ヴァイオリン辺境伯の優雅で怠惰なスローライフ〜悪役令息として追放された魔境でヴァイオリン練習し

西園寺わかば🌱

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2章⭐︎賢者の大冒険⭐︎

世界樹の守護神

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ーside オーウェンー


「うおおおおお!」


 今俺たちは疾風の獣を倒しウィンドガイドの力を取り戻すため、ウィンドガイドに乗って世界樹の近くへと来ている。
 風の世界樹は圧倒的な存在感を放っている。凄まじい生命力に圧倒される。


『waoooooooon!』
『おっ!見て、あれが世界樹の門番。疾風の獣だよ』


 でかい狼。フェンリルともまた違う、賢そうな白い大型犬だ。
 シルフ曰く、疾風の獣は自分が認めた者しか世界樹の中へ入れてもらえないらしい。
 しかも、一回認めたらかと言って2回目も認めるかと言われるとそういうわけでもないようだ。一応よくあってると、なつきはするらしい。なんだそのドライすぎるツンデレシステム。
 だから、よほどのことがない限り精霊でも滅多に入らないようだ。
 近くに行くと、ウィンドガイドが優雅に着地し下ろしてくれる。俺が風の精霊の国に蔓延していた黒いのやを取り払ったおかげで、力を若干取り戻したからか、以前に比べると見違えて乗り心地が良くなった。
 

『こちらが、世界樹です』
「ありがとうウィンドガイド」
『いえいえ。本日はよろしくお願いいたします』
「うん、任せて」

 
 ウィンドガイドはもちろん強い。
 今回の疾風の獣戦でも一緒に戦ってくれるようだ。
 今回は、ロン、エリーゼさん、シルフ、黒猫、フェル、そしてウィンドガイドで討伐に行く。
 エルフの執事であるトムとレムとシルフの部下の2人は精霊王の神殿でお留守番だ。
 この5人で1番強いのは、当然俺……ではなく多分エリーゼさんだろう。
 シルフもウィンドガイドも口を揃えてあの人そこがしれないと言っていた。
 当の本人は自らの事を可憐な乙女と言っているけれど……おー……こわ。


「ふふっ……この調子だと大丈夫そうだね」
「はいぃ!そ、そこまで強くはなさそうですぅ!」

 
 疾風の獣の様子をじーっと見つめているエリーゼとロンは余裕の表情をしてこちらを向いて言ってきた。

 
「あんなワンコ1匹、あたしがボコボコにしてあげるから任せときな」


 もう既に相手の力量を見切った感がある。
 味方にいてくれると大分心強い。あの人は怒らちゃダメだ。レオンみたいに目をつけられないようにしよう。
 それはそれとして、今回の戦い、俺とシルフは中衛になる。
 前衛はエリーゼさんとフェルと黒猫。
 中衛は俺とシルフ。
 後衛はロンとウィンドガイドだ。
 ただ単に機動力が速い順に並んでいるだけである。
 黒猫とフェルに囮をやらせるのは、本当に悩んだが、シルフの機動力はこの中の誰よりもすごいから多分やられることはないという発言を聞いてこうなった。
 そんなこんなで、陣営を整え疾風の獣の前へ向かう。
 

『これはこれは。シルフ様。本日は何の御用で?』
「しゃ、喋りましたぁ!?」


 ロンが声を出してびっくりする。
 気持ちは分かる。確かにこの国に来た時、ほとんどの精霊は話していた。それを考えると疾風の獣も話せるのは想定内だが、まさか、話が通じそうな相手だとは。


『今日はウィンドガイドの力を取り戻しに来た』
『左様ですか』
『お願いだ。なるべく君とは戦いたくないんだけど、通してもらう事ってできない』
『いくらお前と俺の仲が良くても掟なので無理--と言いたいところですが、そこの小僧によって戦わなくてもいい可能性もあります』


 疾風の獣はじっと俺を見つめてくる。小僧とは俺のことだろうか?だとしたら、意図せずツンデレシステムを阻止した。


「俺がどうかしたか?」
『お主だな。先日この魔物の森の魔を払ったのは』
「あ、ああ」


 と言っても、ヴァイオリンを弾いていたら知らず知らずのうちに勝手に払ってた感じになっていたんだけど。


『ふむ。お主からは神聖なオーラも感じる。ということは、お主は世界樹に選ばれたということだ』
『『えっ!?』』


 これに驚いたのは俺ではなくシルフとウィンドガイドだった。2人とも衝撃的だという顔をしている。


『世界樹に選ばれたとなると、もしや彼が今代の守護神!?』
「守護神?何それ?」
『まあ、まだ可能性の段階ですけれどね、それに守り手と言っても複数人いますから安心してください。今代の魔王は温厚な人間だからいきなり魔界へ行って魔王を倒すとかの仕事もないです』
『そ、そうか。ならよかった』


 シルフもウィンドガイドも安心している。
 どうやら、俺がこの世界の勇者ポジ?のような存在にならなかった事に安堵いているみたいだ。
 正直、俺は俺の身の回りが幸せだったらそれでいい派閥の人間なので、自分を犠牲にしてまで世界を救うなんて考えられない。
 たとえ守護神とやらになったとしても何も変わらずに平和にヴァイオリンを奏でていたいものだ。


『さて、そんなわけで、そちらの守護神……失礼ですがお名前は?』
「オーウェンだ」
『オーウェン様がいらっしゃるので、試練は免除ですが、どうですか?せっかくみなさん戦う気満々で来ていらっしゃるみたいですし、一戦やりませんか?』
『そうだね。ちょっと、緊張感はないかもしれないけれど、やろっか?オーウェン達の訓練にもなるからね』
『かしこまりました。では、バトルスタジオに案内いたします』
 

 違うこいつ、ツンデレじゃなくて戦闘狂なだけだ。完全に戦うのを尻尾をフリフリしながら、ウキウキでなっていやがる。
 そんなことに気づいた時には、時すでに遅し。なんとも緊張感がなく、疾風の獣の試練がスタートしたのだった。
 
  
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