プラス的 異世界の過ごし方

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16章 ゴールデン・ロード

第791話 敵影⑤腹いせ

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 入ってきたのがヴェルナーだったので驚いた。
 なんで、もうシュタイン領に?
 ヴェルナーがドアの後ろを振り返る。

「おい、子供が3人と男といわなかったか? 中には2人しかいねーぞ? それも手も足も自由じゃないか」

「え、そんなはず?」

 とさっきの2人が入ってきて、その時に小さなレオとアリとベアも入ってきた。彼らには気づかれない素早さで、わたしの足元に潜んだ。

「縄、切ってやがる。おい、女ふたりはどうした?」

「何をおっしゃっているのか、わかりませんわ」

 コホンと喉を整える。

「それより、わたしをここにしたのは、ヴェルナー伯爵さまでしたの?」

「相変わらず、生意気ですね。子供のくせに、いつも男を従えて」

 はい?

「この方は、わたしとは全く関係がありませんわ。関係ないって言っているのに、そちらの方が連れてきたんです。わたしに話があるんですよね? 関係ない方はいらないんじゃありません?」

「そうなのか?」

「こちらに来る途中に、そっちの男が声かけてきて長引きそうだから一緒に捕らえたんですよ」

 ヴェルナーは頷く。

「君、運が悪かったね。恨むなら、このリディア・シュタイン嬢を恨みたまえ」

「私は女性をいたずらに恨む趣味はありませんね」

 ナムルはグレナン語で言った。

「外国人か」

 ヴェルナーはひとりごちる。

「シュタイン嬢、こちらはどなただね? 外国の要人か?」

 わたしは隣のナムルを見る。

「指名手配はされてますね」

 するとヴェルナーは笑い出した。

「指名手配犯とシュタイン嬢、願ってもない組み合わせだ」

 あら、わたしヴェルナーに信用されているのね。指名手配犯なのは本当だけど、わたしの言うことをそのまま信じるなんて。

「領地の幼い女の子に刃物を突きつけて、わたしを呼び出した用件はなんですの?」

「お前が私が婚約してやらなかった腹いせに、山崩れを起こしたのは私だと訴え出たから、外国への店を出す許可が降りなかった!」

 は?
 あまりに驚きすぎって思考が追いつかない。
 え、今この人、なんて言った? 私が婚約してやらなかった腹いせ??
 何それ。

「君、この人と婚約したかったの?」

 ナムルに尋ねられ、わたしは高速で左右に首を振った。

「そちらが一方的に婚約という言葉を出してきただけで、わたしはお断りしましたわ。それにわたしの店に違法物を送りつけてきたり、襲撃してきたり、それがうまくいかないと山崩れを起こしたのはあなたです。訴えられて当然のことをしています」

 言っているうちに思い出してきて、ヒートアップする。

「襲撃まではわかります。でもどうして山崩れなんて? 山や街道にはわたしとかかわりのない人もたくさんいます。山には獣たちだって暮らしているんです。それなのにどうして?」

「シュタイン嬢はまるで、全ては私がやったかのように決めつけるのですね」

「グリットカー氏や失敗した時に魔具を使えと紛れ込ませていた人たちが自白しています」

「そんなのはお前たちがそう言わせているだけだ」

 そう言った時のヴェルナーの顔は醜く歪んでいた。

「外国でお店を出せないのは、当然の処置だと思います」

 そう言いつのれば、目の前にヴェルナーの無表情の顔があった。
 片手でわたしの首をつかんできた。
 ゆっくりとその手に力を込める。
 そんなやり方だからシールドが効かなかった。
 風魔法で吹き飛ばそうとした時、周りに黒い霧が現れる。喉に空気が入ってきてゴホッと咳き込んだわたしと同時に、ヴェルナーもゴホッとした。
 嫌な目でこちらを睨め付ける。

「なんだ、魔法か?」

 わたしじゃない。ナムルだ。意外だ、助けてくれた。
 わたしは喉を押さえながら、ナムルに目をやる。
 でも、わたしが何かしたことにしておいた方が、いいだろう。
 だからお礼は言えない。

『リディア、こいつ倒していいか?』

 わたしは微かに横に首を振って、レオたちに合図する。

 速配でフォルガードに魔石を送ったのはわかっているけれど、何をするつもりなのか想像の域を出ていない。速配ならとっくに店に届いて良さそうなのに、まだ届いていないのだ。

「謝らせてなかったな。謝る機会をやろう。私に詫びろ。自分が悪かったと認め、そして私に許しを乞え。聞いてやるかはわからないがな」

「あなたに謝るようなことは何もしていない」

 ガラガラ声がでた。思ったより喉を締め付けられたようだ。

「いいのか? 今謝れば、お前の店が吹っ飛ばなくて済むのに」

 やっぱり店にトルネード+バイ玉を送ったんだ。

「わたしの店に何をするつもり?」

「おっと、やっとことの大きさに気づいたか」

 ヴェルナーはドヤ顔をしている。

「お前が謝らなければ、お前の店が吹っ飛ぶ。従業員も客も、店の近くにいる奴らも吹っ飛ぶだろうな」

 嬉しそうに言ったヴェルナーの前で、ナムルが笑い出す。

「なんだ、お前、静かにしろ」

「いや、天下のユオブリアにも、とんだ下種がいるものだと思いましてね」

 ナムルはきれいなユオブリア語で言った。
 ヴェルナーが真顔になる。

「ふん。こいつが全て悪いんだ。女はそうやって自分の力で何もできないくせに、偉ぶりやがるんだからな」

「たとえそうでも、13歳の少女に怒りをぶつけるところが下種なんですよ。言いたいことがあるなら、成人している彼女の保護者か、出るところに訴えればいい。それをせずにこんな小さい子に怒りをぶつけるなんて。あなたは能力が低いんですね」

「な、ナムル」

 わたしは火に油を注ぐだろと思って、名を呼んで止める。

「彼女は店を持っている。それが悔しかったんですね? 少女がうまくやれているのに、自分はやれなかったから。リディア、君は外国にも店を持っているのかい?」

「ええ。フォルガードに1軒」

「この人はそれが悔しくてたまらないのだろうね。店に何か仕掛けたようだね」

 セインのブレーン、さすが。ヴェルナーとのここの会話だけで、仕掛けたのなら外国の店って気づいた。わたしはもふもふ軍団がついていて、外国に送ったときかなかったら、領地に何かしてくるとだけ思っていたと思う。
 

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