プラス的 異世界の過ごし方

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16章 ゴールデン・ロード

第763話 〝待つ〟を使う③食いつく

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 ロビ兄に父さまへの連絡を任せ、わたしとアラ兄は予備の魔具作りに集中した。

 まずアラ兄からのヒアリングだ。水路図作成が正しくどういうものか、わたしが理解していないとだ。その上で、魔具はどういった性能で、できることとできないこと。必要なこと。合ってると勘違いさせやすい点などの聞き取りをして、魔具の制作に入る。鑑定されると浮き上がる術式も組み込んでおく。
 ランダムにそれらしい数字を出し、数値の誤差が開いていく原因の術式も入れておく。そしてこの予備で測った値は、本体の方にデータを共有する式も。

 っていうか、簡単に聞き流していたが反響定位を当てはめたところが凄い。反響定位は蝙蝠やクジラとか、超音波を出してそれで状況を把握しているというのは知っていたけれど、あれは空中だったり、水の中だ。地下である土の中で伝わる〝何か〟を着目したり、その術式を考えようとした時点で凄い。実際はその式はわからなかったわけだけど。
 でも、これさ、土の中でも、空中でも、水の中でも、どれかひとつでもそれで様子がわかったら凄いことじゃない? 

 ふと頭に映像が浮かぶ。方眼紙の縦軸と横軸に数字があって、その通りに塗りつぶしていくとイラストが浮かび上がる。イラストロジックとか言ったっけ? 前世でそんなのを見た。
 たとえば、反響定位の数値をそんなふうに表すことができたら、知らない場所でもその数値に習って線を描けば、立体的に描き出すことができるんじゃない? それって、凄いことだよね?
 ……考えたくないけど。戦う時、相手の土地の地形もどこに潜んでいるのかもわからない。けれど、もしその魔具で前もって視覚化することができたら……怖いことに使える気がする。
 アラ兄の建前にした反響定位の魔具、それって、それだけで十分価値があり、ドナイ候もそれを作りたいのではないかという気がする。
 そんな予感がしたので予備の魔具の術式は完全に隠すようにした。
 反響定位の術式を作ることができたのかと言われたら、できてないと言えるように。
 これ、本当に危険だ。もし、空気、水、土のどれかで把握できる音の振動を術にできて組み込まれたら、それだけでも危なすぎる。
 そんなことを考えながら予備の見せかけの数字だけランダムにでる、その数値が本体と共有するというだけの魔具を作っているいるうちに夕方になり、父さまから連絡が入った。
 ドナイ侯が食いついてきた、と。


 ドナイ候から伝達魔法が届いたそうだ。
 最初は災害にあたり行方不明の家族のお見舞いに始まり、行方がつかめていない時に恐縮だがと低姿勢。ただ、仕事のことなので猶予がなく、非礼を詫び。
 アラ兄の仕事に使っている魔具がどうしても必要なんだけれども、と打診があった。
 父さまは、お見舞いのお礼を述べ、行方知れずの息子のせいで仕事に支障をきたさせ申し訳ない。息子の部屋を調べさせたが、本体の方は持って出かけたようだ。ただ、予備としていた、本体と情報を共有するとかいう、あまり役に立たないとこぼしていた物ならあった、と。
 情報を共有する魔具だとバラすのは、それを知った上で使ってもらわないと、裁判で証拠能力がなくなることもあるからだ。
 いくつかの裁判に携わったので、変なところに気が効くようになってしまった。
 父さまはその魔具でもよければ渡すことが可能。申し訳ないが、明日王都の家に来てもらえれば渡せると伝達魔法を送った。

 急ごしらえした予備の魔具は、もふさまが領地の外れの家まで持っていってくれるというのでお願いした。
 兄さまから、ロサや生徒会5年生メンバーが何かできることはないかと何度も見舞ってくれていて、このままだと父さまのところに駆けつけそうなので、本当のことを言っていいかと聞かれ、そうしてもらうことにした。

 彼らには言うことができた。
 伝えることのできないわたしたちの知り合いも、続々と駆けつけてくれて、復旧作業に協力してくれているそうだ。
 わたしや兄たちの友達だったり、フォンタナ家やギルドに恩がある人たちが。
 山崩れはもうしないように固めていったけど、みんなにはそんなことわからない。
 いつ二次災害が起こるかわからないのに、みんなわたしたちを探そうとしてくれていると聞いて、胸が詰まった。ありがたく、苦しくなった。


 ヴェルナーは、仕掛け人に食いついたようだ。
 ドナイ侯が何をしているのか、報告しろと言ったそうだ。
 計画を修正して、水路設計に関する魔具を作ろうとしているようだと報告してもらった。そして情報をもらったからと処分されないように、実はまた動きがあって、どうやら、金になりそうな大きな商談をしそうなんですよと情報を漏らしてもらう。案の定、引き続き探り、何かわかったら知らせろと言ったそうだ。

 アラ兄たちとスキルを魔具に閉じ込められたのはどんな現象なのかと話しながら、夕飯を作る。
 今日は暑いから、さっぱりサラダ麺お肉しゃぶにする。
 パスタは茹でて冷ましておく。野菜は全て千切りだ。どんな野菜もオッケーで、丸ネギと大根おろしはマスト。
 お肉は薄ーく切り、軽く粉を叩いて、沸騰するかどうかのお湯に潜らせる。色が変わったら、取り出してこちらも冷ます。
 麺の上に野菜、丸ネギ、大根おろしを載せて、その上にお肉をもりもり盛り付ける。そして特製の酸っぱめのタレをかけていく。
 食欲がない時でもスルッと入る、夏のメニューだ。
 野菜の揚げ浸しも山のように積み上げて、さっぱりご飯だ。

 ご飯を食べていると、もふもふ軍団からケータイが入った。
 わたしたちはテントの中に入る。
 レオたちは部屋の隅々まで録画したことを教えてくれた。
 そして今日はドナイ侯が来たそうだ。あのやなヤツが来たと憤っていた。
 本体とは違うようだが、見本となる魔具を明日持ってくると言いにきたみたいだ。そして運がむいてきたとニヤッと笑っていたそうだ。
 ドナイ侯を送った技師たちは、そこから愚痴大会になったようだ。
 高い給金が出ているから我慢しているけど、そもそも作れと言っている魔具がおかしい。術式をそんなに組み込める物が作れるはずないし、距離を測って何をするんだと首を傾げていたという。
 技師たちは魔具技師として集められているだけで、詳細などはわかっていないのかもしれない。
 わたしはこちらのわかったことを話し、これからの計画を話した。

『それじゃあ、この屋敷である程度のことがわかったところで、たぬき腹について行ったほうがいいな?』

 賢い!

「それもそうして欲しいんだけど、2チームに別れられる? できたら、ヴェルナーの動向も探りたいの。あ、くれぐれも無理はして欲しくないんだけど」

『できるぞ、けど、ケータイかフォンがもうひとついるな』

 とのことなので、チームを別れる時点でひとチームは一度領地の家に戻ってもらうことにした。父さまにフォンを預けておくと。
 ケータイを切ってから、食事に戻る。
 ちょっと麺がふやけてしまったけれど、わたしたちはおいしくいただき、そして、もふさまに予備とする魔具と、フォンを何台か父さまに届けてもらうために送り出した。


 もふさまが小一時間ほどで戻ってきた。
 ハウスさんが家の周りに近づいてくる人を何度かキャッチしていた。外国人じゃないかと思われるようだ。
 毎日、行方不明のわたしたちを心配して、何やらが届いて家が大変なことになっているようだ。領地のみんなも心配してくれていた。

 と、しんみりしていたら、兄さまからフォンがきた。
 アラ兄の未来視は当たっていた。
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