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第一話 異世界召喚
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「それじゃあ父さんは居間の方を片付けるから。蓮くんはおじいちゃんの部屋を頼むよ」
「ん、了解」
そう短く返事をして、じいちゃんが私室として使っていた部屋へと移ろうとすると、父さんが「あぁ、そうそう」と声を上げた。
言い忘れていたことがあったというより、どう伝えるべきか悩んでいたという風に、父さんは歯切れの悪い言葉を続ける。
「その、あれだ。おじいちゃんの職業柄、この家には色々と変わった物が置いてあると思う。
蓮くんはおじいちゃん子だったし、中には思い出深いものもあるだろう。
手元に残したいものがあれば持って帰ってもいいけど、物によってはちょっと、教育上よろしくないというか……」
父さんが何を言わんとしているのか察した俺は、ひらひらと手を振って言う。
「俺ももう高校生だし、変に気を遣わなくても大丈夫だよ。
それに正直、今さらって感じじゃん。父さんだってわかってるだろ?」
「いやまあ、そう言われると立つ瀬がないというか……」
「とりあえずササッと見てくる。何かあったら声かけるから」
「そうか。わかった。それじゃあよろしく」
じいちゃんの家は純和風の平屋だ。みしみしと鳴る廊下を進み、縁側に面した障子を開けた俺は、広々とした畳の部屋に足を踏み入れる。
溜息のような吐息を一つついて。
「さて。やるか」
俺は膝立ちになると、まずは手近にあった文机の整頓に取り掛かった。
祖父である遊馬蔵之介が亡くなったのは先月のことだ。山菜採りにでも出かけていたのか、裏山で足を滑らせ転倒。打ち所が悪かったらしく、そのまま帰らぬ人となった。
四十九日の法要の際に、形見分けを行うことになっているのだが、じいちゃんの私物となると、人様には見せられないようなものも数多くある。
そのためこうして、父さんと俺とで先んじて家の整理を行うことになったのだ。
タンスや戸棚の中身を物色した俺は、形見分けの品として適当そうなものをリストアップしていった。
懸念していたような物品は今のところ見当たらず、アンティークな腕時計など、お洒落だったじいちゃんが愛用していた品が次々と見つかる。
とある業界では一角の人物だったと聞くし、顔も広かったじいちゃんだ。親族や友人も、これらの遺品で故人を偲びつつ、心の整理がつくことだろう。
「あと見てないところは押入れだけか」
俺は押入れに向かうと、くすんだ襖に手をかけて一気に開いた。
「……なるほど。ここが混沌の中枢か」
俺は中二病めいた台詞を吐くと、そのまま眉間を押さえてうずくまる。
まあ、あれだ。
あるだろうと思っていたものが。あって然るべき禍々しい品の数々が、押入れの中に乱雑に収まっている。
「これはさすがに全部処分だろ。つーか、何でじいちゃんまだ大切に保管してんだよ……」
そう呟きつつも、同時に懐かしい思い出が胸に去来する。
両親が共働きなので、俺は幼い頃、よくじいちゃんの家に預けられていた。
ばあちゃんは早くに亡くなっているし、一人で俺みたいな悪ガキの面倒を見るのは骨が折れたろうが、じいちゃんは嫌な顔一つせず、色々なことを教えてくれたものだ。
その際に、遊具代わりとして活躍したものも、この品々の中には含まれている。
「ほんと、何もわからないガキだったとはいえ、よくこんなもんで暇つぶしできてたよな」
苦笑しつつ、押入れにある品々にそっと触れた、まさにその時だ。
不意に何者かの声が頭の中に反響する。
『そこに……は、あるん……』
えっ!?
今の声なんだ!?
咄嗟に辺りを見渡したとき、それまで何の変哲もなかった畳に、幾筋もの光の帯が走った。
複雑な模様を描くそれは、漫画などで目にする魔法陣のように見える。
「はぁ!? いったい何がどうなって」
全てを言い終わる暇もなかった。
唐突に周囲が眩い光に満たされ、視界が真っ白に染め上げられていった――。
「ん、了解」
そう短く返事をして、じいちゃんが私室として使っていた部屋へと移ろうとすると、父さんが「あぁ、そうそう」と声を上げた。
言い忘れていたことがあったというより、どう伝えるべきか悩んでいたという風に、父さんは歯切れの悪い言葉を続ける。
「その、あれだ。おじいちゃんの職業柄、この家には色々と変わった物が置いてあると思う。
蓮くんはおじいちゃん子だったし、中には思い出深いものもあるだろう。
手元に残したいものがあれば持って帰ってもいいけど、物によってはちょっと、教育上よろしくないというか……」
父さんが何を言わんとしているのか察した俺は、ひらひらと手を振って言う。
「俺ももう高校生だし、変に気を遣わなくても大丈夫だよ。
それに正直、今さらって感じじゃん。父さんだってわかってるだろ?」
「いやまあ、そう言われると立つ瀬がないというか……」
「とりあえずササッと見てくる。何かあったら声かけるから」
「そうか。わかった。それじゃあよろしく」
じいちゃんの家は純和風の平屋だ。みしみしと鳴る廊下を進み、縁側に面した障子を開けた俺は、広々とした畳の部屋に足を踏み入れる。
溜息のような吐息を一つついて。
「さて。やるか」
俺は膝立ちになると、まずは手近にあった文机の整頓に取り掛かった。
祖父である遊馬蔵之介が亡くなったのは先月のことだ。山菜採りにでも出かけていたのか、裏山で足を滑らせ転倒。打ち所が悪かったらしく、そのまま帰らぬ人となった。
四十九日の法要の際に、形見分けを行うことになっているのだが、じいちゃんの私物となると、人様には見せられないようなものも数多くある。
そのためこうして、父さんと俺とで先んじて家の整理を行うことになったのだ。
タンスや戸棚の中身を物色した俺は、形見分けの品として適当そうなものをリストアップしていった。
懸念していたような物品は今のところ見当たらず、アンティークな腕時計など、お洒落だったじいちゃんが愛用していた品が次々と見つかる。
とある業界では一角の人物だったと聞くし、顔も広かったじいちゃんだ。親族や友人も、これらの遺品で故人を偲びつつ、心の整理がつくことだろう。
「あと見てないところは押入れだけか」
俺は押入れに向かうと、くすんだ襖に手をかけて一気に開いた。
「……なるほど。ここが混沌の中枢か」
俺は中二病めいた台詞を吐くと、そのまま眉間を押さえてうずくまる。
まあ、あれだ。
あるだろうと思っていたものが。あって然るべき禍々しい品の数々が、押入れの中に乱雑に収まっている。
「これはさすがに全部処分だろ。つーか、何でじいちゃんまだ大切に保管してんだよ……」
そう呟きつつも、同時に懐かしい思い出が胸に去来する。
両親が共働きなので、俺は幼い頃、よくじいちゃんの家に預けられていた。
ばあちゃんは早くに亡くなっているし、一人で俺みたいな悪ガキの面倒を見るのは骨が折れたろうが、じいちゃんは嫌な顔一つせず、色々なことを教えてくれたものだ。
その際に、遊具代わりとして活躍したものも、この品々の中には含まれている。
「ほんと、何もわからないガキだったとはいえ、よくこんなもんで暇つぶしできてたよな」
苦笑しつつ、押入れにある品々にそっと触れた、まさにその時だ。
不意に何者かの声が頭の中に反響する。
『そこに……は、あるん……』
えっ!?
今の声なんだ!?
咄嗟に辺りを見渡したとき、それまで何の変哲もなかった畳に、幾筋もの光の帯が走った。
複雑な模様を描くそれは、漫画などで目にする魔法陣のように見える。
「はぁ!? いったい何がどうなって」
全てを言い終わる暇もなかった。
唐突に周囲が眩い光に満たされ、視界が真っ白に染め上げられていった――。
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