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第七話 どうぞ!

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 さすが王都シェザートというべきか、街並みは華やかで活気に満ちていた。
 中世ヨーロッパを思わせるレンガ造りの家が軒を連ね、石畳の通りを馬車が行き交う。
 広場には露店が並んで小規模な市場ができており、呼び込みの声や談笑が至るところから響いていた。

「うわ、スゲェな。ゲームの世界にでも迷い込んだみたいだ」
「ちょっと、そんなにキョロキョロしないでよ。田舎者丸出しで恥ずかしいでしょ」

 そう言いつつも、セリスはくすくすと笑っている。唐突な追放劇で野に下ったものの、つい先刻まで王女さまだったのだ。王家が治める街に愛着と誇りがあるのだろう。

「そんなこと言ったって、物珍しいんだから仕方ないだろ。
 というか、俺よりセリスの方が目立ってもおかしくないと思うんだけど。王女さまなわけだし」
「元ね。別に不思議じゃないわよ。第三王女なんて民衆の前に大々的に出ることはないもの。いつも隅っこに立って大人しくしてるだけ。
 それに何より、お父様がどうしても衆目を集めちゃうから」
「あー、なるほど……」

 そだね。何たって裸だもんね。そっちに目がいっちゃうよね。
 というか、よくクーデター起きないね。

 そんなことを考えつつ、俺はセリスに促されるまま、路地裏にある店に足を踏み入れた。
 どうやら武器や防具を扱う店らしく、ランプの薄暗い灯りに照らされ、壁に陳列された盾や剣が鈍い光を放っている。

 来客の気配を察したらしく、奥から人影が現れた。スキンヘッドに、巌のようなゴツゴツとした筋肉。口元は不機嫌そうに固く引き結ばれ、まさしく武具屋の主人といった風格の人物だ。

「こちらはタグシさん。以前はお城で武具の調整をする職人さんとして働いていたの。
 今はこうして、小さいながらもお店を経営してて、お城にも商品をいくつか卸しているのよ」
「小さいは余計だ。
 ……連れの小僧、妙な格好をしているな。そいつが例の異世界人か」
「さすが情報が早いわね」
「今じゃそっちが本業みたいなもんだからな。お前さんが置かれた状況も、ついさっき小耳に挟んだんだが……」

 タグシは情報屋のようなこともしているらしい。小耳に挟んだというのは、セリスの廃嫡の件だろう。
 セリスは少し困ったような顔をして押し黙った。その沈黙で察したらしく、タグシは素っ気なく言う。

「まあ、生きてりゃ色々とあるもんだ。あまり気にしないことだ。
 それで、今日はなんの用件だ?」
「レンに合いそうな装備を見繕って欲しいの。
 それと、調べて欲しいことが一つ。聖地で戦闘が起きたこと、もう知ってるわよね?」
「ああ。ゴブリンとオークが出たらしいな」
「そうなの。聖地に張られた結界が破られたわけだけど、知能の低いオークたちにできる芸当じゃないわ。何が原因なのか調べて欲しいの」
「確かに、言われてみれば妙な話だ。
 わかった。誰かさんが勝手に儀式をしたせいで警備も厳しくなってるだろうし、少し時間はかかるだろうが、調べておこう」
「よろしくお願いね」

 二人の話は終わったらしく、タグシが俺をクイクイと指で招いた。
 タグシは俺の両肩に手を置いたり、腰回りを手で測ったりしながら言う。

「華奢な身体付きだな。鎧を身に着けたことはあるか?」
「いや、ないっす」
「だろうな。これならセリスと同じような動きやすさ重視の装備が妥当だろう」

 タグシはそう言うと、サイズの合う旅装を用意してくれた。
 胸元には申し訳程度の革製の胸当てを装着。革ベルトに道具袋などを吊り、冒険者風の装いができあがる。

「武器もろくに扱ったことないだろう。お守り代わりにナイフでも持っておくか?」
「うーん……いや、止めときます。日本には生兵法は大怪我のもとっていうことわざがあるんで。
 今からナイフ振るうより、スキルを最大限に活用できる工夫したほうが良さそうだ」
「なるほど。女神の加護を受けたスキルがあるなら、そっちの練度を上げたほうがいいかもな。
 レンっていったな。若いわりに、自分の状況をよくわかってるじゃねえか。
 後はそっちにあるブーツで気に入ったのを選びな。俺からの選別代わりだ。サービスしといてやる」
「ありがとうございます!」

 いかつい顔をしているが、根はいい人のようだ。
 俺は気に入ったブーツを履くと、具合を確かめるようにつま先で床をトントンと叩く。
 するとタグシか、いそいそといった様子で床に寝転がった。いったい何をしているのかと小首を傾げていると、セリスがああと声を上げ、俺に向かってこう言った。

「レンがいた日本にはない風習なのね。
 こっちでは新しい靴を買ったときは、履き心地を確かめるために店主を踏むものなの。だから……どうぞ!」
「どうぞ! じゃねえよ!? 何が悲しくてこのいかついオッサン踏まなきゃなんねえの!?」

 俺は準備万端といった態勢で寝転がるタグシを見やった。
 タグシはカッと目を見開いて声を上げる。

「どうしたレン! そのブーツは選別代わりと言ったろう!
 俺とともに、ブーツの代金踏み倒していきな!!」
「上手いこと言ってんじゃねえ!!」

 ガスッ!!

「おっほぉ! きっくうぅぅ!!」
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