プラス的 異世界の過ごし方

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16章 ゴールデン・ロード

第760話 冒険者の仲間入り⑪護衛の価値

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「わたしの、やり方?」

「彼が一番何に打撃を受けるのか、リディーはわかっているはずだよ」

 ヴェルナーが一番打撃を受けること。それは……。

「グリットカー氏から、いい情報を聞いたようだね」

「セルヴィアンのこと? でもその屋敷がドナイ候のものかはまだわからないし」

「アダムに聞いたの? その……セイン国公爵家の名前だって」

「うん、そう」

「リディーから聞いたの?」

「え? うん。こういう情報に強いかなと思って」

「……そうだね」

「ヴェルナーの一番嫌がること……兄さま、見えた気がする、ありがとう」

「そう? それならよかった」

 もう一度お礼を言って、フォンを切った。

「お待たせ。ふたりも、ありがとう。やりたいことが見えてきたかも」

 双子の兄はそっくりの顔で笑った。

「よし、じゃあ、村に帰ろう。そしてリーのアイデアを練り上げよう!」

 わたしは誰を傷つけても構わない、そんな心の動きが怖くて萎縮していたのかもしれない。





 村に帰ると、夕食の用意をしていた。広場の真ん中でスープを拵えている。
 じゃあ、わたしはと、ご飯を炊いてお肉と野菜を焼く。

「姫さん、いい顔になったな」

 ギルバートに肩を叩かれた。

「ギルド長。ウチのいち姫に軽々しく触れないでください」

 シモーネがギルバートを注意する。

「お、おう? そりゃ、すまんかったな」

「でもギルド長の言う通り、表情が明るくなりました。いい案が思い浮かびましたか?」

 ジョインさんに頷く。

「まだ、ちゃんと決めたわけじゃないけど、指針にどうかなと思っていることがあるの。それでみんなの意見を聞きたい」

 護衛メンバーとフォンタナ家の一部で、わたしたちは対策会議を始めた。
 大雑把に決めたことを話すと、みんなニヤニヤしながら、頷いてくれた。
 そしてはっきりと決められなかったことなど、意見を出してもらい、大筋を決めた。これを外の父さまに話して、より固めていく所存だ。

 本当は自らの手で喉元にナイフを突きつけてやりたいところだけど。
 ヴェルナーにはそんなの響かない。
 見下してる小娘にそんなことされたら頭にはくるだろうけど、それだけだ。

 ヴェルナーは女性を見下している。そして自分を上に見せるのが大好き。お金も好き。
 汚点は残さない。権力も好き。評価されるのも好き。要するに承認欲求が強い。

 今彼は鼻高だろう。雪くらげの住処という大金になるネタは押さえられなかったものの、失敗した者と一緒に自分をコケにした少女もろとも、山崩れにて処分することができた。自分の考えた策が功をなした。これほど自尊心が喜びに震えることはない。

 だからね、その鼻をへし折ってあげる。より高いところに上り詰めてこそ、突き落とされた時のダメージは大きい。

 あなたの相手がわたしだと響かないから、あなたの自尊心がくすぐられ、そして落とすことができる人を相手に選んであげる。

 グリットカー氏からいいことを聞いた。
 あなたはドナイ侯のことを嗅ぎ回っていた。ヴェルナーもドナイ侯を信用しているわけじゃないのね。だからきっと命綱を作っておくために、ドナイ候の知られたくない何かを探っていたのだと思う。
 ドナイ侯はそういうの嫌うと思う。自分のコマと思っていたものに歯向かわれるのは頭にくるだろうしね。
 どちらかが勝つかしら? それとも仲良く自滅してくれる? それが一番望ましいけど、そこまでうまくはいかないだろう。
 でも仲違いをすれば、どちらかが徹底的にやられることは目に見えていて、それはヴェルナーである可能性が高い。

 父さま、それからウッド家にも話して、少しずつ修正した。
 ガインにも山崩れでわたしが巻き込まれた話が届いたらしく連絡がきた。わたしは状況を伝え、それからもらった情報のおかげで今生きているので感謝を伝えた。ガインは照れてから、セイン国とドナイ侯のことを調べてくれると言った。
 アダムにもこれからの計画を話し、アドバイスが入り修正した。
 みんなの協力があり、わたしたちは始めることにした。
 ヴェルナーへの仕返しを。



 動いてもらうのは、外の人々だけどね。
 グリットカー氏の依頼を受けて、引き続き探らされていたという役所の、こちらの仕掛け人がヴェルナーを訪ねている。
 グリットカー氏と連絡を取れなくて困っている。仕事の話をしている時にヴェルナー伯というお名前が出たから、ヴェルナー伯さまに情報を買ってもらえるのではないかと思いまして、と。
 最初は突っぱねようとするだろうけれど、ヴェルナーは今気が緩んでいる。お金目的で近づいてくるゴロツキであれば、後でなんとでも言い繕えるし、邪魔になったら消してしまえばいい。そう食いつくはずだ。ドナイ侯所有のあの土地で何をしているか探るために。

 ドナイ侯のそのお屋敷に通っている3人を探ってもらっている。お屋敷の中もだ。本当はわたしがトカゲとなり潜みたかったのだけど、兄たちともふもふ軍団に却下された。そして今、もふもふ軍団がその屋敷に向かっている。一度、領地に向かってもらい、父さまが手配する誰かに連れていってもらう予定だ。ケータイを渡してあるので、今までより連絡は取りやすいはず。


「どうした、しけたツラして?」

「待つだけって、しんどいと思って。そうだ、ギルバート。この護衛の依頼ってどうなるの? 確か遂行できないと、評価が悪くなるのよね? わたしランク落ちちゃうの?」

「普通は遂行できないと評価が悪いし、最悪ランクが落ちることもある。でも今回のは依頼自体に問題があった。領主からも気をつけるよう指示されていたのにな。まんまとやられた。ギルドに泥を塗られた」

 ギルバートの顔がどんどん怖くなっていく。
 そこまで言って、ハッと気づいたみたいで。

「悪りぃ、それたな。依頼主の判断の評価となるか、依頼自体をなくすかどっちかになると思う。姫さんはこの評価は気にしなくていいってことだ。
 でも逆に、俺はすごいと思っている。あれだけの布石を打っといたのがな。さらに相手は悪いやつだったが、それでも誰一人死人は出さなかった。これ、姫さんじゃなかったら、みんな山崩れに呑まれてた。
 だから、ランクを上げてやりたいぐらいだ」

 ギルバートにそんなふうに評価してもらうと、こそばゆい。

「でもな、護衛は我慢強くないとできねーぞ。待つなんて日常茶飯事だ。待つ〝時〟をどれだけうまく使えるかで、護衛の価値は決まる」

 待つ時間の使い方か。
 なるほどねー。
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