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第十一話 新スキル

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 そう応じたセリスだったが、なにか言いたげな眼差しを寄越してくる。

「ん? どした?」
「その……新スキルの『よがり刷毛』で弱点がわかるのよね?
 後学のためというか。敵に弱点を攻撃されて大ダメージを受けないよう、今のうちに私も自分の弱い部分を知っておいたほうがいいんじゃないかって」
「それってつまり、よがり刷毛を自分にも使って欲しいってことか?」

 俺の確認の言葉に、セリスは慌てたように早口になる。

「へ、変な意味に取らないでよ!? 別に自分の性癖を満たしたいとか、そういうわけじゃなくて!
 あくまで自分の弱点を知ってレベルアップするために!」
「ふぅん。ちなみに俺、スキル使わなくても相手の弱点、何となくわかるんだけど」

 そう言って、よがり刷毛のスキルを解除しようとすると、それを察したのだろう。セリスは刷毛を握る手をガシッと掴み、真剣な目で訴えてくる。

「スキルって、使えば使うほど練度が増すでしょう?
 せっかく有益なチャンスがあるのだから、使わない手はないと思うの……!」

 もう必死じゃーん。
 絶対に自分の性癖を満たすためじゃーん。

 そうは思ったものの、セリスが刷毛でよがる姿を夢想すると、背筋がゾクゾクっとするものがあった。

「……わかった。それじゃスキルを使うから、そのままじっとしてろよ?」

 その台詞に、セリスが歓喜とも怯えともつかない身じろぎをする。
 俺は刷毛をゆっくりと持ち上げた。そのまま焦らすように、セリスの耳たぶの裏側に毛先を持っていく。

「そ、そこが私の」
「黙ってろ」

 冷淡に、有無を言わせぬ口調でつげると、セリスが息を呑んで押し黙る。
 瞬間、よがり刷毛がセリスの肌に触れた。セリスがビクッとのけぞり、条件反射のように口が微かに開く。
 そこから悲鳴にも似た声が漏れかけるが、俺が言ったことを健気に守るつもりらしく、セリスは自らの手で口を覆った。

「はあ……んっ」

 俺は目元を緩めると、目顔で「いい子だ」と伝え、さらに刷毛を移動させていく。
 耳たぶの裏側から顎の下へ。首筋をくすぐるように撫でる。

 セリスの息遣いが荒くなってきた。それでも俺は構わず、刷毛をさらに下へともっていく。
 刷毛の毛先はセリスの衣服に達したが、セリスはいま亀甲縛りの状態にあり、衣服と地肌がタイトに密着している。
 そのため刷毛の感触がはっきりと伝わるらしく、抵抗するようにいやいやと首を振った。

 俺はもちろん、その訴えを却下する。
 よがり刷毛はセリスの鎖骨をつつつと這い、そこからゆっくりと南下、確かなふくらみのある箇所へと愛撫の手を伸ばす。

「はっ、あ……」

 セリスの口から熱い吐息が漏れた。瞼がギュッと閉じられ、目尻に微かな涙が滲む。
 よがり刷毛がふくらみを舐めるように進み、その突端へと達する瞬間。

 俺は弾かれたように背後を振り返った。木立や枝葉がうっそうと茂る空間をじっと睨みつける。
 そんな俺の様子を不審に感じたらしく、相談窓口が声をかけてきた。

〈お客様、何か問題でも?〉
「いま誰かがこっちを見てた気がする」
〈わたくしは気付きませんでしたが。お客様の思い違いではありませんか?〉
「それならいいんだが……」

 不穏な空気にあてられて不安になったのか、セリスが二の腕をさすった。
 セリスは辺りを見渡しながら、微かに震える声で言う。

「今の見られてたってことは……私、視姦されていたの?」
「俺そこまで言ってなくね? んで若干嬉しそうじゃね?」

 俺はハァとため息をつくと、気を取り直して話を続けた。

「きっと俺の勘違いだな。あと、セリスの弱点はそこな」

 スキルで触れたため、セリスのウイークポイントである左脇腹が光を帯びていた。

「ここが私の弱点なのね。私は右利きだし、左側の防御には確かに隙が生まれるかもしれないわ」
「そこまでわかれば充分だろ。後はレベル上げ頑張らなきゃな」
「ええ、そうね」

 俺は次のバトルに備え、その場で軽く柔軟体操を行う。
 するとそこへ、相談窓口がそっと近寄ってきて耳打ちした。

〈お客様……〉
「何も言うな」
〈承知いたしました〉

 相談窓口は心得たもので、何事もなかったようにその辺をふよふよと漂う。

 そうだ。余計なことは言わなくていい。
 セリスの弱点が左脇腹だと気付いていながら、乳首を責めようとしていたことなど。
 言うだけ無粋ではないか……。
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