プラス的 異世界の過ごし方

seo

文字の大きさ
上 下
778 / 823
16章 ゴールデン・ロード

第778話 いいこと悪いこと⑪古い血

しおりを挟む
「セインは教会も腐敗していたようだね。世界議会にセインが何やら企んでいたっぽいのは伝わっただろうから、どの国も警戒するだろう」

「けれどそれがユオブリアを諦める理由になるかはわからない」

 アダムがロサに進言する。ロサは視線を落として頷いた。

「なぜ、ユオブリアを狙うかな? 大陸違いだ。落とすのが目的なら移動だけだって大変なはずなのに」

「フレデリカさまが言ってたよね。古い血に傾倒しすぎても飲み込まれるって」

 わたしがいうと、みんな頷いた。

「セインの公爵家ホアータは、グレナン王の末裔が名を変えた時に名乗った姓って説があったな」

 兄さまが軽くため息をつく。

「古い血って言われて、どうしてもそこを思っちゃうね」

 グレナンの生き残りがセインをけしかけているんじゃないかって。

「グレナンとユオブリアって何かあったんですか?」

 ロビ兄がみんなに尋ねる。

「なにも書に残っていなくて、わかってることが少ないんだ。
 グレナンは200年前に滅んだ。西の大陸ベクリーヌ、大陸としては一番小さいけれど、丸ごとグレナン国として栄えていた。ほとんどは未開の森らしいけれど。
 ところが、他大陸と貿易などを始めたことで、グレナンの特異性が問題視され、争いになり、滅ぼされた。グレナンの研究は世界を揺るがすものとして、危険思考のある国だと認識されたんだ。国としては滅んだけれど、人々は散り散りになって逃げた。ユオブリアにも生き残りがいたと思われる」

「頭のいい人たちが知恵を出しあっても理由がわからないなら、目的は全く違うところにあるのかもしれませんね」

 ロビ兄の発言にみんなが顔を上げる。

「え、どういう意味?」

 ロビ兄はきょとんとしている。

「え、いや、そんな深い意味はなく。ほら、ドナイ候がウチを嵌めようとしていると思っていたから、やっていることの筋が通らないように思えたけれど、セインからのお達しで目的がユオブリアだってわかったら、そのためにリーをどうにかするためだと、スッと意味が通っただろう? 
 あんな風に、グレナンがユオブリアを破滅に追い込みたいって思うと意味がわからないけど、他が目的でその通り道がユオブリアなだけなら、意味が通るとかかな、なんて」

 ロビ兄以外で顔を見合わせる。

「グレナンの生き残りが……ユオブリアに固執する理由……」

「滅ぼされたことの恨みはあるだろうけど、200年前のことだ。故郷がないのは辛いだろうけど、ユオブリアが先頭にたって滅したわけではないだろうし……」

「グレナンは未開の森に、ツワイシプ大陸並みの豊かな森があった」

「グレナンは研究熱心」

「人を操ることや、伝心の仕組みを研究していた……」

 みんながグレナンに対して知っていることを口にする。

 でも研究を続けたいだけなら、ユオブリアは邪魔ではないだろうし。加護があるわたしがいても、問題ないような……。

「そういえばさー、北に転移門のない理由。北に何があるって、あれは出入り口だけのことだったのか?」

 ロビ兄に尋ねられる。

「何のこと?」

 とロサに尋ねられた。
 わたしたちは、北にだけ転移門のないことから、北にこそ守る何かがあるのではと至った話をしたりした。
 思いつくことを話していたんだけど、話は転びに転び、いつの間にか授業の時に先生が面白いことを言ったこととか、ロサが議会の人に言われてムッときたこととか、兄さまの年若い侯爵と揶揄られたときに、助けに入ってくれた人のこととか、日常的なことになってきて、みんなで笑いながら時を過ごした。

 そこにノックがあり、ロサにお目通りを願っている人がいると衛兵が伝えた。その人はミッナイト殿下の勅使一行としてついてきた、ホアータ公爵家3男だという。公爵家の子息がロサに?
 わたしたちはお邪魔だろうから、それぞれの用意された部屋に戻ることにした。

 廊下を歩きながら、この後どうするんだ?とアダムに聞かれ、父さまが戻ってこないとわからないと話をしている時、衛兵に案内されている人とすれ違った。
 浅黒い肌に白髪。長い髪をひとつの三つ編みにしていた。ローブを太いベルトで留めている。セイン国の民族衣装かしら? ミッナイト殿下はああいう衣装ではなかったけど。ルビーのような紅い瞳が印象的だ。
 彼がホアータ公爵3男で、恐らくブレーン。

 目があった。
 ゆっくりとした目礼をされ、こちらも頭を下げる。すると、にこっと人好きのする笑顔になる。

「シュタイン家の姫ぎみでいらっしゃいますか?」

 兄さまとロビ兄がわたしの前に立った。
 その様子に、彼は苦笑いをして続ける。

「突然声をおかけして、申し訳ありません。
 シュタイン家のご子息に、バイエルン侯爵さま、エンタ伯爵家の子息さまでいらっしゃいますね。私はセイン国のナムル・ホアータと申します」

 綺麗なユオブリア語だった。ミッナイト殿下もだけど、イントネーションに全く違和感のないものだ。そして腰が低い。まだ成人してないはずだけど、落ち着いた感じだ。

「私がお目通りを願ったばかりに、ブレド殿下と皆さまの歓談の邪魔をしてしまったようですね、申し訳ありません。もし、よろしかったら……」

「丁寧にご挨拶をありがとうございます。私たちは殿下とたっぷり話しておりますので、問題ありません。失礼いたします」

 兄さまがキッパリと言って、わたしの背中へ添えた手に力を入れた。
 みんな目礼をして、通り過ぎる。
 しばらくしてから、あちらも動き出した。
 流れで、わたしたちの待機する部屋にアダムもついてきた。

「ヴェルナーのことはどうするの?」

 部屋に入るとアダムから聞かれる。

「決定的な証拠がないのよ」

 わたしは腕を組んで、現状を吐露した。
 全くあれだけのことをしたってのに、証拠がないなんて!

「経済的に沈めるのは簡単だけど、リディーはそうしたいわけじゃないよね?」

 兄さまに確かめられる。
 ん、今経済的に沈めるのは簡単って言った?

「簡単、なの?」

「え? 新商品を出す日をRの店がぶつけるのでもいいし、リディーがそうしたいというなら、私、ウッド家の店にその意思を伝えれば、2日でにっちもさっちもいかなくなるだろうね」

 あー、そういうことか。

「経済的制裁は特に望んでいないけど。あの山崩れの責はおうべきだと思う。それから消すことで、全てをなかったことにできると思ってる鼻っ柱はへし折ってやりたい! でも、証拠がないのよ!」

 言っているうちに腹が立ってきた!
しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

転生したけど平民でした!もふもふ達と楽しく暮らす予定です。

まゆら
ファンタジー
回収が出来ていないフラグがある中、一応完結しているというツッコミどころ満載な初めて書いたファンタジー小説です。 温かい気持ちでお読み頂けたら幸い至極であります。 異世界に転生したのはいいけど悪役令嬢とかヒロインとかになれなかった私。平民でチートもないらしい‥どうやったら楽しく異世界で暮らせますか? 魔力があるかはわかりませんが何故か神様から守護獣が遣わされたようです。 平民なんですがもしかして私って聖女候補? 脳筋美女と愛猫が繰り広げる行きあたりばったりファンタジー!なのか? 常に何処かで大食いバトルが開催中! 登場人物ほぼ甘党! ファンタジー要素薄め!?かもしれない? 母ミレディアが実は隣国出身の聖女だとわかったので、私も聖女にならないか?とお誘いがくるとか、こないとか‥ ◇◇◇◇ 現在、ジュビア王国とアーライ神国のお話を見やすくなるよう改稿しております。 しばらくは、桜庵のお話が中心となりますが影の薄いヒロインを忘れないで下さい! 転生もふもふのスピンオフ! アーライ神国のお話は、国外に追放された聖女は隣国で… 母ミレディアの娘時代のお話は、婚約破棄され国外追放になった姫は最強冒険者になり転生者の嫁になり溺愛される こちらもよろしくお願いします。

【完結】婚姻無効になったので新しい人生始めます~前世の記憶を思い出して家を出たら、愛も仕事も手に入れて幸せになりました~

Na20
恋愛
セレーナは嫁いで三年が経ってもいまだに旦那様と使用人達に受け入れられないでいた。 そんな時頭をぶつけたことで前世の記憶を思い出し、家を出ていくことを決意する。 「…そうだ、この結婚はなかったことにしよう」 ※ご都合主義、ふんわり設定です ※小説家になろう様にも掲載しています

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。

柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。 詰んでる。 そう悟った主人公10歳。 主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど… 何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど… なろうにも掲載しております。

母の中で私の価値はゼロのまま、家の恥にしかならないと養子に出され、それを鵜呑みにした父に縁を切られたおかげで幸せになれました

珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたケイトリン・オールドリッチ。跡継ぎの兄と母に似ている妹。その2人が何をしても母は怒ることをしなかった。 なのに母に似ていないという理由で、ケイトリンは理不尽な目にあい続けていた。そんな日々に嫌気がさしたケイトリンは、兄妹を超えるために頑張るようになっていくのだが……。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

チートな親から生まれたのは「規格外」でした

真那月 凜
ファンタジー
転生者でチートな母と、王族として生まれた過去を神によって抹消された父を持つシア。幼い頃よりこの世界では聞かない力を操り、わずか数年とはいえ前世の記憶にも助けられながら、周りのいう「規格外」の道を突き進む。そんなシアが双子の弟妹ルークとシャノンと共に冒険の旅に出て… これは【ある日突然『異世界を発展させて』と頼まれました】の主人公の子供達が少し大きくなってからのお話ですが、前作を読んでいなくても楽しめる作品にしているつもりです… +-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-  2024/7/26 95.静かな場所へ、97.寿命 を少し修正してます  時々さかのぼって部分修正することがあります  誤字脱字の報告大歓迎です(かなり多いかと…)  感想としての掲載が不要の場合はその旨記載いただけると助かります

処理中です...