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第十四話 共闘

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 ベビーヒュドラの中央の頭が高く持ち上がったかと思うと、そのまま斧でも振り下ろすような、力任せの頭突きの一撃がゴルドフめがけて放たれる。


「よおぉし、来おおぉいっ!」


 大盾を構えるゴルドフの筋肉が盛り上がり、身体が一回りほど大きくなった。
 次の瞬間、鈍い激突音が鳴り響き、渾身の力で頭突きを受け止めたゴルドフの足が、僅かに地面にめり込む。


(うわ、真正面から受け止めやがった! ゴルドフ大丈夫か!?)


 歯を食いしばって耐えたゴルドフの口角が、ニィッと上がる。
 ゴルドフはぶるりと身震いすると、歓喜の声を上げた。


「くうぅ、効っくうぅ! 痺れるうぅぅ!
 これだこれ! これぞ至上のご褒美よ! 人間相手じゃこうはいかんわ!!」


 うん、大丈夫そうだ。
 というか、心配するだけ損な気がする……。

 安堵ではなく、諦めのため息をついていると、セリスの警告が飛んだ。


「よそ見しないで! 攻撃くるわよ!」


 ベビーヒュドラに視線を戻した刹那、鋭利な牙が俺めがけて急襲してきた。


「おっと」


 俺はサイドステップでその一撃をかわすと同時に、すれ違いざまによがり刷毛でベビーヒュドラの首筋を撫でる。
 ベビーヒュドラの頭の一つは、弱いところを的確に責められ、酔ったようにヘロヘロと力をなくした。

 ゴルドフたちから死角になるよう刷毛を扱ったため、単に攻撃をかわしただけと映ったらしい。
 ゴルドフは豪快に笑って言った。


「ガハハ、いい動きをするじゃないか! 俺の目に狂いはなかったな!」

「そいつはどうも」


 ベビーヒュドラが苛立つように連続攻撃に出た。首をムチのように振るって襲いかかるが、セリスはそれを空中でとんぼ返りを打って難なく回避。

 感嘆するようにヒュウッと口笛を吹いたヤズが、負けじと曲芸のような身ごなしを披露し、間一髪でベビーヒュドラの攻撃をさばく。


「今のは危なかったぜ!
 だがこの、触れるか触れないかでかわすのが、一番股間がゾクゾクして癖になるんだ!」

「うそ、そうなの?」

「あんた身ごなしは一級品だが、そこんとこわかってないみたいだな!
 冒険者としてはまだまだだぜ!!」

「勉強になるわ」


 はいそこ、セリスに変なこと教えないように。
 セリスも変態の言葉に耳を貸しちゃいけません。

 俺が二人の会話に気を取られていると、ボキッという鈍い音が響く。
 何事かと見やれば、ユズが右腕を押さえてうずくまっていた。
 どうやらベビーヒュドラの攻撃をまともに食らったようで、右腕は骨折したのかあらぬ方に曲がっている。


「クッ、しくじったぜ。痛え、痛えよ……
 あぁでもコレ、ちょっと気持ちいい。痛気持ちいい……ハァハァ」


 何か興奮してません?
 息荒いけど戦闘の息切れだよね? 怖いから確認しないけど合ってるよね?

 そのとき、後方に控えていたアシュミーが動いた。
 彼女はユズに駆け寄ると、ロッドを骨折した箇所へと押し当てる。
 アシュミーの口から紡がれるのは、澄明な旋律の呪文。


「万物に宿りし生命の理よ、この者を癒やしをもって諭せ。ヒール!」


 アシュミーの全身が優しい光に包まれ、それがロッドを伝ってユズの腕へと移動していった。
 すると骨折していた箇所が見る間に治っていき、赤黒く腫れていた腕に血色が戻る。

 初めて回復魔法を目の当たりにした俺は、オオッと歓声を上げた。


「すげえな。あっという間に元通りじゃないか!
 アシュミー、やっぱ前のパーティは見る目がなかったんだよ! めちゃくちゃ役立ってるじゃん!」


 治療を受けたユズからも感謝と称賛の言葉が掛かれば、アシュミーの自信にも繋がることだろう。
 俺は催促するようにユズをちらりと見やる。

 腕を曲げ伸ばしして骨折の回復具合を確かめていたユズが、俺の視線にはたと気付いた。
 ユズには俺の意図もしっかり伝わったようだが、なぜか複雑な表情をうかべ、言葉も端切れが悪い。


「あ、ああ。とても助かってるよ、ほんと……」

「?」


 俺は違和感を覚えるが、戦闘の最中だからと結論づけ、意識をベビーヒュドラに戻す。

 そこから先の戦いも、防戦一方という様相を呈することになった。
 ゴルドフたちが取る連携は見ていてためになる部分もあったが、いかんせんドMの性癖が邪魔となり、ダメージを受けて喜ぶばかりで、反撃らしい反撃をしないのだ。
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