プラス的 異世界の過ごし方

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17章 わたしに何ができたかな?

第801話 閉じられなかったゲーム (後編)

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「今もゲームってやる?」

 わたしはあんまりと、正直に答えた。
 彼はラインをつなげて、わたしにそのゲームをインストールする方法を教えてくれた。

「そのフリースクールの子と仲良くなれるとっかかりでもいいしさ、遊んでみれば? 乙女ゲーだし、確かにどのルートも似たような印象を受けるかもしれないけど、俺は気に入ってんのよ」

 そう言って彼はため息をついた。

「その友人キャラってのが、ちょっとぶっとんでてさ。妹が好きなんだけど」

「妹が好きなの?」

「血は繋がってないんだけどね」

「ああ、そういうこと」

「皺寄せになるたびに、いちいちその妹が酷い目にあうんだよ。それで友人キャラが奮起するんだけど。それがかなり有能なわけよ。攻略対象者に合わせて能力が変動するからだけど、オールマイティー。攻略対象者よりよっぽどじゃん?って思ったりもした」

 ハハと乾いた笑い声をあげる。

「もっと最初からきちんとみてればよかった。そしたら閉じないゲームにはならなかったのに」

「閉じないゲーム?」

「エンドマークを打てないゲームってこと」

「エンドマークのないゲームか……」

「後悔してたんだ。乙女ゲーって女性がトップの方がいいと思ったから任せてた。俺がチェックしても気づかなかったかもしれないけどな。それで出資者が離れて行って、出せないってわかってから、いちからやってみたんだ。そしたらちゃんと面白くてさ。きっと楽しんでもらえるゲームになれるはずだったのに。俺がちゃんと見てなかったから、全て壊して、ゲームは閉じないし、会社は潰れるし、あいつだって、きっと傷になった」

 深い後悔にのまれている。
 元気を出して欲しいけれど、現実の彼とは卒業してから今日会うまでほぼ接点がないし、在学中も何度か話したことがあるだけで、よく知っているわけではない。そんなわたしが彼に言えることは思いつけなかった。
 だから彼の後悔しているゲームのことに想いを馳せた。

「それでもゲーム、好きでしょ?」

「え? ……ああ、そうだな」

「案外楽しんでいるかもよ、その妹も」

「……だったら頼もしいな」

 彼は組んだ手におでこを置いて、祈っているように見えた。
 お蔵入りになってしまったゲーム、その製作者であるスタッフたち、それからゲームの中のキャラたちのことにまで想いを馳せている。

「きっとお前みたいなバイタリティーのあるやつが〝妹〟なんだな。だったら、いいよなー」

 バイタリティーはないので、そこはスルーする。

「言ってたよね、物事には必ず理由があるって」

「ああ、そう思って……た。そうやってゲームを作れって信条にしていて。イベントには絶対理由を盛り込ませた。流れにも。理由があって物事が起こるように。ゲームを遊ぶ人が気づいても気づかなくてもオッケー。でも作り手は絶対に理由を盛り込むことって。それを強要して、人の人生を狂わせた。だから、何にでも理由をつけるべきではなかったのかもと今は思う」

「そうかな? わたしは真理だと思ったよ。原因があるから結果がある。なんでも理由があると思うとほっとするもん。
 きっとその妹さんも理由を見つけられる子なんだよ。だからいろいろ降りかかるの」

「……そうだったら、いいの……かな? やっぱ、お前〝妹〟やってよ」

「何言ってんのよ。……でもさ、閉じてないのも、きっといい方向に作用するんだよ。未来はそれこそ、今日の一歩で大きく変わるかもしれないんだから!」

「なんだよ、励ましてもらっちゃったな?」

 彼は照れくさそうに笑う。

「おあいこになるかな。わたし音楽室で言ってもらったことで励まされたから」

「え? 俺、何言った?」

「わたしトロいから、あの頃流行ってたオンラインゲームについていけなくてさ。そしたら教えてくれたんだよ。ゲームは楽しんだ者勝ちなんだって」

「あはは、言いそう」

「うん、言った。確かにそうだなって思えて、わたし友達に素直に言ってみたんだ。
 わたしトロいけどって前もってことわって。本当は一緒にやってみたいんだって。そしたらね、それでもいいって言ってもらって、一緒にパーティ組んでオンラインゲーム始めたんだよ」

「おお、そうだったのか! それで?」

「いや、やっぱりトロいってことを再確認することになったけど、楽しかった。みんなわたしのキャラが死なないように考えてくれて。大変だったけど、チャレンジして楽しもうとしたら楽しめた。すっごく楽しかったの!」

「まさか、同級生に影響を与えてたとはな……」

 彼はゲームのことで知らないことはないと同級生に噂されていた。
 そして、本当にどんなマイナーのゲームの話をしても、答えが返ってきたようだ。
 彼のアドバイスが的確だったことからも、同級生に与えた影響はかなり大きかったと思う。

「わたしやってみるね、このゲーム」

「ああ。夢中になって夜更かしして、赤信号渡ろうとするなよ?」

「あはは、それは気をつけないとだね」

 視線を落とすと、靴の爪先が汚れていた。
 最近何かがあったわけではないけれど、余裕がなくなっていたんだなと気づく。
 わたしも話していた。

「……わたしも懺悔。
 教師を辞めたのは、体を壊しちゃってね」

「ブラック? モンスターペアレンツ?」

「副担だったクラスでね、攻撃的な子がいたの」

「攻撃的か……」

「その子が親から虐待受けてたことが後からわかって。担任の先生も心が病んで倒れちゃって。副担だったわたしが引き継いで担任になった。児相も交えていろいろ話したんだけど、結局親子は距離を置くことになって。
 その時その子に泣いて叩かれたんだ、なんで引き離すんだって。何も知らないくせに口出すなって。教壇に立つと、その時のこと思い出しちゃって。震えて言葉が出なくなってさ……それで辞めた」

 肩を叩かれた。

「お前はそれが傷になってんだな」

「そうだね。それにね、今も答えは見つかってない」

「そりゃそうだろ。人は状況でいつだって違うし。答えなんて定義でいくらでも違ってくる。
 間違わないためには何が悪かったか見極めることも必要だけど、悪いことだって定義によって変わってくる。だからさ、俺たちは結局その時の1番の思いでぶつかるしかないわけだ。いつもいつもそのことを考えていても、きっと毎回出す答えは変わってくる。
 俺だってそうだ。あの時こうしていればって考えることはできるけど、それは未来では歯が立たない。状況や顔ぶれ、全てが一緒のことなんてないからな。結局、その時の自分が対処していくしかないんだ」

「……そうだね」

「長話しちゃったな。ゲームやってくれよな?」

「感想送るよ、このラインにいれる」

「おお、楽しみに待ってるよ」

「うん。わたしたち、頑張ろうね!」

「そうだな」

 彼は手をあげて答えた。

 さてと。
 わたしは少し晴れ晴れした気持ちでいた。
 そういえばこの頃、惣菜を買ってばかりで、あまり料理してなかった気がする。
 翔ちゃんの大好きなコロッケでも作るか。
 一緒に夕飯を食べながら今日の話をしよう。
 上原くんと会って。
 あ、そうだ。彼は上原くんだ!
 名前を思い出してスッキリした。

 彼はわたしの名前を思い出しただろうか?
 ふたりともなぜかお互いの名前を聞かなかった。
 ……だから話せたのかもしれない。
 知ってる顔だけど、知らない相手。そんな人だからこそ、打ち明けられることもある。

 顔をあげると、見知った姿。
 あ、三上さん、やっぱり三上さんだ。
 フリースクールのこの頃休んでいる、髪を長く伸ばしたおとなしい子。
 え? 彼女は赤信号に気づかないのか、歩き出そうとしている。
 わたしは走った。

 向こうの方で悲鳴が上がっている。
 なんかあったみたいだ。
 でもわたしはそれどころではない。

 上原くんがしてくれたように手を伸ばし、三上さんを強くひく。
 振り返り、目を大きくした三上さん。
 クラクションとブレーキ音が響いた……。
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