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第四話 SMスキル
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俺はすぐさまセリスの元に駆け寄った。オークの口から剣を引き抜いた彼女は、激闘の疲労もあってかそのままヨロリと身を傾ける。
俺が咄嗟に背中を抱きとめると、セリスは火照った顔を上げて礼を言う。
「ありがとう」
「いや、俺は別に。そうだ、ロープ苦しいよな。いま外すから」
スキルを解除すると、セリスの身を縛っていたロープが跡形もなく掻き消えた。
セリスは少し名残惜しそうな表情を浮かべるが、気を取り直したように言う。
「今のスキル……あなた、女神オカミ・サーンの加護を受けたのね」
「よくわかんねえけど、そうみたいだな」
「名前、聞いてもいい?」
「そういや俺の方は自己紹介してなかったか。俺は遊馬蓮。蓮の方がファーストネームな」
「レン・アスマね。レンか、いい名前ね。音の響きが好き」
そう言うと、セリスは優しく微笑んだ。
異性の、しかも絶世のと形容しても大げさではない少女に名前を褒められるというのは、何だかくすぐったいものがある。
俺が返事らしい返事もできぬまま突っ立っていると、魔道士の一人が傍に寄ってきてセリスに報告する。
「姫さま。オークの討伐中に、帰還の儀は無事に完了しました」
その言葉を聞き、俺は魔法陣の方へと視線を振る。
つい先程まで放たれていた強い光は消え失せ、魔法陣は今やただの文字列の模様と化していた。
俺と一緒に召喚されていた人々も、誰一人残っていない。
セリスが申し訳無さそうに呟く。
「そうか。レンは私を助けるために魔法陣を出たのね」
「咄嗟に動いたからよく覚えてないけどな。まあ、もう一回やってくれんだろ? 帰還の儀ってやつ」
セリスの窮地も救えたことだし、これで心置きなく日本に戻ることができる。
しかし、セリスは浮かない顔で応じた。
「ごめんなさい。それがそう簡単にはいかないの」
「どうしてだ? さっき言ってた、俺が異世界からきた勇者だからってことか?」
「それもあるのだけど。召喚の儀と帰還の儀は、女神の奇跡によって執り行われるの。
そして女神は、神聖な力が満ちる、決められた日時にしか降臨されない。
レンにスキルを与え、帰還の儀まで終えた以上、女神は次の降臨の時節までお姿を現さないわ」
「次の時節って、いつ?」
「それが……」
セリスは正直に伝えるかどうか悩むような間を挟んだあと、重い口を開いた。
「女神オカミ・サーンが次に降臨されるのは、十年後よ」
「じゅっ……!」
その宣告に脳内処理が追いつかず、俺は絶句した。
するとセリスが、
「そうよ。つまりあなたは今……」
と、状況整理するように言葉を紡いでいく。
「つまりあなたは今……放置プレイの状態にある!」
「ねぇよ! そんな状態ではねぇよ! お前らドMの尺度で物事を計るな!
おい嘘だろ、十年も日本に戻れないってことか!?」
「落ち着いてちょうだい。城に戻って皆の知恵を借りれば、異世界に帰る別の方法もわかるかもしれない。
一緒に来てくれる?」
「城に戻るって……」
そういえば、セリスは姫さまと呼ばれている。いったいこの少女は何者なのだろうか。
そんな俺の疑問を察したらしく、先ほど報告をしてきた魔道士が、誇らしげに告げた。
「姫さまは由緒正しきミレトニア王国の第三王女にあらせられます。
異世界の御仁とはいえ、あまり礼を失さぬように」
「第三王女ぉ!?」
俺はセリスのことをまじまじと見やる。
セリスはその視線に、少し面映ゆそうに顔を逸らすと、金糸のような綺麗な髪を指先でくるくると弄ぶのだった。
俺が咄嗟に背中を抱きとめると、セリスは火照った顔を上げて礼を言う。
「ありがとう」
「いや、俺は別に。そうだ、ロープ苦しいよな。いま外すから」
スキルを解除すると、セリスの身を縛っていたロープが跡形もなく掻き消えた。
セリスは少し名残惜しそうな表情を浮かべるが、気を取り直したように言う。
「今のスキル……あなた、女神オカミ・サーンの加護を受けたのね」
「よくわかんねえけど、そうみたいだな」
「名前、聞いてもいい?」
「そういや俺の方は自己紹介してなかったか。俺は遊馬蓮。蓮の方がファーストネームな」
「レン・アスマね。レンか、いい名前ね。音の響きが好き」
そう言うと、セリスは優しく微笑んだ。
異性の、しかも絶世のと形容しても大げさではない少女に名前を褒められるというのは、何だかくすぐったいものがある。
俺が返事らしい返事もできぬまま突っ立っていると、魔道士の一人が傍に寄ってきてセリスに報告する。
「姫さま。オークの討伐中に、帰還の儀は無事に完了しました」
その言葉を聞き、俺は魔法陣の方へと視線を振る。
つい先程まで放たれていた強い光は消え失せ、魔法陣は今やただの文字列の模様と化していた。
俺と一緒に召喚されていた人々も、誰一人残っていない。
セリスが申し訳無さそうに呟く。
「そうか。レンは私を助けるために魔法陣を出たのね」
「咄嗟に動いたからよく覚えてないけどな。まあ、もう一回やってくれんだろ? 帰還の儀ってやつ」
セリスの窮地も救えたことだし、これで心置きなく日本に戻ることができる。
しかし、セリスは浮かない顔で応じた。
「ごめんなさい。それがそう簡単にはいかないの」
「どうしてだ? さっき言ってた、俺が異世界からきた勇者だからってことか?」
「それもあるのだけど。召喚の儀と帰還の儀は、女神の奇跡によって執り行われるの。
そして女神は、神聖な力が満ちる、決められた日時にしか降臨されない。
レンにスキルを与え、帰還の儀まで終えた以上、女神は次の降臨の時節までお姿を現さないわ」
「次の時節って、いつ?」
「それが……」
セリスは正直に伝えるかどうか悩むような間を挟んだあと、重い口を開いた。
「女神オカミ・サーンが次に降臨されるのは、十年後よ」
「じゅっ……!」
その宣告に脳内処理が追いつかず、俺は絶句した。
するとセリスが、
「そうよ。つまりあなたは今……」
と、状況整理するように言葉を紡いでいく。
「つまりあなたは今……放置プレイの状態にある!」
「ねぇよ! そんな状態ではねぇよ! お前らドMの尺度で物事を計るな!
おい嘘だろ、十年も日本に戻れないってことか!?」
「落ち着いてちょうだい。城に戻って皆の知恵を借りれば、異世界に帰る別の方法もわかるかもしれない。
一緒に来てくれる?」
「城に戻るって……」
そういえば、セリスは姫さまと呼ばれている。いったいこの少女は何者なのだろうか。
そんな俺の疑問を察したらしく、先ほど報告をしてきた魔道士が、誇らしげに告げた。
「姫さまは由緒正しきミレトニア王国の第三王女にあらせられます。
異世界の御仁とはいえ、あまり礼を失さぬように」
「第三王女ぉ!?」
俺はセリスのことをまじまじと見やる。
セリスはその視線に、少し面映ゆそうに顔を逸らすと、金糸のような綺麗な髪を指先でくるくると弄ぶのだった。
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