プラス的 異世界の過ごし方

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16章 ゴールデン・ロード

第794話 瘴気談義①メンバー

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 家族を説得するのに時間がかかった。
 わたしがひとりでナムルと対峙すると一度は納得したものの、目の前に迫ったら、やはり危なすぎると思ったようだ。

「昨日ヴェルナーと対決してなんでもなかったでしょう? 領地ならハウスさんの魔力が行き渡っている。わたしは最強よ」

 みんな苦虫を噛み潰したような顔だ。
 わたしはもふさまを抱えて、早々に家を出た。

 ナムルがきたらハウスさんに教えてもらって、ナムルの思う〝聖域〟に行くつもりだったけれど、きっとナムルは家を監視していて、わたしを見てる。目で見てるのか、魔力で見る何かがあるのかは知らないけど。ん? もふさまもナムルの魔力はそこまででもないって言ってるから瘴気で見るのかな? ……それはなんか嫌。
 でもまぁ、外を歩いていれば、声をかけてくるだろう。
 探索で近くに人はいない。
 これももっと情報を盛ろうとして失敗してから、怖くていじってないんだよな。
 感度のいい、もうちょっとレベルをあげた探索にしたい。

 ハウスさんに近くに人がいないか尋ねる。
 いないとのことだ。
 アダムと同じぐらいの高速で移動が可能。そして探索のようなこともできるんだと思う。

 ハウスさんがナムルの気配を捉えたらそこに行けばいいし、多分、ナムルの方から来るだろう。
 グダグダ同じことを考えている。ちょっぴりナムルが怖いのだと思う。

 と思っていると、ナムルが100メートル先にいるという。昨日は町側ではなく山側に潜んでいたようだ。山は本当に聖域だしね。

 あと20メートルというところで、ハウスさんに教えてもらい、ピタリと足を止める。

「昨日は悪かったわ。それから助けてくれてありがとう」

 一拍置いてから、ナムルが道に出てくる。

「聖獣と一緒とはいえ、君ひとりですか?」

「そうよ」

「私は瘴気を操る。君は瘴気が苦手。それなのに君ひとりで出てきたのですか? 危機管理がなってないね。いや、それぐらいで過保護な君の家族や知り合いたちがそれを許すわけないか……。君はある程度、強いんだね、本当に」

 強いわよと胸を張りたいところだけど、それじゃあと遠慮なしに攻撃されるのは嫌なので、代わりに言う。

「あの広告で現れたってことは、欲しいものがあるのよね? それを手にするまでわたしは安全だわ」

「私の欲しいものが君だったら?」

「それはないもの」

「なんでそう言い切れるんです?」

「わたしを手にしても、あなたの欲しいものは手に入らないから」

 ナムルは視線だけで天を仰いだ。

「私は君が好きなんだ。婚姻を結ぶって言っただろう?」

 余裕綽綽に笑っている。
 その顔が〝嘘〟って物語ってるよ。

「自分が目の前の相手に好かれているかどうかなんて、わかるに決まっているでしょう? あなたはわたしのこと好きではないわ。っていうか、この不毛なやりとりをする意味ある?」

 わかりきっているし、ふたりと、もふさましかいないのに。
 もふもふ軍団には、子供たちの様子を見てもらっているんだ。
 アオは姿を見せず声だけでしか触れ合っていないのに、それでも知っている声だと安心してたし。だからもふもふ軍団にお願いした。

「君、せっかちだね。君は私の欲しいものがわかっている口ぶりだけど、なんだと思っているんです?」

「それに答えたら、あなたは何をくれる? セイン国との関係を話してくれるかしら?」

 ナムルは下を向いてちょっと笑った。
 なんで笑う?

「聖獣や神獣は本当に君にだけ情報を与えたりしないんだね。それに君も賢いけど、策を練るのは違う人がいるようだ。
 ブレド殿下、バイエルン侯爵、エンター伯子息あたりかな? 
 知りたいのは私とセイン国との関係じゃなくて、セインのやろうとしていること、だろう? そう言わないと駄目じゃないか」

 だ、ダメ出しされた……。

「この様子を誰かが見てるの? 昨日みたいに?」

 わたしは首を横に振る。
 なぜかナムルはため息をついた。

「繋げていいですよ」

「え?」

「だから、君の策士たちとも繋げていいですよ。そうじゃないと二度手間になりそうだから」

「し、失礼ね、あなた!」

 これってわたしじゃ話にならないから上の人出して、とクレームつけられたのと同じことよね?

「私は欲しいものがある。それは君の考えているもので当たっていて、君たちは何かしら条件をつけてくるのだろう。そこに私も条件をつけたい。
 セインのことをひとつ話すことによって、ひとつ私の願いを叶えて欲しい。ひとつめは指名手配を解くこと。これ、君に決定権ある? それに掛け合えるような人とも繋げてくれよ」

 ……ナムルと会い、まずみんなと話せるよう話をもっていけと言われた。それに反対してわたしのやり方で話すと交渉したのに、ナムルから提案されるとは。

 心の中でハウスさんに家族に繋げるようにお願いする。
 父さま、アラ兄、ロビ兄だ。わたしたちの会話が聞こえる。
 フォンを出してアダムにかける。
 待ち構えていたようにワンコールで出た。

「セインのことをひとつ話すごとに願いを叶えて欲しいんですって。そのひとつめは指名手配を解くことで、それに掛け合える人と繋げてと言われました」

 棒読みチックになった。
 クスッとアダムの含み笑い。

「それはなかなかの先制攻撃だね。ブレドがいるから大丈夫だ。こちらは私とブレドとクラウス……が聞いている」

「わかった。それじゃあ、スピーカーにするね」

 フォンのボタンを押してスピーカーにする。

「ブレド殿下とエンター伯子息さま、バイエルン侯爵に繋がっているわ」

「本当にユオブリアは進んでいるね。こんな進んでいる国にセインが勝てるわけはないのに」

 そうナムルは呟いた。

「ユオブリアの小さき太陽にご挨拶申し上げます」

 フォンは音のみとわかっていても、ナムルは丁寧に礼をした。

「よくも瘴気を盛ってくれたな? 水に流す気にはなれないが、話し合い次第では力になろう。けれど交渉役を務めるリディア嬢に危害を与えた場合、何ひとつお前の望みは叶わないし、極刑にするので覚えておけ」

 おっと、ロサ怒ってる。
 やっぱり口移しで魔力を入れられたのかな?
 誰にも言わなかったし、不名誉なことと思っているのだろうから、わたしも黙っていよう。

 ナムルは笑う。

「お優しいですね。殿下に瘴気を盛り、そしてセインのしてきたことを考えれば、リディアさまに私との交渉を任されるなんて、あり得ないこと。私が害さないと、何を見てそう思ったのです?」

「あなたの目的がユオブリアに欲しいものがある、だったからですよ」

 ナムルは不審な顔だ。
 ナムルが見えているわけでないだろうに、アダムは続ける。

「あなたがセイン国のブレーンだと確信しています。でも、セインのやったことと、あなたの望みと一致はしていない」

 それを聞き、ナムルはふっと口元を綻ばせた。




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