745 / 930
16章 ゴールデン・ロード
第745話 もふさまの悪夢④やがて裏切る少女
しおりを挟む
ノックスさまが何かを唱えると、次の瞬間、わたしはいつもの川原にいた。
いつもの川原?
急に体がギシギシと痛んだ。
わたしは自分を抱きしめる。
精神体になっただろうに、なんで痛いんだろう?
頭のどこかで、そんなことを冷静に考えていた。
頭に響く声。
スキル 呪詛回避発動ーー 変化の尻尾切りが施行されました。
え、ええ? 呪い? なんでぇ?
頭が痛い。これ、変化する!
目を瞑っても視界が赤い。体がビクビクっと痙攣した。
精神体で中に入ったはずではあるけど、トカゲになっちゃった。
な、な、なんで~!
いや、人型でも魔法は使えなかったはずだから、人型でもトカゲでもあまり変わりはないか。
服が落ちてない。なんでだろう? 精神体だから? うー、そのくせ変化したの?
よくわからないが、そうなってしまったのだから、仕方ない。
ああ、でもこの姿での移動はあまり得意でないのに。
地べたを地道にペタペタと歩いていく。
大きいのや小さいの、とりどりの石があってデコボコしているから、大変移動しにくい。
あ、桃色の髪の娘だ。
自然の中で柔らかい色合いは目立たないはずなのに、光を振りまいているかのように、そこだけ輝いている気がする。
まだ7、8歳だろうけど、トカゲからすると大きすぎて、下からだとよく見えない。わたしは川辺に生えたひょろ長い木に登った。
小さいけど整った顔をしている。ピンクの髪で、整っていて可愛い顔立ちだからか、少しだけアイリス嬢と似ている気がしてしまう。
少女は身体中に傷痕があった。血が出ているところを、川の水で洗い流している。滲みるらしく、時々顔を顰める。
彼女が、もふさまの記憶を封印することになった原因の少女だろう。
現実が悪夢というキーワードで、もふさまはこの夢を見ているのだろうか?
「捨てられっ子、また転んだのか?」
「何もできないから、捨てられるんだ!」
土手上にあたる道を、子供たちが少女を囃し立てながら走っていく。
横にもふさまがいた。
オーラが溢れている。大型犬サイズ?だけど、ものすごく怖い。
この川原にあまり動物がいないのが理解できた。
もふさまがジロリとこちらを見た。その迫力に驚いて、わたしはトカゲでありながら地面に落ちた。背中から落ちて、けっこう痛い。何で精神体なのに痛みがあるのよ。
ジタバタしてひっくり返ろうとするが、背中の痛みもあってうまくいかない。
ひっ。
もふさまがこちらに向かって手を伸ばしてきたのだ。
ころんとひっくり返される。
おお、動けるようにしてくれたのか。
「ありがとう」
お礼を言うと、もふさまは何も言わずに川に視線を戻した。
「……あの子、怪我をしているね」
そう話しかければ、もふさまは息をついた。
それだけの動作で、ちょっとビビる。トカゲの体が。
『ガキどもに、いじめられているようだ』
少女は歯を食いしばっている。泣くのを堪えているんだろう。
もふさまがのそっと、背中の方に首をやった。あ、収納から何か出すのか。
もふさまは果物をいくつか、少女の靴の横に置く。
その様子を見ていると、わたしにもグレーンの一粒を分けてくれた。
「あ、ありがとう」
もふさまは伏せをして、少女を見守っている。
わたしはそんなふたりを見ながら、グレーンにかぶりついた。
不思議だ。精神体なのに、食べられる。甘くて美味しい。
一粒が口よりずっと大きいんだもんな。トカゲになった時の楽しみは食事かもしれない。大きな大好物を、口いっぱいに頬張って食べられる幸せったらないよね。
あー、お腹いっぱい。ヤバイ、お腹が膨れあがっちゃった。
ぽこりと見事に丸呑みでもしたように膨らんだ。
おへっ?
もふさまの顔が近づいてきて、固まっていると、顔をベロンと舐められた。
グレーンまみれになった顔を、きれいにしてくれたみたいだ。
『お前は赤子だろう? 仲間とはぐれたのか?』
「赤子じゃない。……仲間は別の場所にいる」
『そういうのを、はぐれたというんだ』
違う!と否定しようと思ったけど、あれ、かえって都合いいかとお願いしてみることにする。
「はぐれたわけじゃないんだけど、あのさー、一緒にいてもいい?」
『……なぜ我と一緒にいたいのだ?』
「友達になりたくて……」
『友達? 我とお前が?』
「うん」
もふさまは思案顔だ。
『弱き者よ。我といて恐怖しかないだろう? それなのに我といたいなどと思うのはおかしなことだが……そうか、まだ自分で餌が取れぬのだな? 相、わかった。我が餌を取れるようにしてやろう』
え。それはなんか違うんだけど。わたしは慌てて言った。
「あのベジタリアンなので!」
『べじたりあんとは何ぞ?』
「肉や虫は食べられませんので、野菜や果物のありかを教えていただければ」
『何? 肉を食わないのか? だからお前はそんな痩せ細って小さいのだな。選り好みをして、仲間から追い出されたのだろう?』
ああ、もふさまの中で、わたしが残念なトカゲになっていってる……。
「虫を食べないのは正当な主張で!」
『ああ、わかった。あ、気づかれる、行くぞ』
え?
わたしはもふさまの尻尾に飛びついた。
もふさまは空を駆け上がった。
これ落ちたら、さっきの痛いどころじゃ、すまないんじゃない?
わたしがビクビクしていると、もふさまが器用にわたしを咥えて、自分の背中に置いてくれた。
ほっとひと息。
「ありがとう、もふさま」
『もふさま?』
「あ。もふもふだから、もふさま」
もふさまは首を器用に曲げて、背中のわたしを数秒見た。
『まぁ、よかろう』
と、前を向いた。
真っ白の長い毛にしっかり掴まっていたけれど、こんなつかまり方で飛ばされていないのは、もふさまが魔法でガードしてくれているんだろうなと思った。
もふさまは友達でもないトカゲにも優しかった。
聖域で休んだり、果物を採って食べたり、おしゃべりしたり。
時々、川にいき、桃色髪の子を見守った。
もふさまの夢の中で、少女はどんどん成長した。
最初、少女は話し相手を欲していた。
もふさまの言葉がわかり、話せることをとても喜んだ。
もふさまのお土産はどんどんグレードアップしていく。
少女と話すときは、それが〝記憶〟だからなのか、トカゲのわたしは忘れさられる。
もふさまの背中にずっといるんだけどね。
近くで見ると、可愛いらしい顔立ちをしていると、よくわかった。
いつもの川原?
急に体がギシギシと痛んだ。
わたしは自分を抱きしめる。
精神体になっただろうに、なんで痛いんだろう?
頭のどこかで、そんなことを冷静に考えていた。
頭に響く声。
スキル 呪詛回避発動ーー 変化の尻尾切りが施行されました。
え、ええ? 呪い? なんでぇ?
頭が痛い。これ、変化する!
目を瞑っても視界が赤い。体がビクビクっと痙攣した。
精神体で中に入ったはずではあるけど、トカゲになっちゃった。
な、な、なんで~!
いや、人型でも魔法は使えなかったはずだから、人型でもトカゲでもあまり変わりはないか。
服が落ちてない。なんでだろう? 精神体だから? うー、そのくせ変化したの?
よくわからないが、そうなってしまったのだから、仕方ない。
ああ、でもこの姿での移動はあまり得意でないのに。
地べたを地道にペタペタと歩いていく。
大きいのや小さいの、とりどりの石があってデコボコしているから、大変移動しにくい。
あ、桃色の髪の娘だ。
自然の中で柔らかい色合いは目立たないはずなのに、光を振りまいているかのように、そこだけ輝いている気がする。
まだ7、8歳だろうけど、トカゲからすると大きすぎて、下からだとよく見えない。わたしは川辺に生えたひょろ長い木に登った。
小さいけど整った顔をしている。ピンクの髪で、整っていて可愛い顔立ちだからか、少しだけアイリス嬢と似ている気がしてしまう。
少女は身体中に傷痕があった。血が出ているところを、川の水で洗い流している。滲みるらしく、時々顔を顰める。
彼女が、もふさまの記憶を封印することになった原因の少女だろう。
現実が悪夢というキーワードで、もふさまはこの夢を見ているのだろうか?
「捨てられっ子、また転んだのか?」
「何もできないから、捨てられるんだ!」
土手上にあたる道を、子供たちが少女を囃し立てながら走っていく。
横にもふさまがいた。
オーラが溢れている。大型犬サイズ?だけど、ものすごく怖い。
この川原にあまり動物がいないのが理解できた。
もふさまがジロリとこちらを見た。その迫力に驚いて、わたしはトカゲでありながら地面に落ちた。背中から落ちて、けっこう痛い。何で精神体なのに痛みがあるのよ。
ジタバタしてひっくり返ろうとするが、背中の痛みもあってうまくいかない。
ひっ。
もふさまがこちらに向かって手を伸ばしてきたのだ。
ころんとひっくり返される。
おお、動けるようにしてくれたのか。
「ありがとう」
お礼を言うと、もふさまは何も言わずに川に視線を戻した。
「……あの子、怪我をしているね」
そう話しかければ、もふさまは息をついた。
それだけの動作で、ちょっとビビる。トカゲの体が。
『ガキどもに、いじめられているようだ』
少女は歯を食いしばっている。泣くのを堪えているんだろう。
もふさまがのそっと、背中の方に首をやった。あ、収納から何か出すのか。
もふさまは果物をいくつか、少女の靴の横に置く。
その様子を見ていると、わたしにもグレーンの一粒を分けてくれた。
「あ、ありがとう」
もふさまは伏せをして、少女を見守っている。
わたしはそんなふたりを見ながら、グレーンにかぶりついた。
不思議だ。精神体なのに、食べられる。甘くて美味しい。
一粒が口よりずっと大きいんだもんな。トカゲになった時の楽しみは食事かもしれない。大きな大好物を、口いっぱいに頬張って食べられる幸せったらないよね。
あー、お腹いっぱい。ヤバイ、お腹が膨れあがっちゃった。
ぽこりと見事に丸呑みでもしたように膨らんだ。
おへっ?
もふさまの顔が近づいてきて、固まっていると、顔をベロンと舐められた。
グレーンまみれになった顔を、きれいにしてくれたみたいだ。
『お前は赤子だろう? 仲間とはぐれたのか?』
「赤子じゃない。……仲間は別の場所にいる」
『そういうのを、はぐれたというんだ』
違う!と否定しようと思ったけど、あれ、かえって都合いいかとお願いしてみることにする。
「はぐれたわけじゃないんだけど、あのさー、一緒にいてもいい?」
『……なぜ我と一緒にいたいのだ?』
「友達になりたくて……」
『友達? 我とお前が?』
「うん」
もふさまは思案顔だ。
『弱き者よ。我といて恐怖しかないだろう? それなのに我といたいなどと思うのはおかしなことだが……そうか、まだ自分で餌が取れぬのだな? 相、わかった。我が餌を取れるようにしてやろう』
え。それはなんか違うんだけど。わたしは慌てて言った。
「あのベジタリアンなので!」
『べじたりあんとは何ぞ?』
「肉や虫は食べられませんので、野菜や果物のありかを教えていただければ」
『何? 肉を食わないのか? だからお前はそんな痩せ細って小さいのだな。選り好みをして、仲間から追い出されたのだろう?』
ああ、もふさまの中で、わたしが残念なトカゲになっていってる……。
「虫を食べないのは正当な主張で!」
『ああ、わかった。あ、気づかれる、行くぞ』
え?
わたしはもふさまの尻尾に飛びついた。
もふさまは空を駆け上がった。
これ落ちたら、さっきの痛いどころじゃ、すまないんじゃない?
わたしがビクビクしていると、もふさまが器用にわたしを咥えて、自分の背中に置いてくれた。
ほっとひと息。
「ありがとう、もふさま」
『もふさま?』
「あ。もふもふだから、もふさま」
もふさまは首を器用に曲げて、背中のわたしを数秒見た。
『まぁ、よかろう』
と、前を向いた。
真っ白の長い毛にしっかり掴まっていたけれど、こんなつかまり方で飛ばされていないのは、もふさまが魔法でガードしてくれているんだろうなと思った。
もふさまは友達でもないトカゲにも優しかった。
聖域で休んだり、果物を採って食べたり、おしゃべりしたり。
時々、川にいき、桃色髪の子を見守った。
もふさまの夢の中で、少女はどんどん成長した。
最初、少女は話し相手を欲していた。
もふさまの言葉がわかり、話せることをとても喜んだ。
もふさまのお土産はどんどんグレードアップしていく。
少女と話すときは、それが〝記憶〟だからなのか、トカゲのわたしは忘れさられる。
もふさまの背中にずっといるんだけどね。
近くで見ると、可愛いらしい顔立ちをしていると、よくわかった。
103
お気に入りに追加
1,379
あなたにおすすめの小説

転生貧乏令嬢メイドは見なかった!
seo
恋愛
血筋だけ特殊なファニー・イエッセル・クリスタラーは、名前や身元を偽りメイド業に勤しんでいた。何もないただ広いだけの領地はそれだけでお金がかかり、古い屋敷も修繕費がいくらあっても足りない。
いつものようにお茶会の給仕に携わった彼女は、令息たちの会話に耳を疑う。ある女性を誰が口説き落とせるかの賭けをしていた。その対象は彼女だった。絶対こいつらに関わらない。そんな決意は虚しく、親しくなれるように手筈を整えろと脅され断りきれなかった。抵抗はしたものの身分の壁は高く、メイドとしても令嬢としても賭けの舞台に上がることに。
これは前世の記憶を持つ貧乏な令嬢が、見なかったことにしたかったのに巻き込まれ、自分の存在を見なかったことにしない人たちと出会った物語。
#逆ハー風なところあり
#他サイトさまでも掲載しています(作者名2文字違いもあり)

さようなら、わたくしの騎士様
夜桜
恋愛
騎士様からの突然の『さようなら』(婚約破棄)に辺境伯令嬢クリスは微笑んだ。
その時を待っていたのだ。
クリスは知っていた。
騎士ローウェルは裏切ると。
だから逆に『さようなら』を言い渡した。倍返しで。

弟子に”賢者の石”発明の手柄を奪われ追放された錬金術師、田舎で工房を開きスローライフする~今更石の使い方が分からないと言われても知らない~
今川幸乃
ファンタジー
オルメイア魔法王国の宮廷錬金術師アルスは国内への魔物の侵入を阻む”賢者の石”という世紀の発明を完成させるが、弟子のクルトにその手柄を奪われてしまう。
さらにクルトは第一王女のエレナと結託し、アルスに濡れ衣を着せて国外へ追放する。
アルスは田舎の山中で工房を開きひっそりとスローライフを始めようとするが、攻めてきた魔物の軍勢を撃退したことで彼の噂を聞きつけた第三王女や魔王の娘などが次々とやってくるのだった。
一方、クルトは”賢者の石”を奪ったものの正しく扱うことが出来ず次第に石は暴走し、王国には次々と異変が起こる。エレナやクルトはアルスを追放したことを後悔するが、その時にはすでに事態は取り返しのつかないことになりつつあった。
※他サイト転載

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。


悪役令嬢?いま忙しいので後でやります
みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった!
しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢?
私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。

【完結】平民聖女の愛と夢
ここ
ファンタジー
ソフィは小さな村で暮らしていた。特技は治癒魔法。ところが、村人のマークの命を救えなかったことにより、村全体から、無視されるようになった。食料もない、お金もない、ソフィは仕方なく旅立った。冒険の旅に。

転生した愛し子は幸せを知る
ひつ
ファンタジー
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
宮月 華(みやつき はな) は死んだ。華は死に間際に「誰でもいいから私を愛して欲しかったな…」と願った。
次の瞬間、華は白い空間に!!すると、目の前に男の人(?)が現れ、「新たな世界で愛される幸せを知って欲しい!」と新たな名を貰い、過保護な神(パパ)にスキルやアイテムを貰って旅立つことに!
転生した女の子が周りから愛され、幸せになるお話です。
結構ご都合主義です。作者は語彙力ないです。
第13回ファンタジー大賞 176位
第14回ファンタジー大賞 76位
第15回ファンタジー大賞 70位
ありがとうございます(●´ω`●)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる