そこまで考えたところで、ハッと思い至った。
(そうだ! 今の台詞、ヒロインが王子と初めて交わした会話だ!)
聖魔法を使って薔薇を咲かせたヒロインに興味を抱き、ヒーシスが声をかけてくる……といったことから二人の交流は始まるのだ。
下手な対応は取れないと焦るあまり、私はヒロインの台詞を丸パクリしてしまったらしい。
ヒーシスは少し驚いたように眉を上げた。
「君は花の精霊と交流できるのか」
「いや、そのぉ……」
「少し話がしたい。隣いいだろうか」
そう言うと、ヒーシスは返事も待たずに私の横にやってきた。
どうやら氷魔法は大気中の水分を凍らせているらしい。ただこの方法だと魔力の消費が激しいようで、魔法を使う度に軽い疲労感を覚えた。
対して噴水の水を凍らせるのは省エネで、魔力消費を抑えられる分、集中力を他のことに割けるため、自分のイメージした通りの結晶を生み出すことも可能だった。
「あ、コツ掴めてきたかも。こりゃ楽しいわ」
精密な氷の彫刻まで作れるようになった私は、氷の薔薇を次々と精製していった。花壇一面を氷の薔薇で埋め尽くそうと、一心不乱に魔法を使っていたその時だ。背後でガサッと物音がした。
慌てて振り返った私は、そこに思いがけない人物を目にし、ポカンと口を開ける。
月光を連想させるような輝く銀髪に、線のほっそりとした流麗な容貌。立っているだけで気品というものが香水のようにまとわりついているような、そんな美少年の姿がそこにあった。
私は喘ぐように声を零す。
「ヒーシス王太子殿下……」
ドミタニア王国の第一王子、ヒーシス・ドミタニア。
キュロットの婚約者であり、つまるところ彼女の破滅フラグの鍵を握る、目下のところ最重要人物といえるメインキャラクターである。
まさかのヒーシスの登場に私は焦った。モブとはいえ私は伯爵家の令嬢。王太子殿下に非礼を働こうものなら、どんな末路が待っているかわかったものではない。
(うわ参ったな。まだキュロットと親交すらできてないのに。まさか王子とエンカウントしちゃうなんて)
ヒーシスの相手はキュロットに一任して、私は取り巻きらしく、安全圏で穏当な学園生活をエンジョイする予定なのだ。ここはうまく立ち回らなければ。
ヒーシスはヒーシスで、こんな寂しい場所に人がいるとは思っていなかったらしい。言葉を探すような間を挟んだあと、静かな眼差しで口を開く。
「驚かせてしまって済まない。こちらから変わった魔力の波動が感じられてね。その薔薇は君が咲かせたのだろうか?」
「はい、あの、勝手なことをしてしまって申し訳ありません。花の精霊たちがひどく寂しがっていたので……」
スラスラと紡いだ自分の言葉に私は違和感を覚えた。
はて、花の精霊とはいったい何を言っているのだろう。私は氷魔法を試してみたくて、氷の薔薇をせっせと作っただけだというのに。
そこまで考えたところで、ハッと思い至った。
(そうだ! 今の台詞、ヒロインが王子と初めて交わした会話だ!)
聖魔法を使って薔薇を咲かせたヒロインに興味を抱き、ヒーシスが声をかけてくる……といったことから二人の交流は始まるのだ。
下手な対応は取れないと焦るあまり、私はヒロインの台詞を丸パクリしてしまったらしい。
ヒーシスは少し驚いたように眉を上げた。
「君は花の精霊と交流できるのか」
「いや、そのぉ……」
「少し話がしたい。隣いいだろうか」
そう言うと、ヒーシスは返事も待たずに私の横にやってきた。
0
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
使えないと言われ続けた悪役令嬢のその後
有木珠乃
恋愛
アベリア・ハイドフェルド公爵令嬢は「使えない」悪役令嬢である。
乙女ゲームの悪役令嬢に転生したのに、最低限の義務である、王子の婚約者にすらなれなったほどの。
だから簡単に、ヒロインは王子の婚約者の座を得る。
それを見た父、ハイドフェルド公爵は怒り心頭でアベリアを修道院へ行くように命じる。
王子の婚約者にもなれず、断罪やざまぁもされていないのに、修道院!?
けれど、そこには……。
※この作品は小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。
悪役令嬢の独壇場
あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。
彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。
自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。
正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。
ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。
そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。
あら?これは、何かがおかしいですね。
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~
白金ひよこ
恋愛
熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!
しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!
物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?
転生したら攻略対象者の母親(王妃)でした
黒木寿々
恋愛
我儘な公爵令嬢リザベル・フォリス、7歳。弟が産まれたことで前世の記憶を思い出したけど、この世界って前世でハマっていた乙女ゲームの世界!?私の未来って物凄く性悪な王妃様じゃん!
しかもゲーム本編が始まる時点ですでに亡くなってるし・・・。
ゲームの中ではことごとく酷いことをしていたみたいだけど、私はそんなことしない!
清く正しい心で、未来の息子(攻略対象者)を愛でまくるぞ!!!
*R15は保険です。小説家になろう様でも掲載しています。
悪役令嬢予定でしたが、無言でいたら、ヒロインがいつの間にか居なくなっていました
toyjoy11
恋愛
題名通りの内容。
一応、TSですが、主人公は元から性的思考がありませんので、問題無いと思います。
主人公、リース・マグノイア公爵令嬢は前世から寡黙な人物だった。その為、初っぱなの王子との喧嘩イベントをスルー。たった、それだけしか彼女はしていないのだが、自他共に関連する乙女ゲームや18禁ゲームのフラグがボキボキ折れまくった話。
完結済。ハッピーエンドです。
8/2からは閑話を書けたときに追加します。
ランクインさせて頂き、本当にありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ
お読み頂き本当にありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ
応援、アドバイス、感想、お気に入り、しおり登録等とても有り難いです。
12/9の9時の投稿で一応完結と致します。
更新、お待たせして申し訳ありません。後は、落ち着いたら投稿します。
ありがとうございました!
めんどくさいが口ぐせになった令嬢らしからぬわたくしを、いいかげん婚約破棄してくださいませ。
hoo
恋愛
ほぅ……(溜息)
前世で夢中になってプレイしておりました乙ゲーの中で、わたくしは男爵の娘に婚約者である皇太子さまを奪われそうになって、あらゆる手を使って彼女を虐め抜く悪役令嬢でございました。
ですのに、どういうことでございましょう。
現実の世…と申していいのかわかりませぬが、この世におきましては、皇太子さまにそのような恋人は未だに全く存在していないのでございます。
皇太子さまも乙ゲーの彼と違って、わたくしに大変にお優しいですし、第一わたくし、皇太子さまに恋人ができましても、その方を虐め抜いたりするような下品な品性など持ち合わせてはおりませんの。潔く身を引かせていただくだけでございますわ。
ですけど、もし本当にあの乙ゲーのようなエンディングがあるのでしたら、わたくしそれを切に望んでしまうのです。婚約破棄されてしまえば、わたくしは晴れて自由の身なのですもの。もうこれまで辿ってきた帝王教育三昧の辛いイバラの道ともおさらばになるのですわ。ああなんて素晴らしき第二の人生となりますことでしょう。
ですから、わたくし決めました。あの乙ゲーをこの世界で実現すると。
そうです。いまヒロインが不在なら、わたくしが用意してしまえばよろしいのですわ。そして皇太子さまと恋仲になっていただいて、わたくしは彼女にお茶などをちょっとひっかけて差し上げたりすればいいのですよね。
さあ始めますわよ。
婚約破棄をめざして、人生最後のイバラの道行きを。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ヒロインサイドストーリー始めました
『めんどくさいが口ぐせになった公爵令嬢とお友達になりたいんですが。』
↑ 統合しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる