ヴァイオリン辺境伯の優雅で怠惰なスローライフ〜悪役令息として追放された魔境でヴァイオリン練習し

西園寺わかば🌱

文字の大きさ
上 下
2 / 51
1章⭐︎リオンシュタット初心者編⭐︎

辺境への追放

しおりを挟む
-side オーウェン-



「オーウェン=テューナー。お前は、ソフィアに対して、悪質ないじめをしていたとの証拠と、証言が、上がっている」
「ちがう……、ユリウス。俺はやっていない!!」
「俺も、そう思いたかったよ。だけど、教員や、お前のクラスメイトから、たくさんの証拠や証言が上がっている。だから、……これは仕方のないことなのだ」
「……!」


 目の前にいる、金髪碧眼の17歳の青年は、ユリウスは俺の幼馴染であり、親友、この国の第二王子だ。そのユリウスでも、庇いきれない量の証言と証拠。
 実際に、写真には、俺が悪質ないじめを行ったように見せかけたものばかり。
 はそれほどまでに、俺のことを追放したいみたいだ。
 はあ。……やれやれ。


「覚悟はできたみたいだな。お前を、この学園から追放する!この辺境の土地、リオンシュタットへ行け」
「分かった。」


 仕方ない。ここは、戦略的撤退だ。
 一旦、あいつら--権力大好きヒロインのソフィアとその仲間たちに勝ちを譲ろう。



 ♢  ♢  ♢  ♢  ♢



 その日の晩、俺は辺境へ行く身支度をしていた。
 家の人たちにも、当然のように冷たい目線を向けられて、「お前は、我が家名を傷つけたから、二度と戻ってくるな」と言われたのだ。早めにでて行くべきだろう。
 それにしても……、自慢じゃないが、俺は成績主席でもうすぐ卒業という一歩手前だったんだぞ。冗談じゃない。


 さて、しかし……俺も覚悟を決める必要があるな。俺自身が、無実であることを証明することができない以上、あの学園から追放されることを今は、受け入れるしかない。
 それでも俺は、自分の身の潔白を証明したいと思ってはいる。
 自分が大事というよりは、ヒロイン達に屈するのが、なんか癪だからだ。


 --次の日の朝、俺が家を、ほとんど追い出されるに近い形で出ようとしているところ、ユリウスが見送りに来た。
 どうせなら、確認でもしておくか。
 

「ユリウス。本当に、そんなに多くの証言があるのか?」
「ああ、たくさんの奴らから、証言が寄せられていた。お前がソフィアに対して、いじめをしていたということを捏造するために、想像以上に多くの人間が動いたらしい。まったく……つまらない事をする」


 悔しさと、絶望感に苛まれた。
 自分が潔白であることを証明することができないのは、どうしようもないことだからだ。
 だけど、あきらめるわけにもいかないな。
 俺はこれからも、貴族社会で生きていく必要があるのだから。


「はあ……、俺は無実だと何度も言っているけど、追放されるのか。理不尽だな。
 社交界に戻る事は、諦めたくないし、自分の無実の証拠を集めるとしますか」


 ユリウスを見ると、優しく笑っていた。


「わかってるよ、オーウェン。でも、今は、追放されることを受け入れるしかないね。
 これから君は、辺境の土地、リオンシュタットに行くことになるだろうけど、そこで、新しいスタートを切ってくれ。大丈夫、俺が選んだ土地だから悪いようにはならないはずだよ。それに、君の優秀さは異常だしね。
 俺はこれから、いつか、君が再び社交界に戻ってきた時、無実であることを証明出来るように、証拠を集める事にするよ。
 今回のようなヘマはしない」


 ユリウスの悔しそうな言葉に救われた気がした。うん……、あきらめずに、新しいスタートを切る。そして、いつか、必ず無実であることを証明して、社交界に戻る。当面の目標が決まったな。


「ありがとう、ユリウス。俺は、必ずお前の元に、戻ってくる」
「うん。俺は俺でお前の無実を証明するために全力を尽くす。まあ、お前ならいうて、どこでもやっていけるだろうから心配はしていないけれど」
「お前……さっきから、ちょいちょい発言がおかしくないか?こんな時くらい心配しろよ?」
「あはは……!そのヴァイオリン……。持って行くんだ」
「ああ。爺さんの形見だし、戦場で俺が、出来る事といったらそれくらいだしな」
「へー!君のことだから、戦場で無双しに行くのかと思ってた」
「はあ?出来るわけないだろ。そんな事。
 まったく……、心配しないのにも程があるわ!じゃあな、俺はもう行く!」
「あ!じゃあね!お土産待ってるよ~!」
「お前は……!どんだけ図々しいんだ!」


 俺は、ユリウスに半分くらいの呆れと半分くらいの感謝の気持ちを込めて、睨みつけた。そして、これから行く土地、リオンシュタットの事について馬車の中で調べる事にしたのだった。




----------------------------------------
[コメント]
近況ノートにて、主人公、ヒロイン、シルフ(精霊)のイメージがあります。

[オーウェン]

[ユリウス]
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜

西園寺わかば🌱
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。 4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。 そんな彼はある日、追放される。 「よっし。やっと追放だ。」 自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。 - この話はフィクションです。 - カクヨム様でも連載しています。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

処理中です...