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16章 ゴールデン・ロード
第773話 いいこと悪いこと⑦ブレーンは誰?
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「それはどういう意味ですか?」
父さまは殿下を睨んだ。
「ここで話すのは不適切でしょう。国王の知るところとなれば、あなたの息子はただではいられない、それでもいいんですか? ただ目覚めていないのに不憫であるから、令嬢と婚姻を結ぶことで、全て知らないことにしてやってもいいと思ったのに」
陛下の前で、そう言ってることでアウトだろうが!
「私の息子が悪事を働いたというなら、その責任を取らせますし、私も取りましょう。けれど、それが事実でない場合、いくら王子殿下といえど、我がシュタイン家を侮辱したことになりますが、その覚悟はおありか?」
「確証がないのに、陛下の前で戯言を言うと思われるか?」
ミッナイト殿下も一歩も引かない。
「裁判をしても本人の証言が取れないなら裁かれることはない。だとしたら、目覚めないのは良いことなのかもしれないと申し上げたのですよ」
わたしは立ち上がった父さまに抱きつく。
ロビ兄も兄さまも父さまを止めに入った。
「ユオブリアは野蛮な国ですね」
涼しい顔でミッナイト殿下は言った。
「シュタイン伯、頭に血がのぼっているようだな。余の前だということも忘れたか?」
陛下の容赦のない声が響いた。
父さまはわたしたちの手を優しく解いて、陛下に頭を下げた。
「申し訳ありません。無礼をいたしました。退席いたします」
それが目的だったのか、わたしとロビ兄の手を引いて下がろうとした。
「令嬢とはもっと話がしたいな。無礼をしたのはシュタイン伯だ、ふたりとはまだあまり話せていない」
父さまは、わたしとロビ兄を見る。頷き返すと、
「では、私は失礼いたします」
と出て行った。
「陛下も人がいい。あんな無礼をしたのに、下がらせるだけでお咎めなしとは」
陛下がわざとあんな風に言って、罰することなく下がらせようとしたのもわかっていたみたいだ。
「セインの王子よ、シュタイン子息が悪事を働いたと確信しているようだが、それが勅使として来た理由か?」
「いいえ、それは違います。セインを孤立させるような動きをした、バイエルン候とエンター伯子息に責任を問いに来たのです」
「異なことをおっしゃる。ご納得されたのでは? 蒸し返されるのですか?」
優雅に紅茶を飲んで、アダムが言った。
その様子があまりにも王子っぽく、誰よりも優雅だったので、なんか笑いそうになってしまった。
「私が取り引きをやめたのはホテンシア商会です。それも取り引きをやめたくなる相応なことがあったから。そこに国が介入してくるとは……セイン国では全ての商会が国から守られているのでしょうか?」
強烈な皮肉。
「ホテンシアだけではなかったようだが?」
頬をひきつらせながら殿下が詰める。
「ホテンシアの下請けも同じですからね、そちらも止めましたよ、当たり前でしょう? いずれホテンシアに流れるのだから」
冷たくピシャンとアダムは吐き捨てる。
「気に入らないだけでしょう? ホテンシアは急に切られたと言っていますよ」
アダムはゆっくり目に目を瞑っただけだけど、それが不快さを表していた。
「類似品を売りつけられた。そこを指摘すれば、見分けもつかないぐらいのものだから変わらないだろうとのことでした。たとえどんなに似ていたとしても、それは違うものなのです。ホテンシアは信用できません。信頼を裏切ったのはあちらだ。それなのに国が勅使を立てる? 謝るならいざ知らず、孤立させようとしている? どこまでも自分の国の立ち位置でしか考えないのですね」
「冬にしか手に入らないものを、求めたからだろう?」
「ないならないと言えばいい。それをあると言って類似品を売りつけるところが問題です」
アダムも、多分兄さまも、ただ切るのではなくて、理由を作った。理由が先か、後につけたものかはわからないけれど。さすが抜け目がない。
ミッナイト殿下の顔があからんでいく。
「先ほども述べ納得したと思っていたのだが、そうではないようだな? 再度告げる。議会にも調べさせたが、セイン国の調書のようなことはなかった。そのことはセイン国にも書類を送らせよう」
陛下からの言葉だ。国の判断。
セインの王子はアダムと兄さまを甘くみていたんだね。気に食わないから取り引きをやめたんだとしても、それが自分の非になるようにするわけない。
それを飛び越えて王族権限で気に入らないとか罰するってあったらどうしようと思ったけど、そういう向きではないみたい。
議会でも認められる切るに値する理由を、気に入らないからだろうとやり込めると思ったのかしら?
一瞬悔しそうな表情をのぞかせたけれど、すぐに柔らかい笑みに戻した。
「バイエルン侯の方も、尤もな理由をあげていましたね」
「ええ、事実を言ったのみです」
兄さまは無表情に答える。
「あなたは2年前まで犯罪者だった」
「発言には気をつけてください」
兄さまもピシャリと返す。
「ユオブリアは甘い国ですね。我が国では犯罪者と一度でも指をさされたことがあるのなら、爵位を持つことは許されません。それがたとえ事実であろうと、なかろうとね。けれど、あなたは奇跡の氷侯爵などと呼ばれ、もてはやされている」
「我が国を愚弄するのはやめていただきたい」
ロサが怒りを抑えた声で言った。
おーー、陛下も怒りを抑えている表情をしている。演技かどうかはわからないけれど。
ミッナイト殿下は兄さまを犯罪者呼ばわりすることは、それを間違いだったと認めたユオブリアを貶めていることだと繋がったみたいだ。
この人がブレーンでは絶対にないね。アダムたちにもわからないように、ドナイ候を動かしてきた人は他にいる。ミッナイト殿下を使って。
父さまは殿下を睨んだ。
「ここで話すのは不適切でしょう。国王の知るところとなれば、あなたの息子はただではいられない、それでもいいんですか? ただ目覚めていないのに不憫であるから、令嬢と婚姻を結ぶことで、全て知らないことにしてやってもいいと思ったのに」
陛下の前で、そう言ってることでアウトだろうが!
「私の息子が悪事を働いたというなら、その責任を取らせますし、私も取りましょう。けれど、それが事実でない場合、いくら王子殿下といえど、我がシュタイン家を侮辱したことになりますが、その覚悟はおありか?」
「確証がないのに、陛下の前で戯言を言うと思われるか?」
ミッナイト殿下も一歩も引かない。
「裁判をしても本人の証言が取れないなら裁かれることはない。だとしたら、目覚めないのは良いことなのかもしれないと申し上げたのですよ」
わたしは立ち上がった父さまに抱きつく。
ロビ兄も兄さまも父さまを止めに入った。
「ユオブリアは野蛮な国ですね」
涼しい顔でミッナイト殿下は言った。
「シュタイン伯、頭に血がのぼっているようだな。余の前だということも忘れたか?」
陛下の容赦のない声が響いた。
父さまはわたしたちの手を優しく解いて、陛下に頭を下げた。
「申し訳ありません。無礼をいたしました。退席いたします」
それが目的だったのか、わたしとロビ兄の手を引いて下がろうとした。
「令嬢とはもっと話がしたいな。無礼をしたのはシュタイン伯だ、ふたりとはまだあまり話せていない」
父さまは、わたしとロビ兄を見る。頷き返すと、
「では、私は失礼いたします」
と出て行った。
「陛下も人がいい。あんな無礼をしたのに、下がらせるだけでお咎めなしとは」
陛下がわざとあんな風に言って、罰することなく下がらせようとしたのもわかっていたみたいだ。
「セインの王子よ、シュタイン子息が悪事を働いたと確信しているようだが、それが勅使として来た理由か?」
「いいえ、それは違います。セインを孤立させるような動きをした、バイエルン候とエンター伯子息に責任を問いに来たのです」
「異なことをおっしゃる。ご納得されたのでは? 蒸し返されるのですか?」
優雅に紅茶を飲んで、アダムが言った。
その様子があまりにも王子っぽく、誰よりも優雅だったので、なんか笑いそうになってしまった。
「私が取り引きをやめたのはホテンシア商会です。それも取り引きをやめたくなる相応なことがあったから。そこに国が介入してくるとは……セイン国では全ての商会が国から守られているのでしょうか?」
強烈な皮肉。
「ホテンシアだけではなかったようだが?」
頬をひきつらせながら殿下が詰める。
「ホテンシアの下請けも同じですからね、そちらも止めましたよ、当たり前でしょう? いずれホテンシアに流れるのだから」
冷たくピシャンとアダムは吐き捨てる。
「気に入らないだけでしょう? ホテンシアは急に切られたと言っていますよ」
アダムはゆっくり目に目を瞑っただけだけど、それが不快さを表していた。
「類似品を売りつけられた。そこを指摘すれば、見分けもつかないぐらいのものだから変わらないだろうとのことでした。たとえどんなに似ていたとしても、それは違うものなのです。ホテンシアは信用できません。信頼を裏切ったのはあちらだ。それなのに国が勅使を立てる? 謝るならいざ知らず、孤立させようとしている? どこまでも自分の国の立ち位置でしか考えないのですね」
「冬にしか手に入らないものを、求めたからだろう?」
「ないならないと言えばいい。それをあると言って類似品を売りつけるところが問題です」
アダムも、多分兄さまも、ただ切るのではなくて、理由を作った。理由が先か、後につけたものかはわからないけれど。さすが抜け目がない。
ミッナイト殿下の顔があからんでいく。
「先ほども述べ納得したと思っていたのだが、そうではないようだな? 再度告げる。議会にも調べさせたが、セイン国の調書のようなことはなかった。そのことはセイン国にも書類を送らせよう」
陛下からの言葉だ。国の判断。
セインの王子はアダムと兄さまを甘くみていたんだね。気に食わないから取り引きをやめたんだとしても、それが自分の非になるようにするわけない。
それを飛び越えて王族権限で気に入らないとか罰するってあったらどうしようと思ったけど、そういう向きではないみたい。
議会でも認められる切るに値する理由を、気に入らないからだろうとやり込めると思ったのかしら?
一瞬悔しそうな表情をのぞかせたけれど、すぐに柔らかい笑みに戻した。
「バイエルン侯の方も、尤もな理由をあげていましたね」
「ええ、事実を言ったのみです」
兄さまは無表情に答える。
「あなたは2年前まで犯罪者だった」
「発言には気をつけてください」
兄さまもピシャリと返す。
「ユオブリアは甘い国ですね。我が国では犯罪者と一度でも指をさされたことがあるのなら、爵位を持つことは許されません。それがたとえ事実であろうと、なかろうとね。けれど、あなたは奇跡の氷侯爵などと呼ばれ、もてはやされている」
「我が国を愚弄するのはやめていただきたい」
ロサが怒りを抑えた声で言った。
おーー、陛下も怒りを抑えている表情をしている。演技かどうかはわからないけれど。
ミッナイト殿下は兄さまを犯罪者呼ばわりすることは、それを間違いだったと認めたユオブリアを貶めていることだと繋がったみたいだ。
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