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第六話 旅立ち

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「信じられないわ。ありえない。せっかくの地下牢暮らしを断った挙げ句、私と行動を共にするなんて。レンはよっぽど変わり者なのね」

 玉座の間を後にするや否や、セリスはそうまくし立てた。
 しかし、口は悪いものの、その表情はどこか嬉しげだ。皆の前では気丈に振る舞っていたが、やはり城を出て一人ぼっちになるのは不安で仕方なかったのだろう。

 俺は密かに笑みを零しつつ言った。

「まあまあ、いいじゃないか。王様に話した通り、俺には俺の目的があるんだし。
 セリスだって、魔族と戦うのなら、俺が傍にいたほうが都合がいいだろ? 元々そのつもりで召喚したんだし」
「それはそうだけど……レンは本当にそれでいいの? 私は恨まれても仕方ないことをしたのに」
「うーん。過ぎたことはしょうがないし、正直、異世界での冒険ってやつにワクワクしてる部分もあるんだよな。
 じいちゃんのせいで中二病こじらせた時期もあったし」

 まあ、AV監督は賢者とは似ても似つかないものだったし、SM業界は異世界の別称でも何でもなかったわけだが。
 それでも、じいちゃんが教えてくれたスキルで、いつか世界を救うんだと、幼い頃の俺は本気で思っていたのだから。

 しかし事情を知らないセリスは、小首を傾げて言った。

「ふうん。中二病っていう病気は聞いたことがないからわからないけど、要するに見知らぬ土地に来てテンションが上がってるってことね。
 私も旅行は好きだし、その気持ちは共感できるわ」
「ちょっと違う気もするけど、まあそれでいいか。
 んで、まずはこれからどうするんだ? 俺はこっち来たばっかで右も左もわからないし、セリスの方針に従うぞ」
「そうね。お城にはいられなくなっちゃつたけど、王都シェザートの外れに別邸があるの。
 そこは私個人の所有物だし、自由に使えるから、とりあえずの拠点にして今後のことを話し合いましょう」
「おお、そりゃ助かるな。街も見て回りたいし」
「いいわ、案内してあげる。
 それと、レンの服装もどうにかしなきゃね。その格好だと心許ないし、何より目立つもの」

 確かにモンスターが跋扈する世界で、日本の普段着というのはいただけない。周囲から浮いている服装でもあるだろう。
 だが……。

「俺、当然だけどこっちで使えるお金とか持ってないけど」
「それなら大丈夫よ」

 セリスはそう言うと、懐から光沢のある赤い綺麗な石を取り出した。

「これは魔結晶といって、モンスターの核となる結晶よ。上質なものは高値で取引されるし、通貨の代わりにもなるの。
 オークを倒した記念に取っておいたんだけど、これがあればしばらくは生活できるし、必要なものを買い揃えるぐらいできるわ」

 なるほど。モンスターのドロップアイテムか。
 ドMばかりのとんでもない世界に召喚されたと悲観していたが、こういったところはラノベなどに出てくる異世界と似通っているらしい。

 俺の安堵が伝わったのだろう。セリスは一つ頷き、

「それじゃ行きましょう」

 と、旅立ちの一歩を踏み出した。
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