プラス的 異世界の過ごし方

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16章 ゴールデン・ロード

第790話 敵影④見届ける

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 わたしはできるだけゆっくり歩いた。
 時々もふさまに頼んでちょっと走り回ってもらい、追いかけたりした。
 みんなと情報を共有するための時間稼ぎだ。

『マスター、見慣れない魔力持ちが、近づいてきています』

 え?

『すごい速さです』

 ええっ? ヴェルナーの手下?

「もふさま、ミニーを守って」

 周りを警戒する。
 ええっ?
 上から降ってきたように降り立ったのは、民族衣装を身に纏っているナムルだった。

「私を呼び出しておいて、呑気に女の子と逢引ですか?」

 なぜにこのタイミング?
 わたしは掌を突き出した。

「ちょっと待って。今日は都合が悪くて、明日にしてもらえないかしら?」

「こんな僻地に呼び出しておいて、やっとたどり着いた私に待てと?」

「本当に今、取り込んでいて」

 スッとナムルが目を細めた。
 木の後ろから姿を現したのは、ナイフをこちらに向けた大柄の男だった。
 ミニーがヒィーと悲鳴を上げる。
 わたしはミニーの前に出る。

「ちんたら何してんだ? あのちっちゃいのがどうなってもいいのか?」

 ミニーが後ろで啜り泣いている。

「わたしが目的なんですよね? この子も、小屋に捕らえている子も解放してください。わたしが行きますから」

「駄目だ。お前には油断しないように言われている。お前、そこの小僧もついて来い」

「彼は全く関係ありませんので」

 絶対目の前の大柄な大人より、ナムルの方が強い。瘴気を使われても勘弁だし。ナムルがいるとわたしも魔力をあまり使えない。だから、本当にこいつはいてほしくない。

「なぜ言いなりになってるんですか?」

 その言葉で、彼にはわたしがこんなことから逃げられる力があると、見越しているのが窺える。

「あなたは関係ないんだから逃げてください。明日仕切り直しで」

 小声でナムルに告げた。

「何をごちゃごちゃ言ってやがる。こっちには人質がいるんだぞ?」

 わたしはミニーの腕を取り、歩き出す。
 うう、後ろにナムルがついてくる。
 わたしは震えているミニーと手を繋いでギュッとした。
 ミニーがわたしに視線を合わせる。

「ミニー、絶対、大丈夫。守るから」

 ミニーは頷く。

「あたしは大丈夫。でもアプリコットが。小さいのに。怖い思いをしてる」

 わたしはもう一度繋いだ手をギュッとした。
 小屋についた。

 男たちはもふさまを追い出そうとしたけれど、尻尾をふりふり横をすり抜けて、わたしとミニーのどちらかの横に来ようとするので、あきらめたみたいだ。
 吠えないならいいとかなんとか言って、わたしたちの足と手を縛った。
 声なく泣き続けてきたアプリコットはミニーの顔を見て、少しだけ安堵した表情になる。

「ここまで連れてきたんだから、みんなは解放して」

「駄目だ。解放したら誰かに言うだろう? 俺たちの顔も見ているし」

 わたしは大きくため息をつく。

「依頼人はここからどうしろって? ここで止めるなら、あなたたちも守ってあげる。自警団に捕まった方が、あなたたち生きていられるわ」

「何言ってやがる!」

「で、どうなの? どんな段取り? ここにヴェルナーが来るの? 来ないの? 何をしてわたしを脅すつもりなの?」

「う、うるさい! 夕方には着くから、待っとけ」

 ふたりはわたしたちを残して小屋から出て行った。
 アプリコットの目から涙が溢れ出す。

「アプリコット、ごめんね。守るから。アプリコットもミニーもわたしの言うことを聞いて」

 アプリコットは涙いっぱいの目で

「ミニーお姉ちゃん」

 とミニーを呼んだ。

「大丈夫よ、アプリコット。お嬢さまがいるんだから。お嬢さまの言う通りにしましょう」

「ダメだよ、みんな縛られているのに。どうするの?」

 ナムルがいるからやりたくないが仕方ない。
 わたしはもふさまには頼らず、手の縄を切った。
 収納ポケットからナイフの部分だけを出すようにして手首の縄を切った。
 手が自由になったところで、ナイフを取り出して、足も自由にする。
 わたしは立ち上がり、アプリコットに微笑む。

「ね。わたしは強いからみんなを守れるわ」

 そう言いながら、アプリコットの手と足を自由にし、ミニーの手と足の縄を切る。
 ナムルのも切ろうとすると、彼は黒い糸のような物を出して、それで縄を切った。
 瘴気、万能だな!
 わたしは奥に置かれた薪の束をどかし、そこの小さな穴を土魔法で子供が屈めば通れるぐらいの穴にする。
 ふたりの腕を引っ張る。

「いい? もふさまについて、わたしの家に行くの。町外れのわたしの家に行くのよ?」

「リディアは?」

 ミニーに腕を取られた。

「わたしは彼らの目的を聞かないとなの。ウチに何か仕掛けるつもりだろうからね」

『リディア、ひとりで大丈夫か?』

 わたしはもふさまの目を見てうなずいた。

「あなたも行ってください。ちょっと立て込んでいるので、話し合いは明日で!」

 わたしは言い切って、ナムルの背中を押す。
 もふさまがアプリコットのスカートの裾を引っ張った。

「リディア、一緒に逃げよう!」

「ミニー、わたしは大丈夫だから。アプリコットのことをお願い」

「……わかった。すぐに助けを呼ぶわ。リディア、気をつけて」

「ミニーたちも気をつけて。もふさまと一緒なら怖いことはないから」

 外でガタンと音がした。
 ミニーたちは慌てて四つん這いになり、小屋から外に出る。
 わたしはナムルも出ていくように手で指示した。
 ナムルは戻って椅子に座る。

「ちょっと!」

 わたしは小声で抗議する。

「その穴、奴らが戻ってくる前に見えなくしたほうがいいんじゃない?」

「早くあなたも出て」

「君は私の望みを叶えてくれるんだろう? その前に何かあっちゃ困るから。見届けないと」

 すっごいいい笑みを浮かべている。
 知ってる。ああいう顔してる時って、人って考えを改めない。

「何があっても知らないから」

 わたしは急いで薪の束をおいて、椅子に戻った。

「言っとくけど、この件の依頼人、すっごくイケすかない奴だから。この間なんか、証拠隠滅のために山崩れまで起こした人だから。本当にひどいことを平気でやる人なのよ?」

 一応ヴェルナーの異常さを伝える。
 言いながら、なんで味方でもない人にこんなこと教えているんだろうと、わたしは首を捻った。
 

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