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第十八話 それは早すぎる

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「うーん。どうしようかなぁ……」

 俺が腕を組んで頭を悩ませていると、じいちゃんがフォッフォッと笑って話しかけてきた。

「どうしたんじゃ、蓮。小難しい顔をして。テストで悪い点でも取ったのか?」

「そんなんじゃないよ。ただ、ちょっと困ってて」

「ほう。いったい何があったんじゃ。じいちゃんに話してみなさい」

 俺は少し躊躇ったあと、今日学校で起こったことを語った。

「今日俺、国語の教科書を持ってくの忘れちゃってさ。仕方ないから隣と席をくっつけて、教科書見せてもらったんだ」

「ほう。優しい子じゃのう。隣の席には誰がおるのかの?」

「えと……唯奈ちゃん」

 俺がぶっきら棒に名前を伝えると、じいちゃんは何かを察したように、にんまりと笑みを浮かべた。

「ほおお。そうかそうか。唯奈ちゃんというのか」

「な、何だよ」

「いやいや、わしは何も言うとらんぞ。フォッフォッ。初々しくていいのう。
 それで、困ったことというのは何じゃ? もしかして、その唯奈ちゃんに関係することかの?」

 何だか意地の悪い問いかけにムッとしたものの、困ったことを解決するのが先だ。
 俺は素直にうなずくと話を続ける。

「そうなんだ。教科書見せてもらったし、何かお礼をしようと思ってさ」

「ほう、プレゼントか。その年でそんなことに頭を悩ませるとは、さすがじいちゃんの孫じゃ。将来はプレイボーイ間違いなしじゃな。カッカッカッ!
 とはいえまだ小学生。プレゼントは鉛筆やハンカチといった、普段使いできるものでいいのでは……」

「違うよじいちゃん。話は最後まで聞かないと駄目じゃん」

 先生によく言われる台詞で叱ると、じいちゃんは目をぱちくりさせた。

「何じゃ、プレゼントに悩んでおるのではないのか」

「うん。お礼はもうしたんだけど、そのことで困ってて」

「どういうことじゃ? お礼は何をしたのかの?」

「んとね、これだよ。じいちゃんに教えてもらったやつ」

 俺はそう言って、手指でさわりと、空気を優しく撫でるような動作をしてみせた。
 思った通り、その一挙動でじいちゃんはすべてを悟ったらしい。ただ予想外だったのは、じいちゃんの顔色がサッと変わったことだ。

 じいちゃんはゴクリと唾を飲み込むと、恐る恐るといった様子で聞いてくる。

「その手の動きは……もしや『よがり刷毛』か?」

「うん、そう。ちょうど机の中に、次の授業で使う筆が入ってたからさ。
 教科書見せてくれたお礼にと思って、授業中に唯奈ちゃんのウィークポイント・ロードの首筋をさわわって撫でてあげたんだ」

「蓮のスキルを駆使して、しかも授業中にじゃとお!? なんて恐ろしいことを!
 唯奈ちゃんは!? 唯奈ちゃんは無事じゃったのか!?」

 じいちゃんは俺の両肩をガシッと掴み、必死の形相でそう聞いてくる。
 俺は洋画の俳優を真似て、肩をすくめるとハァとため息をついた。

「それがさ、唯奈ちゃん、授業中なのに変な奇声をあげちゃって。あれにはまいったよ」

「奇声じゃと? いったいどんな?」

「んとね、『おっほぉぉっ!?』とか、『らめえっっ!!』とか叫んでた」

 それを聞いた瞬間、じいちゃんが唯奈ちゃんに負けず劣らずの大音声で叫ぶ。

「いかーん! 小学生がそんな声あげちゃいかーん!!」

「だよね。授業中だし、皆に迷惑だよね」

「そういうことじゃないんじゃ! 何というか、目覚めるのが早すぎるというか!」

「えっ、巨神兵の話してる?」

「全然違うのう! そんな話はしとらんのう!」
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