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ガラスの靴
⑥
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エライザとルミアが応接室を後にすると、気まずい沈黙が部屋に満ちた。
とはいえ、所在ない思いを感じているのは、私と、アディフが連れてきた靴職人だけといった様子だ。
アディフは平然としたもので、まるで自分の部屋でくつろいでいるかのように泰然としている。
やがてアディフがおもむろに口を開いた。
「つまらん気苦労があったようだな。ダンスをしていた時のお前らしくもない。解決する術はいくらでもあったように思うが」
「お言葉を返すようですが、言うほど簡単にはいきかねます。そういった運命のもとに生まれたのでしょう」
そしてそういったキャラだったからこそ、転生したければこのリリアンテの運命を覆してみせろと、女神たちの賭けに付き合わされることとなったのだ。
私の返答がお気に召さなかったらしく、アディフはしかめっ面になる。
「気に食わんな。運命はいかようにも切り開けると啖呵を切ったのはお前だろう」
アディフの言うことは最もだ。私もそう信じるからこそ、こうして必死に運命に抗っている。
だが……。
私は床に投げ出されたままのダンスヒールにふと目をやった。
人の心は靴とは違い、簡単に修繕できはしない。運命を巡るループに耐えかね、いつかポキリと心が折れてしまうことがあるかもしれない。これが自分の命運だったのだと、死を受け入れるその時が。
私が黙り込んでいると、アディフが平坦な口調で問いかけてきた。
「……そのダンスヒールはお前のものではなかったのだな。サイズも合っていないのか」
「はい。履けはしますが、私には少しキツイですね。私もサンドリヨンではないようです」
苦笑するように告げると、アディフは傍らにいる靴職人を見やった。
「聞いた通りだ。採寸して新しいダンスヒールを作ってやれ」
私は驚き、アディフをまじまじと見つめた。
「お待ち下さい、殿下。折れたヒールを直していただいただけで充分です。新しくもう一足など……」
「お前のものだと思い直させたが、ろくに履けもしない別人のものだったとなればいい笑い者だ。構わん、黙って受け取れ」
「ですが……」
なおも断ろうとすると、アディフは舌打ちし、怒っているような、それでいてどこか決まりが悪そうな表情で続けた。
「次の舞踏会で俺と踊るためのダンスヒールだ。こちらで用意して何が悪い」
「えっ」
ダンスに誘ってくれているのだと気付くのに少々時間が掛かってしまった。
どう反応すべきか戸惑っていると、アディフの言葉を実行するためテキパキと準備を整える靴職人が口を開く。
「リリアンテ様、こちらの椅子に座っていただけますか。採寸いたしますので、この台に足を置いていただいて」
ここで靴作りを断れば、王太子殿下からのダンスのお誘いを蹴ったことになってしまう。そんな非礼はできないし、何より、昨夜のダンスはとても素敵で楽しいひと時だった。
私は言われるまま椅子に腰かけ、台に足を乗せるが、まだ一つ、どうしても気がかりなことがある。
(殿下はあの噂、ご存知ないのかしら)
とはいえ、所在ない思いを感じているのは、私と、アディフが連れてきた靴職人だけといった様子だ。
アディフは平然としたもので、まるで自分の部屋でくつろいでいるかのように泰然としている。
やがてアディフがおもむろに口を開いた。
「つまらん気苦労があったようだな。ダンスをしていた時のお前らしくもない。解決する術はいくらでもあったように思うが」
「お言葉を返すようですが、言うほど簡単にはいきかねます。そういった運命のもとに生まれたのでしょう」
そしてそういったキャラだったからこそ、転生したければこのリリアンテの運命を覆してみせろと、女神たちの賭けに付き合わされることとなったのだ。
私の返答がお気に召さなかったらしく、アディフはしかめっ面になる。
「気に食わんな。運命はいかようにも切り開けると啖呵を切ったのはお前だろう」
アディフの言うことは最もだ。私もそう信じるからこそ、こうして必死に運命に抗っている。
だが……。
私は床に投げ出されたままのダンスヒールにふと目をやった。
人の心は靴とは違い、簡単に修繕できはしない。運命を巡るループに耐えかね、いつかポキリと心が折れてしまうことがあるかもしれない。これが自分の命運だったのだと、死を受け入れるその時が。
私が黙り込んでいると、アディフが平坦な口調で問いかけてきた。
「……そのダンスヒールはお前のものではなかったのだな。サイズも合っていないのか」
「はい。履けはしますが、私には少しキツイですね。私もサンドリヨンではないようです」
苦笑するように告げると、アディフは傍らにいる靴職人を見やった。
「聞いた通りだ。採寸して新しいダンスヒールを作ってやれ」
私は驚き、アディフをまじまじと見つめた。
「お待ち下さい、殿下。折れたヒールを直していただいただけで充分です。新しくもう一足など……」
「お前のものだと思い直させたが、ろくに履けもしない別人のものだったとなればいい笑い者だ。構わん、黙って受け取れ」
「ですが……」
なおも断ろうとすると、アディフは舌打ちし、怒っているような、それでいてどこか決まりが悪そうな表情で続けた。
「次の舞踏会で俺と踊るためのダンスヒールだ。こちらで用意して何が悪い」
「えっ」
ダンスに誘ってくれているのだと気付くのに少々時間が掛かってしまった。
どう反応すべきか戸惑っていると、アディフの言葉を実行するためテキパキと準備を整える靴職人が口を開く。
「リリアンテ様、こちらの椅子に座っていただけますか。採寸いたしますので、この台に足を置いていただいて」
ここで靴作りを断れば、王太子殿下からのダンスのお誘いを蹴ったことになってしまう。そんな非礼はできないし、何より、昨夜のダンスはとても素敵で楽しいひと時だった。
私は言われるまま椅子に腰かけ、台に足を乗せるが、まだ一つ、どうしても気がかりなことがある。
(殿下はあの噂、ご存知ないのかしら)
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