ヴァイオリン辺境伯の優雅で怠惰なスローライフ〜悪役令息として追放された魔境でヴァイオリン練習し

西園寺わかば🌱

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2章⭐︎賢者の大冒険⭐︎

特訓の成果

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-side オーウェン-


「意外とレベルアップ出来ているような気がする。魔法の発動が軽いし、負担も少ない」


 今俺はシルフと一緒に魔力を暴走させて竜巻を周囲に発生させる訓練をしながら、グリモワールを探している。フェアリーケロベロスはどっか行った。
 これが終わったらようやく精霊の国へ帰れるらしい。まあ……、帰っても疾風の獣とやらが待っているだけだが。
 そういえば、精霊竜の力を取り戻すためとは聞いていたけれど、件の精霊竜ってどこにいるのだろうか?


「ねえ、シルフ?精霊竜って--」


 --バッッコーーーーン!


 目の前から急に音がした。
 瞬時にその場から飛び去る俺たち。


『なんか来るから後で!』
「ああ……!」


 爆発した音の方を見ると何かに追われている何かが走ってくるのは見える。


『助けてケローー!』


 --って、お前かよ。
 フェアリーケロベロスだったら、まあ、いいかと肩の力が抜ける。


「一瞬でも助けなきゃとか思った俺が馬鹿だったわ」
『尊い命を犠牲にするなケロー!』
「自分で尊い命とか言うな」


 まったく……、あれでは、助けられるものも助からなくなるって。


「あんな状況でも軽口を叩けるくらいにはメンタルも強いんだな」
『うん、危機感もないし、図太いよ』
『シルフ様!それ悪口ケロ~!というか、2人とも、ちょっとは助ける素振り見せろケロ~!』


 見ると、シルフのゆったりとした様子で紅茶を飲んでいる。……いつのまに紅茶なんて出してきたんだ?


『そっちこそ、いつのまにヴァイオリンなんて出したの?』
「あ、これは禁断症状というやつで。そろそろ弾きたいなと思ったから。……というか、シルフが相手してくれると思ったから、その間時間できるしヴァイオリンでも弾いて良いかなと思ったんだ」
『そりゃあ重症だね。というか、こっちもそうだよ!オーウェンがやってくれると思ったから、紅茶飲んでたいなーっと』
『尊い命を助ける事を他人任せにするなケロ~!押し付け合うなケロ~!最低ケロ~!』


 優雅な時間をとりたい俺とシルフと、命の危機が迫っているフェアリーケロベロスとの間でカオスな状況になってしまった。
 でも、確かにある程度は助けないとまずい気がする……、というか。


「なんか、こっちきてね?」
『未知のモンスター押し付けられてるね、フェアリーケロベロスに』
『ゲヘヘ~、お前らも巻き添えケロ~』


 アイツ……。助けて貰えなかた時のために第二プラン考えていたな……、変なところで賢いフェアリーケロベロスだ。


「それでシルフ。あれってなんていう名前のドラゴンなんだ?」
『多分だけどストーンドラゴン。体が石でできていて、石を好むドラゴンだよ?』
「なんで、フェアリーケロベロスを狙っているんだ?」
『さあ、魔石じゃない?』


 なるほど。つまり本当にあいつ自身が狙われていると。流石に魔法1発くらいはお見舞いしとかないとな。なぜ不思議な国の番犬なのに不思議な国の住人に追われているかはさておいて。


「シルフ、いける?」
『うん』
『ストーム』「ライトニング」


 --ピッカーーーンゴロゴロゴロゴロ!!


 シルフの風の最上位魔法と、今の俺が持つ最大の魔力で喰らわせる1撃。俺の雷の最上位魔法の合同技。随分と魔力量も質も上がったみたいだ。1撃以外あり得ない。


 --GRAAAAAAAAAA!!!


『まま待つケロ~!』


 フェアリーケロベロスの静止にピタッと魔法が止まる。魔法の制御も大分上達したように思える。


「なんだ?」
『その子を本当に倒したらまっずいケロ~!落ち着けるだけでいいケロ~』
『ふむ?』
『こいつは俺の家来ケロ~!』
『「えっ……!?」先に言え!そういうことは!』


 本当だよ。


『オーウェン殿の魔法を見て、気持ちが昂り暴走してしまっていただけで、グリモワールを見つけて持ってきてくれていたケロ~!』


 よく見ると、口元にはグリモワールらしき石板を加えている。


「本当だ」
『ありがとう。ストーンドラゴンさん』
「ぎゃあぎゃあ」


 俺とシルフはよしよしと、ストーンドラゴンを撫でる。こう見るとなかなか可愛いドラゴンだ。


「ただし、お前は許さない。フェアリーケロベロス」
『許さない』
「ギャア」


 みんなで、フェアリーケロベロスを見る。
 色々と説明不足のせいでこんな事になってしまったのだ。


『まままつケロ!これには深い訳が』
「あるわけないだろ!」


 というか、今までの訓練で考えがあってたまるかっていう訓練内容だったからな。
 そんな相手のいう事の信ぴょう性なんて全くない。


『フェアリーケロベロス。番犬としては君はとても優秀だけれどね。今回ばかりは少し聞いて欲しいことがあるかな』
『ななな……!なんでも聞きます!聞きますから、許してください~!』
『うんうん、許すよ…………、(最終的には)」
『なんか、最後聞こえなかったけど、絶対碌でもない事言ってるケロ~!』
『なんでも聞くって言ったもんね~^ ^』
『言ってないケロ~』


 あれは、シルフに任せておいていいか。
 フェアリーケロベロス、生きて帰ってくればいいのだが。
 それはともかく、ようやく俺たちは精霊の国へ帰れる事になったのだった。


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