ヴァイオリン辺境伯の優雅で怠惰なスローライフ〜悪役令息として追放された魔境でヴァイオリン練習し

西園寺わかば🌱

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2章⭐︎賢者の大冒険⭐︎

忘れちゃったんだよね⭐︎

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-side オーウェン-



『今の風の精霊竜--エリアスの力は、この杖に封印されている』
「その材質……」


 オリハルコンだ。先端に竜の頭がついている透明感のある黄緑色の杖は直感的にそう感じさせるような圧を放っている。


『そう、この杖は頭から先まで全て、オリハルコンでできている。』
「なんと……!」


 隣で聞いている長老が驚きの声をあげた。
 オリハルコン。風に噂程度にしか聞いたことがないが、バルトシュワルツ王国では、数少ない大貴族が、1カラットくらいしかないオリハルコンの原石を家宝として厳重に保管してあると聞く。近現代では、新たに発見されたものはなく、現存しているものは、神話の時代に発見されたものだけなので、情報通はどこにあるのかが、全て分かっているという。
 この杖一本分のオリハルコン。そんなの貰ったら、下手したら政争の火種になって、王家が出てきそうだ。


「流石にそれは、貰えないよ。」
『いやいや、大丈夫。人間界でこれが見つかっても、君が想定しているような事態にはならないよ』
「なんで?」
『だって、これ自体が精霊竜だもん。だから、持つ人を選ぶよ』
「……?どういうこと?」
『つまり、精霊竜は物質化するとオリハルコンになるってこと』


 何だそれ。ここにきて久しぶりにすごい乙女ゲームっぽくないか?その精霊竜がイケメン攻略対象に変身できたりとかして、ヒロインが聖女として解放してあげるとかだったら尚更それっぽい。
 まあ、あの乙女ゲームに精霊なんて出てきてないから攻略対象の線はないと思うが。


 それで言ったら、まだリオンシュタットの冒険者ギルドに攻略対象がいるとかの方がまだ現実味がありそうだ。
 この世界の元になった乙女ゲームには、全員が行うメインストーリーと、個別キャラストーリーに分かれていて、初期の攻略キャラ以外にもアップデートで攻略キャラが増えていた。
 俺もメインストーリーである本編はクリアしたが、その後の個別キャラのストーリーとアップデートで追加されたのがキャラは、課金したく無かったのと、面倒で気になったキャラしか、やっていなかったからな。そもそも、どんなキャラがアプデ追加されたのか分からない。


 今思うと全ルートやっとけば良かったなと思う。エルフの隠しキャラとか探せばありそう。トムとレムとかめちゃくちゃ攻略対象っぽくないか?そう考えたところで、本題の戻る。


「…………なるほど?精霊には実態がないと聞いていたけど、物質化する事ができると。」
『そうだね。力を使いすぎてしまって精霊としての存在を維持できなくなった時に、身を守るため、物質化して力を貯めるんだ。その際に体がオリハルコンになるんだよ。』


 へーー。待て待て。だとすると、人間界にあるオリハルコンって、力のない精霊が捉えられている姿……?


『ああ、安心していいよ。主人が恐れている事はない。基本、オリハルコンはしっかりダンジョンでごくごくたまに発見される純粋に岩からできているものもあるから。まあ、最近はオリハルコンが出るダンジョンは作られてないみたいだけど』
「ああ、良かった……」


 そういえば、CHAT-GPP作⭐︎テンプレ乙女ゲームのヒロインであるソフィアも、エンディングでオリハルコンに指輪を貰っていた気がする。今思うと、攻略対象は良くそんな大事な物をソフィアに渡したものだ。
 プレーしていた当時はなんとも思わなかったが、好きな相手とはいえ、流石に勿体なさすぎないか?


『それでさ、風龍の杖から風竜を解放するには、風のグリモワールがいるんだけど……』
「ああ」
『実はさ、不思議な国へ置いてきちゃったんだよね⭐︎』
「は?」
『そーそー。だから、一緒に探してほしい。レベルアップもできるし、風龍の力を解放するために必要な、疾風の獣という魔物の討伐にも役立つと思うし!』
「いや、そーそーじゃなくて……」
『あーっと、ちなみに、疾風の獣はこんな特徴があるよ!』


 シルフによる早口解説によると、俺が討伐するべき敵は次のような能力を持っているらしい。


①高速の飛行能力: 速く飛ぶことができ、風の力を駆使して瞬時に場所を変える能力。
②突風の攻撃: 風の力を集め、強力な突風や竜巻を発生させて攻撃する能力。
③瞬時に透明になる能力


「おい、めちゃくちゃ強いじゃねえか」
「うん?強いよ?」


 シルフはケロッと開き直ってこちらをみている。おいこら。


「1、2はともかく3の特徴は無理すぎるのでは?」
『大丈夫だよ!不思議な国で鍛えれば、いけるはず!そうだよね?ケロ?』
『いけるケロー!』
「いや、本当にいけるのかよ?俺で、大丈夫か?」
『本当ケロー、ビシバシ鍛えるケロー!』
「そ、そうなのか。まあいいか、ありがとう。」


 思うところがあるけれど、鍛えてくれて大丈夫だと言っているのだからそうなのだろう。
 それにしても、なぜ俺なんだろうか?
 気になったので聞いてみる。


『ああ、それはね。風の精霊竜を解放できるのは、浄化魔法を使える聖者だけなんだ。』


 またか……。俺がこれだけ頼れる理由。これもしかすると、ヒロインであるソフィアが聖女の仕事サボってるからではないか?
 本来、聖女が真面目に働いていて、浄化できた場所ができていたら、俺に依頼を頼まれる事は無かったのではないか?そう考えると、なんか全てが繋がってきた気もする。


「ところで、シルフ。不思議な国にグリモワール忘れたっていうところを聞きたいんだが。」
『まあまあ、気にしない気にしない』
「気になるわ!」
『チッ……、許されないか?』
「許されねえだろ。そりゃ。」


 というか、今舌打ちが聞こえたんだが?
 後ろめたさマックスじゃねえか。
 じっくり問い詰めようか。


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