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第十話 遊び道具

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「あーあ、つまんないー。つまんないなー」

 学校が終わり、いつものようにじいちゃんの家で迎えを待つ間、俺は相変わらず暇を持て余していた。
 そんな俺を見て、じいちゃんが小首を傾げて問いかけてくる。

「どうしたんじゃ? 暇つぶしできるよう、先日あやとりを教えたばかりじゃろう。もう飽きてしまったのか?」
「そうじゃないんだけどさ。あやとりは先生に禁止されちゃったんだ」
「あやとりが禁止? そんな馬鹿な。いったい何があったんじゃ、詳しく話してみなさい」

 じいちゃんが真剣な眼差しでそう訊いて来たので、俺は学校であったことをかいつまんで話す。

「じいちゃんが教えてくれたあやとりの技に、亀甲縛りってあったでしょ?」
「う、うむ。何かいきなり嫌な予感がするのう」
「友達にあの技を見せてあげたら、皆すごいすごいって褒めてくれて。皆にもやり方を教えてあげたんだ」
「な、なるほど。じゃが、あれはあくまであやとり。それだけで禁止になったのか?」
「ううん。ほら、じいちゃんが応用編だって言って、ロープでマネキンを亀甲縛りにする方法を教えてくれたじゃん。
 あれも皆に伝えたら、クラスで亀甲縛りが流行っちゃって」

 その言葉を聞いたじいちゃんが、不意に眉間を押さえて唸った。
 俺は心配になって声をかける。

「どうしたのじいちゃん。頭痛いの?」
「ああ、確かに頭痛がしてきたの。じゃが大丈夫じゃ。続きを聞かせておくれ」
「うん。クラスの皆、あやとりの毛糸で消しゴムを亀甲縛りにしてみたり、ランドセルにつけたクマのマスコットを亀甲縛りにしたりして遊んでたんだ。
 それでね、もっと大きなものも亀甲縛りにできるよって言ったら、みんな見たい見たいって騒ぎ出して。
 仕方ないから、理科室にある人体模型を縄跳びの縄で亀甲縛りにしてみせたんだよ」

 俺はその時のことを思い出す。
 じいちゃんとの特訓の成果が発揮され、まるで生き物のように動く縄。
 わずか三分で完成する、非の打ち所のない亀甲縛り。
 その神業を目の当たりにしたクラスメイトたちは、縛り上げられた人体模型から「あはん♡」という声が漏れるのを聞いたとか聞かなかったとか。

「すごく上手に亀甲縛りができたからさ、人体模型を縛ったままにしてたんだ。
 そうしたら、それを見つけた先生たちが職員会議を開いて。
 あやとりで亀甲縛りの練習してるクラスがあるって話になって、あやとり禁止になっちゃったんだ。ヒドイと思わない?」

 同意してくれるとばかり思っていたが、じいちゃんはなぜか頭を抱え込んで、

「あぁ、まあ、しかしのう……」

 と、煮え切らない返事をするばかり。
 俺は口を尖らせ、不満をあらわにした。

「あーあ、つまんないー。ねえじいちゃん、何か他に面白い遊び道具とかないの?
 学校で使ってても取り上げられたりしないやつとかさ」
「そうじゃのう。学校で使うものが代用品になるような道具ならあるが、また問題にでもなったら事じゃし……」
「うああぁ、つまんないぃぃ! だったらまた亀甲縛りして遊ぶうぅ!
 今度は学校にある二宮金次郎の銅像を亀甲縛りにしてやるうぅぅ!!」
「わ、わかった! わかったからそれは止めなさい! 勤勉な人を緊縛の人に変えるのは止しなさい!!」

 じいちゃんはそう告げると、押し入れの中をガサゴソと探り、やがて何か手に持って戻ってきた。
 じいちゃんが握っていたのは、棒の先端にタンポポの綿毛のようなものがついた道具だ。

「じいちゃん、何それ?」
「これはの、『よがり刷毛』じゃ。わかりやすい名称だと、『くすぐり棒』とも言うの」
「あ、わかった! 先っぽについてるふわふわしたやつでくすぐるんだ!」
「ふぉっふぉっ。その通りじゃ。くすぐりあって遊ぶくらいなら、先生たちもうるさいことは言わんじゃろう。
 この『よがり刷毛』も、これ自体を学校に持っていくと問題になるじゃろうが、普段使っている文房具で代用できるからの」
「文房具で……?」

 俺は頭をひねり、学校で使っている文房具を次々と思い浮かべる。
 やがてある物が浮かんだ俺は、パチンと指を鳴らして言った。

「そうか! 図工の時間に使う絵筆なら、よがり刷毛の代わりになるね!」

 自信を持っての解答だったが、じいちゃんは立てた人差し指をチッチッチッと左右に振る。

「甘いな、蓮。今のは引っ掛け問題じゃよ。
 確かに絵筆の先でくすぐればよがり刷毛の代わりになるじゃろう。
 しかし、柔らかい毛先を持たないものでも、ソフトタッチで弱い部分を的確に撫でれば、相手をよがらせることは可能なんじゃ。覚えておくがよい」
「そうなんだ! すごいやじいちゃん!」

 俺が尊敬の眼差しでじいちゃんのことを見つめていると、玄関の方で「おーい、蓮くん。帰るぞー」という声がした。

「あっ、父ちゃんが迎えに来た!」
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