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16章 ゴールデン・ロード
第771話 いいこと悪いこと⑤女たらし
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それからさらに2時間ほど待ち、やっとわたしたちは呼ばれた。
おじいさまと護衛のふたりは、名前があがらなかったので、部屋にて待っていてもらう。
通されたのは歓談室のような作りの部屋で、丸いテーブルがいくつか、その周りに椅子も置かれていて、グループごとに別れて話ができるようなそんな様子だった。
上座にあたる大きめのゴージャスな広いテーブルに、陛下、ロサ、アダムと兄さま、ドナイ侯、それと金髪の巻き毛を肩まで伸ばした甘いマスクの人がいる。
彼がきっとセイン国のミッナイト殿下だろう。アダムにミッナイト殿下を一言で表すなら?と尋ねたら、「女たらし」ということだった。
人当たりのいい、優しそうな感じで、女性に好まれそうだ。そしてすでに3人の奥さんがいるのだから……〝そうか〟という気持ちになる。
アダムと兄さまがお茶の席にいるということは、ふたりは罰せられないということだろう。ちょっとほっとした。
父さまはテーブルに近づいて、軽く黙礼をして待つ。
「おお、シュタイン伯、よく来た。後ろにいるのは、子息と令嬢だな」
「ユオブリアの輝く太陽にご挨拶申し上げます」
父さまはきっちりと礼をする。
「第二子の息子と、第三子の娘です。
ご挨拶させていただきなさい」
後ろのわたしたちを促した。
ロビ兄は胸をポンと軽く叩いてその手を拳にして胸に置き、膝を折って頭を下げた。武人のする最高礼だ。
「シュタイン家、第二子、ロビン・シュタインが、ユオブリアの熱き太陽にご挨拶申し上げます」
ふむと陛下は頷く。
「シュタイン家、第三子、リディア・シュタインにございます。ユオブリアの輝く太陽にご挨拶申し上げます」
「山崩れに巻き込まれたと聞いたぞ、一番上の子息が芳しくないとも。どうなのだ?」
「はい、幸い命に別状はありません。ただ、いつ公けの場に出られるようになるかは、まだなんとも……」
嘘は言ってないね。王族に嘘ついたらまずいからね。
「そんな時に呼び出して済まなかったな。話の前に紹介しよう。
ミッナイト殿下、この者たちが殿下が会いたいとおっしゃったシュタイン伯とその子息と令嬢です」
わたしたちは許しを待つ。軽く頭を下げて。
わたしたちを観察してる。でもなにも言わない。
居心地の悪い時間がすぎた。
椅子をひき、立ち上がる音がした。
その足音が近づいてきて、品のいい大きな靴が見えた。
と、抱き上げられる。いわゆるお姫さま抱っこで、甘いマスクの王子がわたしを覗き込む。香水の香まで甘い。
「ミッナイト殿下、彼女はデビュタントを済ませ、婚約者もいる令嬢です。無礼が過ぎますよ」
ロサが立ち上がって言った。アダムが兄さまの肩を押さえていた。
ミッナイト殿下はわたしをそっと下ろす。
「これは失礼。あまりにも小さくて可愛らしいから、思わず手に取りたくなってね」
うわーーーーー。こういう言葉が素で出てくる人なのね。
でもなんか、天然の女たらしとは少し違う気がするな。
もふさまが吠えるか?という感じでわたしを見た。わたしはかすかに首を横に振る。
もふさまには、わたしに何かあっても、決して手出しをしないようにお願いをした。
他国の王族だから、こちらが何かしたと糾弾されて、周りの人やわたしが追放処置となることをわたしは恐れていた。
好きな人たちに抱き上げられるならまだしも、いくら王族だからって知らない王子に触れられて。それだけで魔法をぶっ放したくなったけれど、我慢だ。全くもって理不尽だ。
「私はミッナイト・シア・セイン。セイン国の第3王子です。ご無礼をお許しいただけますか、シュタイン家の姫ぎみ?」
「セイン国の3つ目の星にご挨拶申し上げます」
カーテシーをする。本来ならその後に、お目にかかれて光栄だのなんだのいうところだけれど、話したくないので、短いところで切り上げる。
「シュタイン伯、あなたの領地の噂ははるかセインまで聞こえてきます。奥方たちは甘味に目がなくて、シュタイン領のお菓子を食べたいと強請られております」
「ジュレミー・シュタインが、セイン国の3つ目の輝く星にご挨拶申し上げます。お目にかかれまして、光栄でございます」
王子はロビ兄に体を向ける。
「確か君は双子だったね。入れ替わっても見分けがつかないぐらい似ているんだって?」
「セイン国の3つ目の星にご挨拶申し上げます。見分けがつかなかったのは幼い頃の話です。魔力の方向性も違うので、姿を似せてみても、入れ替わることはできないと思います」
ロビ兄は淡々と言った。
なに、今のって、本当はアラ兄は目を覚ましていて、ロビ兄に扮しているって言いたいの? もしくはそれもできるだろうと?
もふさまに足を踏まれた。
落ち着け。そうだ。やり過ごさなくちゃ。
この場で、誰も罪人とならないように。
それからロサに挨拶をし、ドナイ候は知っているなと話があった。
そしてみんな席についた。
後から入ったわたしたちにも、お茶が配られる。
さっきからずっとミッナイト殿下に視線を注がれているので、ものすごく居心地が悪い。兄さまもピリピリしているのが伝わってくる。
「ご子息が大変な時に、私が会いたいと言ったばかりに、呼び出したようなことになり、申し訳ありません」
ミッナイト殿下は父さまに謝った。
「なぜ、私に会いたいと思われたのか、教えていただきたく存じます」
父さま、いきなり核心にいったな。無駄話するのは不愉快なんだろう。
ミッナイト殿下は口の端を少し上げて笑った。
「実はですね、セイン国と繋がる取引先をどんどん切っている動きがありまして、調べてみると、ユオブリアの上級貴族やそれに連なる商会でした。私はその抗議にきたんです。始まりは……そこのバイエルン候とエンター伯子息でした。その理由を聞きましたが、実によく練られたものでした」
なんかヤな感じ。
「ふたりとも個人的な経済制裁であり、我が国に特別何かをしようとしたわけじゃないと言うんですよ」
っていうか、ずっとわたしを見ながら言うのやめて。
「まぁ、いいでしょう。個人的な経済制裁。でも、どうしたわけかそれに賛同するようにいくつもの貴族、商会がそれに続いた。それに全てのつながりを見つけるとしたら、なんだと思われます? シュタイン家の姫ぎみ?」
おじいさまと護衛のふたりは、名前があがらなかったので、部屋にて待っていてもらう。
通されたのは歓談室のような作りの部屋で、丸いテーブルがいくつか、その周りに椅子も置かれていて、グループごとに別れて話ができるようなそんな様子だった。
上座にあたる大きめのゴージャスな広いテーブルに、陛下、ロサ、アダムと兄さま、ドナイ侯、それと金髪の巻き毛を肩まで伸ばした甘いマスクの人がいる。
彼がきっとセイン国のミッナイト殿下だろう。アダムにミッナイト殿下を一言で表すなら?と尋ねたら、「女たらし」ということだった。
人当たりのいい、優しそうな感じで、女性に好まれそうだ。そしてすでに3人の奥さんがいるのだから……〝そうか〟という気持ちになる。
アダムと兄さまがお茶の席にいるということは、ふたりは罰せられないということだろう。ちょっとほっとした。
父さまはテーブルに近づいて、軽く黙礼をして待つ。
「おお、シュタイン伯、よく来た。後ろにいるのは、子息と令嬢だな」
「ユオブリアの輝く太陽にご挨拶申し上げます」
父さまはきっちりと礼をする。
「第二子の息子と、第三子の娘です。
ご挨拶させていただきなさい」
後ろのわたしたちを促した。
ロビ兄は胸をポンと軽く叩いてその手を拳にして胸に置き、膝を折って頭を下げた。武人のする最高礼だ。
「シュタイン家、第二子、ロビン・シュタインが、ユオブリアの熱き太陽にご挨拶申し上げます」
ふむと陛下は頷く。
「シュタイン家、第三子、リディア・シュタインにございます。ユオブリアの輝く太陽にご挨拶申し上げます」
「山崩れに巻き込まれたと聞いたぞ、一番上の子息が芳しくないとも。どうなのだ?」
「はい、幸い命に別状はありません。ただ、いつ公けの場に出られるようになるかは、まだなんとも……」
嘘は言ってないね。王族に嘘ついたらまずいからね。
「そんな時に呼び出して済まなかったな。話の前に紹介しよう。
ミッナイト殿下、この者たちが殿下が会いたいとおっしゃったシュタイン伯とその子息と令嬢です」
わたしたちは許しを待つ。軽く頭を下げて。
わたしたちを観察してる。でもなにも言わない。
居心地の悪い時間がすぎた。
椅子をひき、立ち上がる音がした。
その足音が近づいてきて、品のいい大きな靴が見えた。
と、抱き上げられる。いわゆるお姫さま抱っこで、甘いマスクの王子がわたしを覗き込む。香水の香まで甘い。
「ミッナイト殿下、彼女はデビュタントを済ませ、婚約者もいる令嬢です。無礼が過ぎますよ」
ロサが立ち上がって言った。アダムが兄さまの肩を押さえていた。
ミッナイト殿下はわたしをそっと下ろす。
「これは失礼。あまりにも小さくて可愛らしいから、思わず手に取りたくなってね」
うわーーーーー。こういう言葉が素で出てくる人なのね。
でもなんか、天然の女たらしとは少し違う気がするな。
もふさまが吠えるか?という感じでわたしを見た。わたしはかすかに首を横に振る。
もふさまには、わたしに何かあっても、決して手出しをしないようにお願いをした。
他国の王族だから、こちらが何かしたと糾弾されて、周りの人やわたしが追放処置となることをわたしは恐れていた。
好きな人たちに抱き上げられるならまだしも、いくら王族だからって知らない王子に触れられて。それだけで魔法をぶっ放したくなったけれど、我慢だ。全くもって理不尽だ。
「私はミッナイト・シア・セイン。セイン国の第3王子です。ご無礼をお許しいただけますか、シュタイン家の姫ぎみ?」
「セイン国の3つ目の星にご挨拶申し上げます」
カーテシーをする。本来ならその後に、お目にかかれて光栄だのなんだのいうところだけれど、話したくないので、短いところで切り上げる。
「シュタイン伯、あなたの領地の噂ははるかセインまで聞こえてきます。奥方たちは甘味に目がなくて、シュタイン領のお菓子を食べたいと強請られております」
「ジュレミー・シュタインが、セイン国の3つ目の輝く星にご挨拶申し上げます。お目にかかれまして、光栄でございます」
王子はロビ兄に体を向ける。
「確か君は双子だったね。入れ替わっても見分けがつかないぐらい似ているんだって?」
「セイン国の3つ目の星にご挨拶申し上げます。見分けがつかなかったのは幼い頃の話です。魔力の方向性も違うので、姿を似せてみても、入れ替わることはできないと思います」
ロビ兄は淡々と言った。
なに、今のって、本当はアラ兄は目を覚ましていて、ロビ兄に扮しているって言いたいの? もしくはそれもできるだろうと?
もふさまに足を踏まれた。
落ち着け。そうだ。やり過ごさなくちゃ。
この場で、誰も罪人とならないように。
それからロサに挨拶をし、ドナイ候は知っているなと話があった。
そしてみんな席についた。
後から入ったわたしたちにも、お茶が配られる。
さっきからずっとミッナイト殿下に視線を注がれているので、ものすごく居心地が悪い。兄さまもピリピリしているのが伝わってくる。
「ご子息が大変な時に、私が会いたいと言ったばかりに、呼び出したようなことになり、申し訳ありません」
ミッナイト殿下は父さまに謝った。
「なぜ、私に会いたいと思われたのか、教えていただきたく存じます」
父さま、いきなり核心にいったな。無駄話するのは不愉快なんだろう。
ミッナイト殿下は口の端を少し上げて笑った。
「実はですね、セイン国と繋がる取引先をどんどん切っている動きがありまして、調べてみると、ユオブリアの上級貴族やそれに連なる商会でした。私はその抗議にきたんです。始まりは……そこのバイエルン候とエンター伯子息でした。その理由を聞きましたが、実によく練られたものでした」
なんかヤな感じ。
「ふたりとも個人的な経済制裁であり、我が国に特別何かをしようとしたわけじゃないと言うんですよ」
っていうか、ずっとわたしを見ながら言うのやめて。
「まぁ、いいでしょう。個人的な経済制裁。でも、どうしたわけかそれに賛同するようにいくつもの貴族、商会がそれに続いた。それに全てのつながりを見つけるとしたら、なんだと思われます? シュタイン家の姫ぎみ?」
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