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第十六話 放っておけない

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 アシュミーが見えなくなってしまうと、俺ははぁとため息をつき、未だ残る光の盾をコンコンと拳で叩いた。
 これも魔法の一種なのだろう。かなり丈夫そうな代物だ。

 俺が盾を観察していると、相談窓口が詳しい説明を入れてくれる。

〈お客様、それは魔法障壁『ホーリーシールド』でございます。
 ある程度の威力までなら、直接攻撃も魔法攻撃も防いでくれる優れものです〉

「へえ、すごいな。こんなもんまで扱えたのか」

 そんなやりとりをしていると、魔法の効果が切れたらしく、ホーリーシールドが掻き消える。

 セリスが腰に手を当てて聞いてきた。

「引き止めなくてよかったの? 仲間に誘うつもりだったんでしょう?」

「そりゃまあ、そうなんだけどさ。冒険者が嫌になったんなら、無理強いもできないしな」

 田舎に戻って教会勤務。それは刺激は少ないだろうが、アシュミーにとってベストな生き方かもしれないのだから。

 そんなことを考え押し黙っていると、セリスが呆れ顔を浮かべて言った。

「レンって鈍いわね。それとも異世界の人間はみんな鈍感なの?」

「鈍いって、何がだよ?」

「アシュミーはベビーヒュドラとの戦いで、さっきのホーリーシールドを一度も使わなかったわ。
 ゴルドフたちも防御の援護を求めなかったし、アシュミーは回復魔法しか使えないって、そう思ってたのよ」

 セリスの言う通り、アシュミーは戦闘時にホーリーシールドを一度も使っていない。

 ゴルドフたちもアシュミーの回復魔法については言及していたが、防御魔法のことには触れてもいなかった。
 アシュミーの再就職先として、俺たちのパーティーに編入することを期待していたのなら、アピールポイントとして伝えていてもおかしくないというのに。

 俺は顎に手をやり、ううむと唸る。

「セリスの言う通りかもしれないな。でも、何で防御魔法も使えるってこと隠してたんだ?
 ホーリーシールド使ってれば、ベビーヒュドラとの戦いももっと簡単だったのに」

「だから、それが狙いだったのよ。苦戦して、みんながある程度痛い目にあえるようにしていたの。
 仲間と冒険の醍醐味を味わうために、自分の実力を隠していたのよ、彼女は」

 ……ええぇー。迷惑ー。
 普通に考えたら迷惑ー。

 しかし、この世界では美徳とされるようで、セリスはふっと口元を緩める。

「そんなことをできる人はそうそういないわ。田舎に帰るなんて言語道断。冒険者はアシュミーの天職よ」

「はあ。そうなんすか」

 俺は気のない返事をしたあと、ふと訊ねた。

「んじゃ何でセリスはさっき引き止めなかったんだよ。俺と一緒に説得してくれたらいいだろ」

 そう深い理由はないだろうと投じた問いかけだったが、セリスはぐっと喉をつまらせて沈黙する。

 もしかしてアシュミーを仲間に引き入れることに反対なのだろうか。
 俺がそんな不安を覚え始めたとき、セリスは躊躇いがちに口を開く。

「ええと……レンはアシュミーを仲間に加えたいのよね?」

「そりゃあな。セリスは嫌なのか?」

「そんなことはないわ。アシュミーが仲間になってくれたら心強いし。
 ただその、レンがアシュミーを仲間に加えたい理由をはっきりさせたいっていうか……」

「うん? 後衛に回復してくれる仲間欲しいって話はギルドに行く前にしてたろ?」

「そうなんだけど! そうじゃなくて!!」

 セリスはなぜだか怒っているように頬を膨らませると、上目遣いに俺のことを見やる。
 そして、微かに不安の滲む瞳でこう問いかけてきた。

「本当に、それだけの理由なの? アシュミーはその、か、可愛いし。それに、出るところは出てるっていうか……」
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