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16章 ゴールデン・ロード
第778話 いいこと悪いこと⑪古い血
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「セインは教会も腐敗していたようだね。世界議会にセインが何やら企んでいたっぽいのは伝わっただろうから、どの国も警戒するだろう」
「けれどそれがユオブリアを諦める理由になるかはわからない」
アダムがロサに進言する。ロサは視線を落として頷いた。
「なぜ、ユオブリアを狙うかな? 大陸違いだ。落とすのが目的なら移動だけだって大変なはずなのに」
「フレデリカさまが言ってたよね。古い血に傾倒しすぎても飲み込まれるって」
わたしがいうと、みんな頷いた。
「セインの公爵家ホアータは、グレナン王の末裔が名を変えた時に名乗った姓って説があったな」
兄さまが軽くため息をつく。
「古い血って言われて、どうしてもそこを思っちゃうね」
グレナンの生き残りがセインをけしかけているんじゃないかって。
「グレナンとユオブリアって何かあったんですか?」
ロビ兄がみんなに尋ねる。
「なにも書に残っていなくて、わかってることが少ないんだ。
グレナンは200年前に滅んだ。西の大陸ベクリーヌ、大陸としては一番小さいけれど、丸ごとグレナン国として栄えていた。ほとんどは未開の森らしいけれど。
ところが、他大陸と貿易などを始めたことで、グレナンの特異性が問題視され、争いになり、滅ぼされた。グレナンの研究は世界を揺るがすものとして、危険思考のある国だと認識されたんだ。国としては滅んだけれど、人々は散り散りになって逃げた。ユオブリアにも生き残りがいたと思われる」
「頭のいい人たちが知恵を出しあっても理由がわからないなら、目的は全く違うところにあるのかもしれませんね」
ロビ兄の発言にみんなが顔を上げる。
「え、どういう意味?」
ロビ兄はきょとんとしている。
「え、いや、そんな深い意味はなく。ほら、ドナイ候がウチを嵌めようとしていると思っていたから、やっていることの筋が通らないように思えたけれど、セインからのお達しで目的がユオブリアだってわかったら、そのためにリーをどうにかするためだと、スッと意味が通っただろう?
あんな風に、グレナンがユオブリアを破滅に追い込みたいって思うと意味がわからないけど、他が目的でその通り道がユオブリアなだけなら、意味が通るとかかな、なんて」
ロビ兄以外で顔を見合わせる。
「グレナンの生き残りが……ユオブリアに固執する理由……」
「滅ぼされたことの恨みはあるだろうけど、200年前のことだ。故郷がないのは辛いだろうけど、ユオブリアが先頭にたって滅したわけではないだろうし……」
「グレナンは未開の森に、ツワイシプ大陸並みの豊かな森があった」
「グレナンは研究熱心」
「人を操ることや、伝心の仕組みを研究していた……」
みんながグレナンに対して知っていることを口にする。
でも研究を続けたいだけなら、ユオブリアは邪魔ではないだろうし。加護があるわたしがいても、問題ないような……。
「そういえばさー、北に転移門のない理由。北に何があるって、あれは出入り口だけのことだったのか?」
ロビ兄に尋ねられる。
「何のこと?」
とロサに尋ねられた。
わたしたちは、北にだけ転移門のないことから、北にこそ守る何かがあるのではと至った話をしたりした。
思いつくことを話していたんだけど、話は転びに転び、いつの間にか授業の時に先生が面白いことを言ったこととか、ロサが議会の人に言われてムッときたこととか、兄さまの年若い侯爵と揶揄られたときに、助けに入ってくれた人のこととか、日常的なことになってきて、みんなで笑いながら時を過ごした。
そこにノックがあり、ロサにお目通りを願っている人がいると衛兵が伝えた。その人はミッナイト殿下の勅使一行としてついてきた、ホアータ公爵家3男だという。公爵家の子息がロサに?
わたしたちはお邪魔だろうから、それぞれの用意された部屋に戻ることにした。
廊下を歩きながら、この後どうするんだ?とアダムに聞かれ、父さまが戻ってこないとわからないと話をしている時、衛兵に案内されている人とすれ違った。
浅黒い肌に白髪。長い髪をひとつの三つ編みにしていた。ローブを太いベルトで留めている。セイン国の民族衣装かしら? ミッナイト殿下はああいう衣装ではなかったけど。ルビーのような紅い瞳が印象的だ。
彼がホアータ公爵3男で、恐らくブレーン。
目があった。
ゆっくりとした目礼をされ、こちらも頭を下げる。すると、にこっと人好きのする笑顔になる。
「シュタイン家の姫ぎみでいらっしゃいますか?」
兄さまとロビ兄がわたしの前に立った。
その様子に、彼は苦笑いをして続ける。
「突然声をおかけして、申し訳ありません。
シュタイン家のご子息に、バイエルン侯爵さま、エンタ伯爵家の子息さまでいらっしゃいますね。私はセイン国のナムル・ホアータと申します」
綺麗なユオブリア語だった。ミッナイト殿下もだけど、イントネーションに全く違和感のないものだ。そして腰が低い。まだ成人してないはずだけど、落ち着いた感じだ。
「私がお目通りを願ったばかりに、ブレド殿下と皆さまの歓談の邪魔をしてしまったようですね、申し訳ありません。もし、よろしかったら……」
「丁寧にご挨拶をありがとうございます。私たちは殿下とたっぷり話しておりますので、問題ありません。失礼いたします」
兄さまがキッパリと言って、わたしの背中へ添えた手に力を入れた。
みんな目礼をして、通り過ぎる。
しばらくしてから、あちらも動き出した。
流れで、わたしたちの待機する部屋にアダムもついてきた。
「ヴェルナーのことはどうするの?」
部屋に入るとアダムから聞かれる。
「決定的な証拠がないのよ」
わたしは腕を組んで、現状を吐露した。
全くあれだけのことをしたってのに、証拠がないなんて!
「経済的に沈めるのは簡単だけど、リディーはそうしたいわけじゃないよね?」
兄さまに確かめられる。
ん、今経済的に沈めるのは簡単って言った?
「簡単、なの?」
「え? 新商品を出す日をRの店がぶつけるのでもいいし、リディーがそうしたいというなら、私、ウッド家の店にその意思を伝えれば、2日でにっちもさっちもいかなくなるだろうね」
あー、そういうことか。
「経済的制裁は特に望んでいないけど。あの山崩れの責はおうべきだと思う。それから消すことで、全てをなかったことにできると思ってる鼻っ柱はへし折ってやりたい! でも、証拠がないのよ!」
言っているうちに腹が立ってきた!
「けれどそれがユオブリアを諦める理由になるかはわからない」
アダムがロサに進言する。ロサは視線を落として頷いた。
「なぜ、ユオブリアを狙うかな? 大陸違いだ。落とすのが目的なら移動だけだって大変なはずなのに」
「フレデリカさまが言ってたよね。古い血に傾倒しすぎても飲み込まれるって」
わたしがいうと、みんな頷いた。
「セインの公爵家ホアータは、グレナン王の末裔が名を変えた時に名乗った姓って説があったな」
兄さまが軽くため息をつく。
「古い血って言われて、どうしてもそこを思っちゃうね」
グレナンの生き残りがセインをけしかけているんじゃないかって。
「グレナンとユオブリアって何かあったんですか?」
ロビ兄がみんなに尋ねる。
「なにも書に残っていなくて、わかってることが少ないんだ。
グレナンは200年前に滅んだ。西の大陸ベクリーヌ、大陸としては一番小さいけれど、丸ごとグレナン国として栄えていた。ほとんどは未開の森らしいけれど。
ところが、他大陸と貿易などを始めたことで、グレナンの特異性が問題視され、争いになり、滅ぼされた。グレナンの研究は世界を揺るがすものとして、危険思考のある国だと認識されたんだ。国としては滅んだけれど、人々は散り散りになって逃げた。ユオブリアにも生き残りがいたと思われる」
「頭のいい人たちが知恵を出しあっても理由がわからないなら、目的は全く違うところにあるのかもしれませんね」
ロビ兄の発言にみんなが顔を上げる。
「え、どういう意味?」
ロビ兄はきょとんとしている。
「え、いや、そんな深い意味はなく。ほら、ドナイ候がウチを嵌めようとしていると思っていたから、やっていることの筋が通らないように思えたけれど、セインからのお達しで目的がユオブリアだってわかったら、そのためにリーをどうにかするためだと、スッと意味が通っただろう?
あんな風に、グレナンがユオブリアを破滅に追い込みたいって思うと意味がわからないけど、他が目的でその通り道がユオブリアなだけなら、意味が通るとかかな、なんて」
ロビ兄以外で顔を見合わせる。
「グレナンの生き残りが……ユオブリアに固執する理由……」
「滅ぼされたことの恨みはあるだろうけど、200年前のことだ。故郷がないのは辛いだろうけど、ユオブリアが先頭にたって滅したわけではないだろうし……」
「グレナンは未開の森に、ツワイシプ大陸並みの豊かな森があった」
「グレナンは研究熱心」
「人を操ることや、伝心の仕組みを研究していた……」
みんながグレナンに対して知っていることを口にする。
でも研究を続けたいだけなら、ユオブリアは邪魔ではないだろうし。加護があるわたしがいても、問題ないような……。
「そういえばさー、北に転移門のない理由。北に何があるって、あれは出入り口だけのことだったのか?」
ロビ兄に尋ねられる。
「何のこと?」
とロサに尋ねられた。
わたしたちは、北にだけ転移門のないことから、北にこそ守る何かがあるのではと至った話をしたりした。
思いつくことを話していたんだけど、話は転びに転び、いつの間にか授業の時に先生が面白いことを言ったこととか、ロサが議会の人に言われてムッときたこととか、兄さまの年若い侯爵と揶揄られたときに、助けに入ってくれた人のこととか、日常的なことになってきて、みんなで笑いながら時を過ごした。
そこにノックがあり、ロサにお目通りを願っている人がいると衛兵が伝えた。その人はミッナイト殿下の勅使一行としてついてきた、ホアータ公爵家3男だという。公爵家の子息がロサに?
わたしたちはお邪魔だろうから、それぞれの用意された部屋に戻ることにした。
廊下を歩きながら、この後どうするんだ?とアダムに聞かれ、父さまが戻ってこないとわからないと話をしている時、衛兵に案内されている人とすれ違った。
浅黒い肌に白髪。長い髪をひとつの三つ編みにしていた。ローブを太いベルトで留めている。セイン国の民族衣装かしら? ミッナイト殿下はああいう衣装ではなかったけど。ルビーのような紅い瞳が印象的だ。
彼がホアータ公爵3男で、恐らくブレーン。
目があった。
ゆっくりとした目礼をされ、こちらも頭を下げる。すると、にこっと人好きのする笑顔になる。
「シュタイン家の姫ぎみでいらっしゃいますか?」
兄さまとロビ兄がわたしの前に立った。
その様子に、彼は苦笑いをして続ける。
「突然声をおかけして、申し訳ありません。
シュタイン家のご子息に、バイエルン侯爵さま、エンタ伯爵家の子息さまでいらっしゃいますね。私はセイン国のナムル・ホアータと申します」
綺麗なユオブリア語だった。ミッナイト殿下もだけど、イントネーションに全く違和感のないものだ。そして腰が低い。まだ成人してないはずだけど、落ち着いた感じだ。
「私がお目通りを願ったばかりに、ブレド殿下と皆さまの歓談の邪魔をしてしまったようですね、申し訳ありません。もし、よろしかったら……」
「丁寧にご挨拶をありがとうございます。私たちは殿下とたっぷり話しておりますので、問題ありません。失礼いたします」
兄さまがキッパリと言って、わたしの背中へ添えた手に力を入れた。
みんな目礼をして、通り過ぎる。
しばらくしてから、あちらも動き出した。
流れで、わたしたちの待機する部屋にアダムもついてきた。
「ヴェルナーのことはどうするの?」
部屋に入るとアダムから聞かれる。
「決定的な証拠がないのよ」
わたしは腕を組んで、現状を吐露した。
全くあれだけのことをしたってのに、証拠がないなんて!
「経済的に沈めるのは簡単だけど、リディーはそうしたいわけじゃないよね?」
兄さまに確かめられる。
ん、今経済的に沈めるのは簡単って言った?
「簡単、なの?」
「え? 新商品を出す日をRの店がぶつけるのでもいいし、リディーがそうしたいというなら、私、ウッド家の店にその意思を伝えれば、2日でにっちもさっちもいかなくなるだろうね」
あー、そういうことか。
「経済的制裁は特に望んでいないけど。あの山崩れの責はおうべきだと思う。それから消すことで、全てをなかったことにできると思ってる鼻っ柱はへし折ってやりたい! でも、証拠がないのよ!」
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