上 下
4 / 46
第二話 勇者の条件

3

しおりを挟む
 もごもごと口ごもっていたその時、「ヒャッハー!」という奇声が突然上がった。
 何事かと見やれば、召喚された人物の一人、モヒカン男が舌なめずりしながら言う。

「さっきからごちゃごちゃうるせえぜ!
 異世界の勇者ぁ?
 面白そうじゃねえか。その役目、引き受けた! この俺様がエンアポスに調和と秩序をもたらしてやるぜ! ひゃはー!」

 そのナリで!?
 やって来るのは調和じゃなく世紀末だろ!

 俺はそんな感想を抱いたが、セリスは人を見た目で判断しない、公正な人物であるらしい。
 モヒカン男に対し、真摯な眼差しで問いかける。

「それでは、自分こそが異世界の勇者だと言うのね?」
「ヒャッハー!」
「わかったわ。それなら女神の審査を受けてもらいましょう」
「ひゃは?」
「伝承によれば、女神によって認められた者には、勇者の証とも言える特殊なスキルが授けられるとあるわ。
 女神の審査がどんなものなのか私にも見当がつかないけれど、受ける勇気はある?」
「ひゃっはー!!」

 ひゃっはーだけでも会話は成立したらしく、セリスは一つ頷くと、魔道士の一団に合図を送った。
 魔道士たちがすぐさま呪文の詠唱に入る。

 すると、俺たちの足元に描かれていた魔法陣が、再び強い光を発し始めた。その光が粒子となり、モヒカン男の前に集まっていったかと思えば、ホログラム映像のように人影を形作っていく。
 
 セリスが畏敬の念を込めてぽつりと呟く。

「女神オカミ・サーン……」

 燐光を発して浮かび上がったのは妙齢の女性だった。
 セリスたちの外見から、ギリシャ神話に出てくるような女神を想像していたが、顔立ちはむしろ東洋人のそれだ。
 白い一枚布をまとうような衣装だが、和服の方が似合うのではとさえ思う。

 女神オカミ・サーンは、ぽかんと口を開けているモヒカン男を見据えると、一喝するように声をかけた。

「コンノ!」
「ひゃは? いや、俺様は田中……」
「コンノ! そこに、LOVEは、あるんけ?」

 その声は俺がじいちゃんの部屋で途切れ途切れに聞いたものと同じだった。どうやらあの時の声はオカミ・サーンのものだったらしい。
 ……というか、どっかで聞いたような台詞である。

 俺がとあるCMのことを連想している間も、オカミ・サーンは問いを重ねる。

「コンノ! お前のドSに、LOVEは、あるんけ……?」

 よくわからない問いかけと、女神の圧によって、モヒカン男は僅かにたじろいだ。
 しかしすぐさま気を吐いて、「ヒャッハー!」の叫びと共に続ける。

「ドSに愛なんざ感じねえぜ!
 この見た目ならアブノーマルじゃないと場を白けさせるんじゃねぇかとSM道具を常に持ち歩く気にしいの男、田中とは俺様のことだ!
 ひゃっはー!!」

 ごめんね田中!
 見た目で判断してました!

 こういった繊細な心の持ち主ならば確かに、異世界に調和と秩序をもたらすことができるかもしれない。
 オカミ・サーンは果たして、どんな審判を下すのか。
 固唾を呑んで見守っていると、オカミ・サーンはカッと眦を決し、大きく手を振り上げた。
 そして、

「そこに、LOVEは、ないんかい!」

 バチーン!!

 と、強烈な平手打ちをモヒカン男にお見舞いする。

「あべしっ!」

 モヒカン男が勢いよく吹き飛んだ。そのまま地面に倒れ込むかと思いきや、全身が光りに包まれ、唐突にこの場からかき消えてしまう。

「なっ……!」

 慄然となって言葉も出せずにいると、セリスが安心させるよう、横合いから私見を述べた。

「大丈夫よ。あなたたちを召喚した際の光景によく似ていた。
 きっと今の人は、勇者ではないと判断されて、元いた世界に戻されたんだと思う」
「ええぇ。手違いで召喚された挙げ句に平手打ちで帰されたの……?」

 それはそれでどうかと思うのだが。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

錆びた剣(鈴木さん)と少年

へたまろ
ファンタジー
鈴木は気が付いたら剣だった。 誰にも気づかれず何十年……いや、何百年土の中に。 そこに、偶然通りかかった不運な少年ニコに拾われて、異世界で諸国漫遊の旅に。 剣になった鈴木が、気弱なニコに憑依してあれこれする話です。 そして、鈴木はなんと! 斬った相手の血からスキルを習得する魔剣だった。 チートキタコレ! いや、錆びた鉄のような剣ですが ちょっとアレな性格で、愉快な鈴木。 不幸な生い立ちで、対人恐怖症発症中のニコ。 凸凹コンビの珍道中。 お楽しみください。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

【R18】通学路ですれ違うお姉さんに僕は食べられてしまった

ねんごろ
恋愛
小学4年生の頃。 僕は通学路で毎朝すれ違うお姉さんに… 食べられてしまったんだ……

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

NTRエロゲの世界に転移した俺、ヒロインの好感度は限界突破。レベルアップ出来ない俺はスキルを取得して無双する。~お前らNTRを狙いすぎだろ~

ぐうのすけ
ファンタジー
高校生で18才の【黒野 速人】はクラス転移で異世界に召喚される。 城に召喚され、ステータス確認で他の者はレア固有スキルを持つ中、速人の固有スキルは呪い扱いされ城を追い出された。 速人は気づく。 この世界、俺がやっていたエロゲ、プリンセストラップダンジョン学園・NTRと同じ世界だ! この世界の攻略法を俺は知っている! そして自分のステータスを見て気づく。 そうか、俺の固有スキルは大器晩成型の強スキルだ! こうして速人は徐々に頭角を現し、ハーレムと大きな地位を築いていく。 一方速人を追放したクラスメートの勇者源氏朝陽はゲームの仕様を知らず、徐々に成長が止まり、落ちぶれていく。 そしてクラス1の美人【姫野 姫】にも逃げられ更に追い込まれる。 順調に強くなっていく中速人は気づく。 俺達が転移した事でゲームの歴史が変わっていく。 更にゲームオーバーを回避するためにヒロインを助けた事でヒロインの好感度が限界突破していく。 強くなり、ヒロインを救いつつ成り上がっていくお話。 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』 カクヨムとアルファポリス同時掲載。

処理中です...