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第五話 裸の王様
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玉座の間が騒然となった。家臣たちが恐怖の表情を浮かべると共に、思い思いの言葉を買わす。
ロニオスが場を収めるため、よく通る声で告げた。
「みな静まれ。今のは可能性の話に過ぎん。
レンよ。すまないが、帰還の儀に関しては、今は有益な答えを返すことができそうにない。
不安に思うことはあろうが、今しばらく時間をくれ。何か方策がないか、各国の賢人にも知恵を借りられるよう手配しておこう」
ロニオスの言葉にまともな返事をすることもできず、俺はかろうじて一つ頷く。頭の中を巡るのは、最悪の予感ばかり。
(嘘だろ? 今の感じだと俺ってもしかして、本当に十年もこの世界に足止めされるのか?)
サァッと血の気が引いていく音すら聞こえそうだった。
よほどひどい顔色をしていたのだろう。ロニオスは同情するような眼差しをたたえたあと、俺の隣りにいるセリスに、キッと鋭い視線を向ける。
「セリス!」
一喝するように名前を呼ばれたセリスは、びくっと首をすくめて顔を上げた。
ロニオスはセリスに対し、冷ややかな口調で告げる。
「……とんでもないことをしてくれたな。自分がいまどういった状況に置かれているのかわかっているのか?」
「ですがお父様、私は異世界の勇者を……」
「まだそんな世迷い言を言っておるのか!」
ロニオスはセリスの言葉をピシャリと遮った。年頃の娘の前で裸でいるドMだが、そこはやはり一国の王。有無を言わせぬ迫力がある。
しばらく日本に戻れないかもという衝撃に沈みながらも、俺は二人の会話に違和感を覚える。
俺はセリスの言葉にあった通り、一応は勇者のポジションにいるはず。
エンアポスに調和をもたらす勇者を招いた功績は、褒められこそすれ、責め立てられるいわれはないように思える。
それに、世迷い言とバッサリ切り捨てるというのは、いったいどういうことなのだろうか。
俺の疑念をいち早く察したらしいセリスが、形のいい唇をキュッと噛みしめ、訥々と語る。
「残念だけど、異世界の勇者は一般的には単なるお伽噺として扱われているの」
「お伽噺? いや、だったら何で一国の王女が『ご利用は計画的に』って言ってる女神の力を借りてまで召喚の儀を……」
そこまで口にしたところではっとなった。
俺はすぐさま玉座の間を見渡し、セリスと共に洞窟にいた騎士、あるいは魔道士の姿を探す。
ゴブリンとの戦闘で怪我をした者は治療中かもしれないが、中には軽症で済んだり、無傷の者もいたはず。
そういった者たちは、儀式を無事に終え、セリスの身も守り通したということで、国王から労いの言葉くらいかけられて然るべきだ。
ところが、玉座の間には洞窟で見かけた騎士や魔道士は、誰一人としていなかった。
ロニオスが嘆くように頭を振ると、溜め息まじりに告げる。
「君の推察どおりだ。今回の召喚の儀は、セリスの独断で行われたもの。
セリスの口車に乗って協力した者たちは、何らかの処罰を待つ身となっている」
「なっ……!」
俺は思わずセリスのことをまじまじと見やる。
セリスは協力してくれた者たちの身を案じてか、固く拳を握り締めていた。
しかし、その瞳には後悔の色はない。ここで自らの行動を悔いては、それこそ全てが無駄になるとばかりに、逆にロニオスを射抜くような眼差しで見やる。
「私は成すべきことをしたまでです。このまま魔族の増長を許せば、必ずや世界は未曾有の危機に陥る。
それを回避するためにも、勇者レンの召喚は必要不可欠だったと考えます」
そう言葉を締めると、セリスは俺のことをひたと見据えた。
「……何も知らないあなたを巻き込んでしまってごめんなさい。でもね、私たちはレンに縋るより他になかったの。それだけは理解して欲しい」
俺は言うなれば被害者の部類に入ることだろう。セリスに怒りを覚えるのが妥当だ。
しかし、ひたむきなセリスを前にして俺が抱いたのは感慨だった。美しい景色を目にした際に言葉を失ってしまうのと同様に、セリスに見入ってしまい、悪感情の生まれる余地がない。
ロニオスが場を収めるため、よく通る声で告げた。
「みな静まれ。今のは可能性の話に過ぎん。
レンよ。すまないが、帰還の儀に関しては、今は有益な答えを返すことができそうにない。
不安に思うことはあろうが、今しばらく時間をくれ。何か方策がないか、各国の賢人にも知恵を借りられるよう手配しておこう」
ロニオスの言葉にまともな返事をすることもできず、俺はかろうじて一つ頷く。頭の中を巡るのは、最悪の予感ばかり。
(嘘だろ? 今の感じだと俺ってもしかして、本当に十年もこの世界に足止めされるのか?)
サァッと血の気が引いていく音すら聞こえそうだった。
よほどひどい顔色をしていたのだろう。ロニオスは同情するような眼差しをたたえたあと、俺の隣りにいるセリスに、キッと鋭い視線を向ける。
「セリス!」
一喝するように名前を呼ばれたセリスは、びくっと首をすくめて顔を上げた。
ロニオスはセリスに対し、冷ややかな口調で告げる。
「……とんでもないことをしてくれたな。自分がいまどういった状況に置かれているのかわかっているのか?」
「ですがお父様、私は異世界の勇者を……」
「まだそんな世迷い言を言っておるのか!」
ロニオスはセリスの言葉をピシャリと遮った。年頃の娘の前で裸でいるドMだが、そこはやはり一国の王。有無を言わせぬ迫力がある。
しばらく日本に戻れないかもという衝撃に沈みながらも、俺は二人の会話に違和感を覚える。
俺はセリスの言葉にあった通り、一応は勇者のポジションにいるはず。
エンアポスに調和をもたらす勇者を招いた功績は、褒められこそすれ、責め立てられるいわれはないように思える。
それに、世迷い言とバッサリ切り捨てるというのは、いったいどういうことなのだろうか。
俺の疑念をいち早く察したらしいセリスが、形のいい唇をキュッと噛みしめ、訥々と語る。
「残念だけど、異世界の勇者は一般的には単なるお伽噺として扱われているの」
「お伽噺? いや、だったら何で一国の王女が『ご利用は計画的に』って言ってる女神の力を借りてまで召喚の儀を……」
そこまで口にしたところではっとなった。
俺はすぐさま玉座の間を見渡し、セリスと共に洞窟にいた騎士、あるいは魔道士の姿を探す。
ゴブリンとの戦闘で怪我をした者は治療中かもしれないが、中には軽症で済んだり、無傷の者もいたはず。
そういった者たちは、儀式を無事に終え、セリスの身も守り通したということで、国王から労いの言葉くらいかけられて然るべきだ。
ところが、玉座の間には洞窟で見かけた騎士や魔道士は、誰一人としていなかった。
ロニオスが嘆くように頭を振ると、溜め息まじりに告げる。
「君の推察どおりだ。今回の召喚の儀は、セリスの独断で行われたもの。
セリスの口車に乗って協力した者たちは、何らかの処罰を待つ身となっている」
「なっ……!」
俺は思わずセリスのことをまじまじと見やる。
セリスは協力してくれた者たちの身を案じてか、固く拳を握り締めていた。
しかし、その瞳には後悔の色はない。ここで自らの行動を悔いては、それこそ全てが無駄になるとばかりに、逆にロニオスを射抜くような眼差しで見やる。
「私は成すべきことをしたまでです。このまま魔族の増長を許せば、必ずや世界は未曾有の危機に陥る。
それを回避するためにも、勇者レンの召喚は必要不可欠だったと考えます」
そう言葉を締めると、セリスは俺のことをひたと見据えた。
「……何も知らないあなたを巻き込んでしまってごめんなさい。でもね、私たちはレンに縋るより他になかったの。それだけは理解して欲しい」
俺は言うなれば被害者の部類に入ることだろう。セリスに怒りを覚えるのが妥当だ。
しかし、ひたむきなセリスを前にして俺が抱いたのは感慨だった。美しい景色を目にした際に言葉を失ってしまうのと同様に、セリスに見入ってしまい、悪感情の生まれる余地がない。
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