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第一話 百鬼夜行って組合制なんだ……。

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 忍の提案を後押しするように、妖怪たちが手を叩いた。

「おお、それは妙案!」
「人間のことは組合長の裁量にまかせて、我らは百鬼夜行を続けようぞ!」
「なあ!? 馬鹿な、連判状に人間が名を連ねたのだぞ! 組合長の一存でどうこうできる問題ではなかろう!」

 そう反論する鬼に、忍は相変わらず気のない様子で言う。

「でも仕方ないんじゃない? 連判状から名前を外す方法知らないし」
「ぬ、ぐぅ……」

 何となく予感していたが、連判状に名を載せるというのは、結構重大なことらしい。

(だったらやっぱり、説明くらい欲しかったなぁ……)

 あの状況では望むべくもないことだとわかってはいるのだが、少しばかり恨めしい気持ちで忍をみやった。
 線の細い忍の横顔はやはり人形のように整っていて、眺めているうちに憤懣はどこへやら、ついつい見入ってしまう。

 すると、忍が視線に気付いたのか、ふと風花の方に顔を向ける。

「うん? どうかした?」
「い、いや何でもない何でもない!」

 いま自分はものすごく間抜けな顔をしていなかっただろうか。そう心配になった風花は、誤魔化すようにぶんぶんと頭を振る。
 そのとき、ひとり難しい顔で押し黙っていた鬼が、投げやりに口を開いた。

「ええい、もういい! 我らは百鬼夜行を続ける!その人間を組合長の元に連れていき、沙汰を下してもらえ!」
「ん、わかった。そうする」

 忍と鬼の間で話はついたようだが、風花は小首をかしげた。組合長というくらいだから、当然この場を取り仕切っているものだと思っていたのだが。

「組合長ってここにはいないの?」
「うん。組合長は夜の暗闇が苦手だから」
「暗闇が苦手って、妖怪なのに?」
「たぶん想像してるような意味じゃないけど……まあ、会えばわかるから」

 忍は説明を億劫がるように話を打ち切ると、少し離れた場所で縮こまっているサトリに声をかける。

「サトリ、今から組合長のとこに行くからよろしく」
「は、はい」

 サトリはおずおずといった感じで近付いてくるが、すぐさま忍の背後に回り、風花から距離を取る。その様子は人見知りの激しい子猫といった感じだ。
 見た目は同い年くらいの女の子だし、他の異形の妖怪たちと比べれば取っつきやすそうな相手である。風花は軽く会釈しつつ、距離を縮めるため知恵を絞る。

(うーん。やっぱフレンドリーに話しかけるのが大切かなぁ。それならあだ名とか欲しいよね。
 サトリちゃんって名前なら、サッちゃん? サトりん? それとももっと大胆に、とりっぺ?)

「ひぃ! 何か変なあだ名付けようとしてるぅ! やっぱ人間怖いぃ!」

 サトリは涙目になり、忍の袖をギュッと掴んで小さくなった。
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