上 下
6 / 80
1章⭐︎アインス王国脱出編⭐︎

忘れてた

しおりを挟む
-side リアム-



「んんっ……。ってうわっ。
 なんだルーカスか。」


 翌朝、起きるとルーカスが改まった表情をして俺の腹の上に乗っていた。
 今日は午後から商業ギルドに行く。


 俺が声をかけても眠いのか無言である。
 しばらく、うとうとしているルーカスをぼーっと眺めることにした。
 いくらでも見てられるな。


『あ…ああ、起きたのか。なあ…主人。なんで教えてくれなかったんだよ。』


 珍しく元気なさげな声で、俺に語りかけてきた。とはいえ、ルーカスには俺の情報が筒抜けなので、思い当たる節がなさすぎて困惑する。


「へ?何を?」
『スキルのことだよ。スキルの。
 素晴らしいスキルを持っているのに今まで、なんで使わなかったんだ?』
「素晴らしいスキル?俺のスキル、結構発動してると思ってたんだけど。」


 俺のスキルなんてちょっと他の人よりも味がわかる程度だって言ってたしなあ。
 

『はあ。その様子だと本気で忘れてたみたいだな。』
「あ、ああ」


 たしかに。なんか忘れてたような。


『今朝方、信託が降ってな。お前には、3つのスキルがあって、そのうち[テイム]と[食の大賢者]は発動しているが、[絶対食堂領域]は発動していないんだとよ。
 絶対忘れているから思い出させてくれってノート様が言ってたぜ。』


 確かに。そういえば、そんなスキルもあったような。


「へー。でも、スキルの発動のさせ方わからないしなあ。」
『そのことについても、言及してた。
 大体異世界からここにくるやつは、無双系のスキルには絶対興味があるから、
 スキルの使い方を知らなくても勝手にルーカスに聞くだろうと思ってて、神界にいる時教えるの忘れてた。ごめんってな!』
「………。それスキル使えてないの、俺のせいじゃなくね!?」
『はあ……。それにしたって、自分のスキルが発動できるかくらいは確認して俺に報告してくれてもいいだろ?
 なんとかしてやれるんだからさ。』
「は……はい。おっしゃる通りです。」


 ルーカスが優しい口調で諭してくる。
 おそらく、ガチギレである。


『まあ、それはともかく[絶対食堂領域]は楽しみだ。使い方は自分が思い浮かぶ最高の、厨房をイメージするだけだとよ。』
「ふーん。そんなんでいいのか。」


 俺は、前世のことを思い出し、イメージしてみる。最新調理家電も趣味の一環で好きだったのだ。


 果物を適当に入れるだけでスムージーを作れるミキサーや、一つあれば結構な品数のものが作れる電子レンジ、乾麺を茹でるのにちょうどいいサイズの電気ケトル、その他自分が欲しいと思ってた炊飯器や、冷蔵庫、フライパンなどを思い浮かべた。




 ♢  ♢  ♢  ♢  ♢




「こんな感じかなあ。」


 俺がそういうと、俺の目の前、つまり向かい合っていたルーカスの後ろに、キッチンが現れた。


『おお!!』


 ルーカスは後ろを振りむくと、俺の腹の上から飛び上がると中に飛び込む。


『すげえなこれ。見たことないのがいっぱいだぜ。』


 眠気を抑え仕方なく、俺もベッドから飛び上がる。
 中に入ると、料理動画配信者などがよく使っているような、厨房がそこにはあった。
 しっかり、ご飯を食べれる場所まで付いている。


「これは、本当にすごいな」


 俺がさっきまで思い浮かべた最新家電はもちろん、冷蔵庫を開けてみたら一通りのお肉や野菜が入っていた。
 食器棚もあったので、そこを調べてみると食器も俺が前世で使っていたのと同じお皿が置いてあった。


『なあなあ。主人、飯作ってくれよ。
 材料はあるから。』


 そう言って、ルーカスは亜空間からオークを出した。


「うぐっ……。いや、流石にオークは……。」


 そう言ったが、不思議とオークを見ているとこう、美味しそうなレシピがたくさん思い浮かぶのだ。
 ほんと仕方のないスキルである。


「……いけるかもしれない。」
『お、流石主人だぜ。』


 出会ったばかりで、流石というやつは大体おだて上手で賢いということから、
 ルーカスにこの先上手く転がされるんだろうなと察した俺は大人しくご飯を作ることにした。
 とはいえ、前提として、オークをどうやって捌くか、雑菌処理とかは大丈夫なのか?
 という疑問が上がってきた。


「はあ。それくらいなんとかできる機械とかないのかなあ。ってうわあ」


 目の前に機械が現れた。
 初めてみる機械だ。


『お、全自動魔物解体装置だとよ。初めて見たぜ!!』
「わかるのか?」
『ああ!俺には鑑定スキルがあるからな!』
「え?鑑定スキル持ちって、この世界では1人しかいないんじゃなかったっけ?」
『1人だからな。俺は人間ではないし、この世界で使えるやつならたくさんいるぜ!』
「え……?ええ。それって俺がスキル持ちってことバレる可能性があるの結構高いんじゃ……。」
『いや、鑑定スキル持ちが人の前に姿を表すことは稀だ。
 そもそも、スキルがバレる以前に、鑑定スキル持ちの魔物が目の前に現れたら命がないって思っといたほうがいいぜ。
 それくらい、格の違う魔物だ。』
「ふーん。ならいっか。」


 確かに今は慣れたけど、ルーカスも見た目は神々しいし、人前で姿を表すのはほとんどないから、そんなものなのだろう。


『そんなことより主人、これ、使うわせてもらうぜ!』


 そういうと、ルーカスは念力を使ってオークを魔物解体装置の中に運んだ。


 --ガシャン!と蓋が勝手に閉じる。


 ウィーーーン。ガシャン。
 ザク、ブチ、ブシュッ。


 機械音が聞こえてきたと思ったら、グロそうな音が聞こえてきた。
 3分クッキングだったら、絶対カットされている音である。

 --チーン。……と思ったら、3分クッキングの最後に聞こえてそうな音が聞こえてきた。終わりよければ全てよしってか。


『何1人でボケてるんだ。出来上がったぞ!』


 ルーカスがそう言ったのを聞き、蓋を開けて中を覗くと、ピカピカ光った部位ごとに分けられた肉と、その他の素材に分けられていた。血などの売れないものはどこかに消えたようだ。


「『おおー』」
『うまそうだな』「だね。」


 目の前にある美味しそうな肉を取り出し、調理を開始する。
 まずは、オーソドックスに焼くのがいいだろうなと思い、ロースをステーキサイズにカットして使うことにした。
 少し多いかなと思ったが、多い分には別にいいだろう。


「ソース作らなくても、塩胡椒でいっか」と思っていたのだが、『えー。どうせなら、お前がつくったソースも食べたいぞ。』とやる気の出る発言をされたので、まんざらでもなく、作ることにした。
 本当に人を転がすのが上手い。


 作るのは、オニオンソースだ。
 玉ねぎとニンニクをすりおろして、醤油、砂糖、みりんと一緒に軽く温めたら完成である。
 ご飯を炊くのは時間がかかるので、じゃがいもを茹でて、焼くことにした。
 オニオンソースにも合うからだ。


 所要時間30-40分といったところだろうか。
 動いて、頭使ったので、朝だがお腹が空いてきた。
 少し全部食べれるか不安だった量の、ポークステーキも食べれそうだ。


「かんせーい。」
『いい香りだぜ!』


 どうせなら、座って食べようと思い、一緒に食べる。


 ガブガブ……。


『うめえ!!』
「うっま。」


 昨日食べたオークの肉よりも美味しく感じるのは気のせいではないだろう。


『昨日食べた肉よりも美味しく感じるな!
 きっと、スキルのおかげだな。』


 ルーカスもそう思ったみたいだ。


「確かに。自分で作るのは少し面倒だけど、このクオリティを食べれるとなると、確かに作った方がいいかもね。」
『ああ。というわけで次回も美味しい飯を頼むな。主人。』


 俺が食べれないだろうなと判断した肉も全部食べ、ちゃっかり、次も作る雰囲気にさせたルーカスは本当に罪だと思う。


「はあ。それはそうと、片づけもめんどくさいなあ。」


 そんなことを考えると、突然床の下からゴーレムが浮かび上がってきた。


「え?」


 そして、ゴーレムが掃除や皿洗いをしてくれる。あっという間にピカピカになった。


『なあ、これって、最初からゴーレム使ってれば、もっと早く終わってたんじゃ…』
「ま、まあ。今回は最初だから。
 次回から使うよ。」
『なんつーか。締まらねえな。』


 そんなこんなで、俺はスキルの使い方を知ったのであった。




------------------------------
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜

西園寺わかば
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。 4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。 そんな彼はある日、追放される。 「よっし。やっと追放だ。」 自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。 - この話はフィクションです。 - カクヨム様でも連載しています。

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

異世界転生したのだけれど。〜チート隠して、目指せ! のんびり冒険者 (仮)

ひなた
ファンタジー
…どうやら私、神様のミスで死んだようです。 流行りの異世界転生?と内心(神様にモロバレしてたけど)わくわくしてたら案の定! 剣と魔法のファンタジー世界に転生することに。 せっかくだからと魔力多めにもらったら、多すぎた!? オマケに最後の最後にまたもや神様がミス! 世界で自分しかいない特殊個体の猫獣人に なっちゃって!? 規格外すぎて親に捨てられ早2年経ちました。 ……路上生活、そろそろやめたいと思います。 異世界転生わくわくしてたけど ちょっとだけ神様恨みそう。 脱路上生活!がしたかっただけなのに なんで無双してるんだ私???

処理中です...