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第五話 裸の王様
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「彼が異世界人か」
「何と、まだ子供ではないか」
「女神の恩恵を受けたというのは本当なのかしら」
「それはどうやら間違いないようですぞ。兵によれば、見たこともない見事なスキルを使ったとか」
俺を品定めするような囁き声が、さざ波のように押し寄せてくる。
ここは玉座の間だ。召喚の儀が行われていた洞窟は王都シェザートのほど近くにあったらしく、馬車での移動が済むと、すぐさま国王との謁見に臨むこととなったのだ。
俺とセリスは隣り合い、赤いカーペットの上に片膝をついて跪いている。
カーペットを挟むように並ぶのは、近衛騎士と、先ほどから噂話に花を咲かせている王侯貴族に家臣団。
そしてカーペットの伸びる先、一段高い場所にある玉座には、ミレトニア王国の国王、ロニオス・ミレトニアの姿がある。
威光を体現するような荘厳な王冠に、立派な髭。そして、恰幅のいい身体に身につけた、縞模様のパンツ。
王様は、なぜかパンツ一丁だった。
いわゆる裸の王様だ。
ロニオスは髭を触りながらフムと頷く。
「なるほど。事の経緯はあらかたわかった。レンとやら」
「はい」
「突然エンアポスに召喚され、さぞ不安であろう。元いた世界とは勝手が違う部分も多いはず。
知りたいことがあれば遠慮せず尋ねるがよい」
「ええと。聞きたいことは色々とあるんですが、とりあえずさっきから気になって仕方ないので……
王様って、魔法の服というか。たとえば特定の人間には見えない服みたいなものを着てるんですか?」
童話だと愚か者には見えない服というものが出てくるが、ここは異世界だ。魔力を持たない人間には見えない服とかならありえそうだし、俺だけがパンツ一丁の王様を目にしている可能性はある。
しかし俺の問いかけに対し、ロニオスは怪訝な顔で応じた。
「異世界人は妙なことを言うな。余が服を着ているように見えるのか?」
「いや見えねえから聞いたんだけどな」
やっぱ裸なんじゃねえか!
リアル裸の王様だ!
俺は眉間を押さえながら訊ねる。
「この際なんで聞いときますけど、なぜそんな格好を?」
「それはもちろん、蔑まれたいからだ。なんて格好をしているのだと臣下たちから侮蔑の目で見られたい。
そのために余は朝起きると同時に裸になって公務を行い、人目がない場所では冷え性なので服を着る」
「イカれてやがる……」
駄目だ。セリスの言ってた『人類みなドM』はさすがにありえない話だろうと思っていたのだが、一国の王がこの様子となると、信憑性しかなくなってきた。
こんな世界、さっさとおさらばしなければ。
「あの。俺を召喚した女神が次に降臨するのは十年後って聞いたんですけど」
「うむ、その通りだ。女神オカミ・サーンがご降臨されるのは十年に一度。つまりトイチだ」
「その略し方はちょっと……」
「女神は求めに応じて様々な奇跡を起こしてくださる。その機会は希少ゆえ、オカミ・サーンも降臨されるたび、『ご利用は計画的に』と忠告してくださっている」
「テンプレ台詞かと思ったら真面目な忠告だった!
まあそれは置いといて、女神の力を借りる以外に、俺が日本に戻る方法ってないんですか!?」
「戻る方法か……」
ロニオスはちらりと家臣へ目をやった。すると宮廷魔道士だろうか、ローブをまとったおじいさんが、うやうやしく頭を下げて口を開く。
「女神の力添えがない限り、わたくしどもの魔力だけで異世界の扉を開くのは不可能かと存じます。
女神以外にそんなことができる者がいるとすれば……」
そこで口ごもる宮廷魔道士に、ロニオスは「何だ? 申してみよ」と先を促す。
「はっ、恐れながら申し上げます。
魔族の魔力形態は人類と異なっており、かつ強大です。魔族の魔力をもってすれば異世界の扉を開くことも可能かもしれません」
「何と、まだ子供ではないか」
「女神の恩恵を受けたというのは本当なのかしら」
「それはどうやら間違いないようですぞ。兵によれば、見たこともない見事なスキルを使ったとか」
俺を品定めするような囁き声が、さざ波のように押し寄せてくる。
ここは玉座の間だ。召喚の儀が行われていた洞窟は王都シェザートのほど近くにあったらしく、馬車での移動が済むと、すぐさま国王との謁見に臨むこととなったのだ。
俺とセリスは隣り合い、赤いカーペットの上に片膝をついて跪いている。
カーペットを挟むように並ぶのは、近衛騎士と、先ほどから噂話に花を咲かせている王侯貴族に家臣団。
そしてカーペットの伸びる先、一段高い場所にある玉座には、ミレトニア王国の国王、ロニオス・ミレトニアの姿がある。
威光を体現するような荘厳な王冠に、立派な髭。そして、恰幅のいい身体に身につけた、縞模様のパンツ。
王様は、なぜかパンツ一丁だった。
いわゆる裸の王様だ。
ロニオスは髭を触りながらフムと頷く。
「なるほど。事の経緯はあらかたわかった。レンとやら」
「はい」
「突然エンアポスに召喚され、さぞ不安であろう。元いた世界とは勝手が違う部分も多いはず。
知りたいことがあれば遠慮せず尋ねるがよい」
「ええと。聞きたいことは色々とあるんですが、とりあえずさっきから気になって仕方ないので……
王様って、魔法の服というか。たとえば特定の人間には見えない服みたいなものを着てるんですか?」
童話だと愚か者には見えない服というものが出てくるが、ここは異世界だ。魔力を持たない人間には見えない服とかならありえそうだし、俺だけがパンツ一丁の王様を目にしている可能性はある。
しかし俺の問いかけに対し、ロニオスは怪訝な顔で応じた。
「異世界人は妙なことを言うな。余が服を着ているように見えるのか?」
「いや見えねえから聞いたんだけどな」
やっぱ裸なんじゃねえか!
リアル裸の王様だ!
俺は眉間を押さえながら訊ねる。
「この際なんで聞いときますけど、なぜそんな格好を?」
「それはもちろん、蔑まれたいからだ。なんて格好をしているのだと臣下たちから侮蔑の目で見られたい。
そのために余は朝起きると同時に裸になって公務を行い、人目がない場所では冷え性なので服を着る」
「イカれてやがる……」
駄目だ。セリスの言ってた『人類みなドM』はさすがにありえない話だろうと思っていたのだが、一国の王がこの様子となると、信憑性しかなくなってきた。
こんな世界、さっさとおさらばしなければ。
「あの。俺を召喚した女神が次に降臨するのは十年後って聞いたんですけど」
「うむ、その通りだ。女神オカミ・サーンがご降臨されるのは十年に一度。つまりトイチだ」
「その略し方はちょっと……」
「女神は求めに応じて様々な奇跡を起こしてくださる。その機会は希少ゆえ、オカミ・サーンも降臨されるたび、『ご利用は計画的に』と忠告してくださっている」
「テンプレ台詞かと思ったら真面目な忠告だった!
まあそれは置いといて、女神の力を借りる以外に、俺が日本に戻る方法ってないんですか!?」
「戻る方法か……」
ロニオスはちらりと家臣へ目をやった。すると宮廷魔道士だろうか、ローブをまとったおじいさんが、うやうやしく頭を下げて口を開く。
「女神の力添えがない限り、わたくしどもの魔力だけで異世界の扉を開くのは不可能かと存じます。
女神以外にそんなことができる者がいるとすれば……」
そこで口ごもる宮廷魔道士に、ロニオスは「何だ? 申してみよ」と先を促す。
「はっ、恐れながら申し上げます。
魔族の魔力形態は人類と異なっており、かつ強大です。魔族の魔力をもってすれば異世界の扉を開くことも可能かもしれません」
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