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16章 ゴールデン・ロード
第798話 ゴールデンロード
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「それにしても、最初に君が言い出した時には、何を言い出すんだって驚いたけど、見事だよ。敵を味方に……」
「そんなのではないけど、皆の誘導が納得させるものだったのよ」
わたしひとりじゃ、やはり誘導できなかったと思う。
ナムルの目的は瘴気だった。瘴気でグレナンの研究を進めることだった。
みんな封印を解かれたら世界が終わると絶望的な意見を出したけど、わたしはもしその瘴気をなんとかできるならして欲しいと願いを案にした。
だってさ、その瘴気って封印することでしか抑えようがなかったわけだけど、それはユオブリアに瘴気のスペシャリストがいなかったからかもしれない。
グレナンの進んだ研究で瘴気をなんとかできる術があるなら、やって欲しい。
誰がやったって、どういうやり方だって構わない。
最終的に世界を壊さず、なるべく傷つけずにどうにかできるなら。
誰がとか、どうやってとか、そこは問題ないと思うんだよね。
「トルマリンさんだって、あの地下の瘴気をどうにかできる自信はないって言ってたものね。瘴気を少しずつあそこから抜くか、封印をもっと強化できる何かを見つけないとね」
「でも最初はもっと途方もなかった。どうにもできないと思われた。それがここまで実現できそうなことになっているんだ。未来は明るいよ」
「そうだね」
「……夜も更けたし、それじゃぁ、また。おやすみ」
「おやすみなさい」
アダムとのフォンを切ったところにノックがあった。
『フランツだ!』
クイが嬉しそうに言って、専用の出入り口から出て行った。
「兄さま」
わたしもドアを開けて、兄さまを誘う。
兄さまの首にクイが巻きついていた。
「誰と話してたの?」
「アダムと」
「へー、どうだって、ナムルの様子は?」
「トルマリンさんについて、呪術師としてかなり腕をあげたみたいよ。数日で」
「それは素晴らしいね。アダムからはいつも連絡が?」
「時々教えてくれるよ。こっちのことも話して」
「そうか。明日はヴェルナーの裁判だ。早く休んだ方がいい」
兄さまは部屋には入ってこないで、わたしの頭を撫でた。
「明日は父さまの代わりに、私が裁判所に一緒に行くよ」
「あ、そうなんだ。ありがとう」
ミニーとアプリコットは調書のみにしてもらった。
裁判ってわりと多くの人の目に触れる。人から見られるのだ。中には顔を覚える人もいるかもしれない。注目を浴びる側からすると、自分に注目している大勢の人は覚えられない。知らない人に、自分を知られるのは怖いことだ。
ミニーやアプリコットはまだ小さな女の子だし。わたしは貴族なのである程度のことからは守られるけれど、平民である彼女たちは顔を覚えられるべきではないと思う。
だから裁判にはわたしが出ることにして、ミニーたちは調書のみとしてもらった。
裁判が始まる直前まで、ヴェルナーはわたしとの話し合いを持とうとした。わたしは一切応じなかったけど。それゆえに、裁判では荒れるようなことを言い出すんじゃないかと予想している。
ちなみに闇ギルド&そこで作っていた玉のことは世界議会に相談済みだ。
話が思いの外進展したのは、闇ギルドの露出が世界議会にとって初めてではなかったから。
闇ギルドの存在は認識していて、尻尾を掴むのに対策を練ったりしたが、なかなか掴むことができなかった。やはりその危険な魔法・レアスキル・ギフトを詰め込み、それを売って犯罪を手助けしている団体であり、魔力のある子供たちをさらったり、レアスキル持ちが突然消えたりするのには、その組織がかかわっているのではないかと思われた。
でも犯罪にかかわっていた証拠を残さないこと、尻尾を掴ませないことから、大々的に調べることもできず、証言も得られないことから難航していた。
ところが、今度の騒動で、犯罪に使おうとしていたトルネード玉とバイ玉を得ることができた。しかもギルドのサイン入り。これは作り手である子供たちにサインを入れて欲しいとお願いしたものだ。
お願いしたものの子供たちは文字を知らなかった。それでどうしようと思っていたら、仲間にみせる絵があるとキノが言った。それと同じのをつけとくと言っていってくれて……。子供たちが入れた絵と、実際の玉に同じ絵があればサインと言えないこともないかとそうしてもらったのだが、なんとその絵が闇ギルドの仲間と証明するための、組織員の刺青と同じものということがわかった。
子供たちのお手柄だった。
確かに彼らが作ったものが犯罪には使われていたけれど、まだ幼いこと。捕らえられてやるしかない精神状態に追い込まれていたし、今回離脱の意思を見せ、大きく貢献したこと、それが成果に繋がっていることで、彼らは罪には問われない。
世界議会の調査員に、ギルドでのことを何度も話したり、魔法をいれる際のことを話すなどして、その後子供たちはシュタイン領預かりとなった。
今は領地でキートン夫人たちに面倒を見てもらいながら、子供自立支援団体に登録して、これからのことをゆっくり考えていくつもりだ。
魔法やスキル、ギフトを入れられる魔石については世界議会もまだわかっていないことだという。念のため、キノたちに普通の魔石に同じように魔法を込めてもらったところ、一つ残らず魔石が割れ、みんな困惑していたという。
紺色のおとなしいワンピースで臨む。
王都の家へとルーム経由で行き、兄さまと馬車で裁判所へと赴く。
馬車の中に、もふさまともふもふ軍団はお留守番だ。
「リディー、緊張してないかい?」
「慣れつつあるみたい」
こんなことに慣れたくはないけれど。
「それならよかった」
「でもたとえどんなに慣れても、真実しか言わないことを誓うわ」
兄さまがゆるくわたしを抱きしめる。
「大丈夫、リディーはズルイことをしたりしないから。そのことは私が一番わかってる」
そう言ってもらって、なんだか泣きそうになった。
心の中で兄さまに尋ねる。
どれだけ強くなれたら、非情な術を手にしなくても、大切なものを守れるようになるんだろう?
やることが盛り沢山の時には、そんな考えに及ぶことはないのに、ちょっとした隙間時間が出来たり、ひとりの時間ができるとそんな考えに揺られてしまう。
ほら、今は裁判に集中しなくちゃ。
「リディー、アダムの言った9代目聖女の言葉、覚えてる?」
「え? ああ、黄金の礎ってやつ?」
兄さまは馬車を降りるのに、エスコートしてくれた。
「アダム同様、私も9代目聖女はあんまり好きじゃないんだ、どうしてだか。苦労するししてるし、なぜなのかわからないんだけどね。でも確かに潔いんだ。
自分のしたことだからその責任は自分が持つって言い切るし、だからこそ、今までの道が黄金の道だって言えるんだと思う。
リディーの歩いてきた道も、まさしく黄金の道だよ」
励ましてくれた兄さまの手をギュッとしてお礼を表す。
「兄さま、わたしね、わたしがどうしたいか、少し見えた気がする」
「ん?」
「わたしはね振り返ってあの頃よかったというのではなくて、いつだって今が一番で、今いる道が最高って言えるように生きたいの。だから、裁判も全力で臨んでくる」
兄さまがわたしのおでこに口づけた。
「傍聴席から見ているよ。しっかり戦っておいで」
「ありがとう」
兄さまが見ていてくれるから、見られていると思うから、わたしはしゃんと立っていられるんだ。
人と違おうが、我が道だと言われても、これがわたしの突き進む道、それがわたしだけのゴールデンロード。
兄さまと別れ、わたしは証人席に腰を下ろす。
連れてこられたヴェルナーは頬がげっそりこけていた。
ぎょろっとした目でわたしを見ると、ニタリと笑う。
最後に第一書記官が入場され、わたしたちは起立をし、始まりの礼をする。
訴えが読み上げられ、それに間違いはないかとヴェルナーに尋ねる。
「いいえ、私は悪いことは何ひとつ致しておりません。すべてはそこのリディア・シュタインに陥れられたのでございます」
意気揚々とヴェルナーは言った。
「そんなのではないけど、皆の誘導が納得させるものだったのよ」
わたしひとりじゃ、やはり誘導できなかったと思う。
ナムルの目的は瘴気だった。瘴気でグレナンの研究を進めることだった。
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だってさ、その瘴気って封印することでしか抑えようがなかったわけだけど、それはユオブリアに瘴気のスペシャリストがいなかったからかもしれない。
グレナンの進んだ研究で瘴気をなんとかできる術があるなら、やって欲しい。
誰がやったって、どういうやり方だって構わない。
最終的に世界を壊さず、なるべく傷つけずにどうにかできるなら。
誰がとか、どうやってとか、そこは問題ないと思うんだよね。
「トルマリンさんだって、あの地下の瘴気をどうにかできる自信はないって言ってたものね。瘴気を少しずつあそこから抜くか、封印をもっと強化できる何かを見つけないとね」
「でも最初はもっと途方もなかった。どうにもできないと思われた。それがここまで実現できそうなことになっているんだ。未来は明るいよ」
「そうだね」
「……夜も更けたし、それじゃぁ、また。おやすみ」
「おやすみなさい」
アダムとのフォンを切ったところにノックがあった。
『フランツだ!』
クイが嬉しそうに言って、専用の出入り口から出て行った。
「兄さま」
わたしもドアを開けて、兄さまを誘う。
兄さまの首にクイが巻きついていた。
「誰と話してたの?」
「アダムと」
「へー、どうだって、ナムルの様子は?」
「トルマリンさんについて、呪術師としてかなり腕をあげたみたいよ。数日で」
「それは素晴らしいね。アダムからはいつも連絡が?」
「時々教えてくれるよ。こっちのことも話して」
「そうか。明日はヴェルナーの裁判だ。早く休んだ方がいい」
兄さまは部屋には入ってこないで、わたしの頭を撫でた。
「明日は父さまの代わりに、私が裁判所に一緒に行くよ」
「あ、そうなんだ。ありがとう」
ミニーとアプリコットは調書のみにしてもらった。
裁判ってわりと多くの人の目に触れる。人から見られるのだ。中には顔を覚える人もいるかもしれない。注目を浴びる側からすると、自分に注目している大勢の人は覚えられない。知らない人に、自分を知られるのは怖いことだ。
ミニーやアプリコットはまだ小さな女の子だし。わたしは貴族なのである程度のことからは守られるけれど、平民である彼女たちは顔を覚えられるべきではないと思う。
だから裁判にはわたしが出ることにして、ミニーたちは調書のみとしてもらった。
裁判が始まる直前まで、ヴェルナーはわたしとの話し合いを持とうとした。わたしは一切応じなかったけど。それゆえに、裁判では荒れるようなことを言い出すんじゃないかと予想している。
ちなみに闇ギルド&そこで作っていた玉のことは世界議会に相談済みだ。
話が思いの外進展したのは、闇ギルドの露出が世界議会にとって初めてではなかったから。
闇ギルドの存在は認識していて、尻尾を掴むのに対策を練ったりしたが、なかなか掴むことができなかった。やはりその危険な魔法・レアスキル・ギフトを詰め込み、それを売って犯罪を手助けしている団体であり、魔力のある子供たちをさらったり、レアスキル持ちが突然消えたりするのには、その組織がかかわっているのではないかと思われた。
でも犯罪にかかわっていた証拠を残さないこと、尻尾を掴ませないことから、大々的に調べることもできず、証言も得られないことから難航していた。
ところが、今度の騒動で、犯罪に使おうとしていたトルネード玉とバイ玉を得ることができた。しかもギルドのサイン入り。これは作り手である子供たちにサインを入れて欲しいとお願いしたものだ。
お願いしたものの子供たちは文字を知らなかった。それでどうしようと思っていたら、仲間にみせる絵があるとキノが言った。それと同じのをつけとくと言っていってくれて……。子供たちが入れた絵と、実際の玉に同じ絵があればサインと言えないこともないかとそうしてもらったのだが、なんとその絵が闇ギルドの仲間と証明するための、組織員の刺青と同じものということがわかった。
子供たちのお手柄だった。
確かに彼らが作ったものが犯罪には使われていたけれど、まだ幼いこと。捕らえられてやるしかない精神状態に追い込まれていたし、今回離脱の意思を見せ、大きく貢献したこと、それが成果に繋がっていることで、彼らは罪には問われない。
世界議会の調査員に、ギルドでのことを何度も話したり、魔法をいれる際のことを話すなどして、その後子供たちはシュタイン領預かりとなった。
今は領地でキートン夫人たちに面倒を見てもらいながら、子供自立支援団体に登録して、これからのことをゆっくり考えていくつもりだ。
魔法やスキル、ギフトを入れられる魔石については世界議会もまだわかっていないことだという。念のため、キノたちに普通の魔石に同じように魔法を込めてもらったところ、一つ残らず魔石が割れ、みんな困惑していたという。
紺色のおとなしいワンピースで臨む。
王都の家へとルーム経由で行き、兄さまと馬車で裁判所へと赴く。
馬車の中に、もふさまともふもふ軍団はお留守番だ。
「リディー、緊張してないかい?」
「慣れつつあるみたい」
こんなことに慣れたくはないけれど。
「それならよかった」
「でもたとえどんなに慣れても、真実しか言わないことを誓うわ」
兄さまがゆるくわたしを抱きしめる。
「大丈夫、リディーはズルイことをしたりしないから。そのことは私が一番わかってる」
そう言ってもらって、なんだか泣きそうになった。
心の中で兄さまに尋ねる。
どれだけ強くなれたら、非情な術を手にしなくても、大切なものを守れるようになるんだろう?
やることが盛り沢山の時には、そんな考えに及ぶことはないのに、ちょっとした隙間時間が出来たり、ひとりの時間ができるとそんな考えに揺られてしまう。
ほら、今は裁判に集中しなくちゃ。
「リディー、アダムの言った9代目聖女の言葉、覚えてる?」
「え? ああ、黄金の礎ってやつ?」
兄さまは馬車を降りるのに、エスコートしてくれた。
「アダム同様、私も9代目聖女はあんまり好きじゃないんだ、どうしてだか。苦労するししてるし、なぜなのかわからないんだけどね。でも確かに潔いんだ。
自分のしたことだからその責任は自分が持つって言い切るし、だからこそ、今までの道が黄金の道だって言えるんだと思う。
リディーの歩いてきた道も、まさしく黄金の道だよ」
励ましてくれた兄さまの手をギュッとしてお礼を表す。
「兄さま、わたしね、わたしがどうしたいか、少し見えた気がする」
「ん?」
「わたしはね振り返ってあの頃よかったというのではなくて、いつだって今が一番で、今いる道が最高って言えるように生きたいの。だから、裁判も全力で臨んでくる」
兄さまがわたしのおでこに口づけた。
「傍聴席から見ているよ。しっかり戦っておいで」
「ありがとう」
兄さまが見ていてくれるから、見られていると思うから、わたしはしゃんと立っていられるんだ。
人と違おうが、我が道だと言われても、これがわたしの突き進む道、それがわたしだけのゴールデンロード。
兄さまと別れ、わたしは証人席に腰を下ろす。
連れてこられたヴェルナーは頬がげっそりこけていた。
ぎょろっとした目でわたしを見ると、ニタリと笑う。
最後に第一書記官が入場され、わたしたちは起立をし、始まりの礼をする。
訴えが読み上げられ、それに間違いはないかとヴェルナーに尋ねる。
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