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17章 わたしに何ができたかな?
第840話 潜入④失った記憶<中編>
しおりを挟む「お嬢ちゃんは今理解したはずだ。私の言葉で認めたはず!」
わたしのダメージを心から喜んでいる。最悪なヤツだ。
「ああ、そうか。お嬢ちゃんの母君は光の使い手でしたね。光の力で治癒をされ感謝されるところを見てきた。それがいつしか自分のしてきたことのように感じられて、自分のことを勘違いしてしまったようだね」
弁護人はにっこりと笑う。
「だからそんなに傲慢なんだ」
そう笑われ、こんな場面でわたしは落ち着いてしまった。
横を見れば、息絶え絶えのドラゴンが壁に打ちつけられている空間で。
普通の令嬢だったら、弁護人の言葉の畳み掛けで揺らぐだろう。
けどわたし、けっこう悪口言われてきたから。
我ながらひねくれているなーと思うけど、わたしを思って言われた言葉ならぐさっとくるけど、わたしを傷つけようという気持ちには鼻が効いて気がつくし、それで言われたことなら、ちゃんちゃらおかしいと思えてしまう。
本当、人生って何がどう糧になっていくかわからないものよね。
弁護人はわたしが堪えていないのにすぐに気づく。
すると作戦を変えてきた。
「このドラゴンを、母君に頼んで治して差し上げますか?
ドラゴンが喜んでお礼を言うとでも?
断言します。力が戻ったドラゴンが一番先にすることは、治してくれた母君を屠ることでしょう。お嬢ちゃんが大切にしている、家族、友達、領地をめちゃくちゃにする。それでもお嬢ちゃんは助けてやったドラゴンだから手を出さないのですか?」
なかなかどうして。
迷いゾーンをついてくるのがうますぎる。
答えてもきっと畳み込まれる。奴の思うような流れに持っていかれる。
わたしの精神をいたぶる気、満々だ。
だからわたしは、クスッと笑ってやった。
少し驚かせることができたらしい。目が大きくなった。一瞬だったけど。
咳払いをしている。
「何かおかしかったかね?」
「おじさんは、わたしに興味があるのね。13歳の少女の何が怖いの?」
「怖くなんかないよ。君みたいなお嬢ちゃんは何もできないからね」
「怖くないのに、拐ったの? わざわざ弁護人にまで化けて法廷に出て、わたしと聖獣そして護衛を引き離して、わたしの苦手な瘴気を使ったでしょう?
こんな小娘相手に、ずいぶん大袈裟なことをして拐ったものよね?
その後は違う大陸に連れてきて、着ぐるみ剥がして。
これ、わたしを怖がっているようにしか思えないわ」
「お嬢ちゃんが怖かったわけじゃない。確実に君を手に入れるために、二度手間にならないよう、念を入れただけだ」
あの拐い方は、この人の本意ではなかったのかもしれない。
大掛かりだもんね、たったひとりの少女を誘拐するだけに。
「拐ってきて、わたしに何をさせたいの?」
ふっと笑う。
「君はそれが知りたかったのか。
なるほどな。たった13歳の少女でも、気をつけるべきだと忠告があったのはこのことだな。君のペースに乗せられかけていた」
残念。もうちょっと話して、情報を落としてくれるかと思ったのに。
「味方のいないたったひとりの状況で、そこまで強くいられ、ハッタリもでき、気位の高さは称えよう。とても13歳とは思えない。怖くはないのかい?」
「拐われたの、初めてじゃないから」
弁護人はクスッと笑う。
「初めてじゃなくても、これからどうなるかわからないんだ。怖いだろう?」
わたしもクスッと笑って返す。
「おじさん、話聞いてた? 初めてじゃないってことは、この先どうなるか知ってるってことだよ。悪いことをした人は、みんなその罪を償わないといけないの。それゆえに、わたしの前から悪い人は消える」
弁護人は目をスッと細めた。
「何が良くて何が悪いって、誰が決めるんだい?」
わたしも目をすがめる。
「おじさん、小娘に聞かなきゃ、そんなこともわからないの?」
額に青筋を立てた。感情があるんじゃない。
人の心を精神的に追い立てて、高みから見ようとする奴は、自分の感情の起伏をまず隠そうとする。自分が精神的に追い立てられたくないから、見せないようにするのが上手くなる。
「いいや、わかっていないのは君だから、教えてあげようと思ったんだよ」
弁護人以外に人が来ない。何でだろう?
「必要ないわ。立場が変われば、いいことと悪いことなんて逆転するとか言って煙《けむ》に巻きたいだけでしょ?」
「わかっているなら話は早い。君が罪を償う側なんじゃないかい?」
「成人前の少女が? 非力で経験の少ない令嬢の、拐われたことがわたしの罪になるとでも?」
「……拐われるようになることを、君がしたとは考えないのかい?」
「たとえ拐われるようなことをしたとしても、拐う方に罪があるでしょ?」
男はおし黙る。
「悪いことをしたと思うなら、その悪いことで向き合わなくちゃ。拐うってもう焦点がズレてる。だから、そこでもう悪いの。何をどう言い繕ったって、拐う方が悪よ。それは変わらない。あなたもいずれ罰を受ける。わたしは元の場所に戻る。これはどんなルートを辿ったとしても、結末は変わらない。だからわたしは怖くない」
「言わせておけば!」
弁護人が手をあげた。
打たれる!
と思った時、男がバチバチと感電したようになった。
え?
男は憎々しげに、壁のドラゴンを見上げる。
「この死に損ないが!」
服の中から出した短剣をドラゴンに向かって投げた。けど、丈夫なドラゴンの皮膚には突き刺さることなく落ちた。
ってことはあの埋め込まれた杭や剣は、どんな力を……。
いや、そうじゃなくて。
ドラゴンが? 今のはドラゴンが弁護人を攻撃したの? バチバチって雷のような魔法で? 弱っているから威力はそうでもなかったようだけど。
『人の娘よ…………その者には……高位の……何か……がついて……いる。煽る……危険』
高位の何かが?
こんな状態なのに、わたしを助けてくれたんだ。
心の奥からブワーッと何かが湧きあがってくる。
「聖獣、神獣、高位のドラゴン。人でないものを手懐けるのがうまいんだね、お嬢ちゃんは」
男は落ちた短剣を拾い上げ、チロリとわたしを見た。
わたしのダメージを心から喜んでいる。最悪なヤツだ。
「ああ、そうか。お嬢ちゃんの母君は光の使い手でしたね。光の力で治癒をされ感謝されるところを見てきた。それがいつしか自分のしてきたことのように感じられて、自分のことを勘違いしてしまったようだね」
弁護人はにっこりと笑う。
「だからそんなに傲慢なんだ」
そう笑われ、こんな場面でわたしは落ち着いてしまった。
横を見れば、息絶え絶えのドラゴンが壁に打ちつけられている空間で。
普通の令嬢だったら、弁護人の言葉の畳み掛けで揺らぐだろう。
けどわたし、けっこう悪口言われてきたから。
我ながらひねくれているなーと思うけど、わたしを思って言われた言葉ならぐさっとくるけど、わたしを傷つけようという気持ちには鼻が効いて気がつくし、それで言われたことなら、ちゃんちゃらおかしいと思えてしまう。
本当、人生って何がどう糧になっていくかわからないものよね。
弁護人はわたしが堪えていないのにすぐに気づく。
すると作戦を変えてきた。
「このドラゴンを、母君に頼んで治して差し上げますか?
ドラゴンが喜んでお礼を言うとでも?
断言します。力が戻ったドラゴンが一番先にすることは、治してくれた母君を屠ることでしょう。お嬢ちゃんが大切にしている、家族、友達、領地をめちゃくちゃにする。それでもお嬢ちゃんは助けてやったドラゴンだから手を出さないのですか?」
なかなかどうして。
迷いゾーンをついてくるのがうますぎる。
答えてもきっと畳み込まれる。奴の思うような流れに持っていかれる。
わたしの精神をいたぶる気、満々だ。
だからわたしは、クスッと笑ってやった。
少し驚かせることができたらしい。目が大きくなった。一瞬だったけど。
咳払いをしている。
「何かおかしかったかね?」
「おじさんは、わたしに興味があるのね。13歳の少女の何が怖いの?」
「怖くなんかないよ。君みたいなお嬢ちゃんは何もできないからね」
「怖くないのに、拐ったの? わざわざ弁護人にまで化けて法廷に出て、わたしと聖獣そして護衛を引き離して、わたしの苦手な瘴気を使ったでしょう?
こんな小娘相手に、ずいぶん大袈裟なことをして拐ったものよね?
その後は違う大陸に連れてきて、着ぐるみ剥がして。
これ、わたしを怖がっているようにしか思えないわ」
「お嬢ちゃんが怖かったわけじゃない。確実に君を手に入れるために、二度手間にならないよう、念を入れただけだ」
あの拐い方は、この人の本意ではなかったのかもしれない。
大掛かりだもんね、たったひとりの少女を誘拐するだけに。
「拐ってきて、わたしに何をさせたいの?」
ふっと笑う。
「君はそれが知りたかったのか。
なるほどな。たった13歳の少女でも、気をつけるべきだと忠告があったのはこのことだな。君のペースに乗せられかけていた」
残念。もうちょっと話して、情報を落としてくれるかと思ったのに。
「味方のいないたったひとりの状況で、そこまで強くいられ、ハッタリもでき、気位の高さは称えよう。とても13歳とは思えない。怖くはないのかい?」
「拐われたの、初めてじゃないから」
弁護人はクスッと笑う。
「初めてじゃなくても、これからどうなるかわからないんだ。怖いだろう?」
わたしもクスッと笑って返す。
「おじさん、話聞いてた? 初めてじゃないってことは、この先どうなるか知ってるってことだよ。悪いことをした人は、みんなその罪を償わないといけないの。それゆえに、わたしの前から悪い人は消える」
弁護人は目をスッと細めた。
「何が良くて何が悪いって、誰が決めるんだい?」
わたしも目をすがめる。
「おじさん、小娘に聞かなきゃ、そんなこともわからないの?」
額に青筋を立てた。感情があるんじゃない。
人の心を精神的に追い立てて、高みから見ようとする奴は、自分の感情の起伏をまず隠そうとする。自分が精神的に追い立てられたくないから、見せないようにするのが上手くなる。
「いいや、わかっていないのは君だから、教えてあげようと思ったんだよ」
弁護人以外に人が来ない。何でだろう?
「必要ないわ。立場が変われば、いいことと悪いことなんて逆転するとか言って煙《けむ》に巻きたいだけでしょ?」
「わかっているなら話は早い。君が罪を償う側なんじゃないかい?」
「成人前の少女が? 非力で経験の少ない令嬢の、拐われたことがわたしの罪になるとでも?」
「……拐われるようになることを、君がしたとは考えないのかい?」
「たとえ拐われるようなことをしたとしても、拐う方に罪があるでしょ?」
男はおし黙る。
「悪いことをしたと思うなら、その悪いことで向き合わなくちゃ。拐うってもう焦点がズレてる。だから、そこでもう悪いの。何をどう言い繕ったって、拐う方が悪よ。それは変わらない。あなたもいずれ罰を受ける。わたしは元の場所に戻る。これはどんなルートを辿ったとしても、結末は変わらない。だからわたしは怖くない」
「言わせておけば!」
弁護人が手をあげた。
打たれる!
と思った時、男がバチバチと感電したようになった。
え?
男は憎々しげに、壁のドラゴンを見上げる。
「この死に損ないが!」
服の中から出した短剣をドラゴンに向かって投げた。けど、丈夫なドラゴンの皮膚には突き刺さることなく落ちた。
ってことはあの埋め込まれた杭や剣は、どんな力を……。
いや、そうじゃなくて。
ドラゴンが? 今のはドラゴンが弁護人を攻撃したの? バチバチって雷のような魔法で? 弱っているから威力はそうでもなかったようだけど。
『人の娘よ…………その者には……高位の……何か……がついて……いる。煽る……危険』
高位の何かが?
こんな状態なのに、わたしを助けてくれたんだ。
心の奥からブワーッと何かが湧きあがってくる。
「聖獣、神獣、高位のドラゴン。人でないものを手懐けるのがうまいんだね、お嬢ちゃんは」
男は落ちた短剣を拾い上げ、チロリとわたしを見た。
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