プラス的 異世界の過ごし方

seo

文字の大きさ
上 下
743 / 867
16章 ゴールデン・ロード

第743話 もふさまの悪夢②人族の少女

しおりを挟む
 レオは、人族と知り合ったんだとぶっきらぼうに言いながら、尻尾が揺れているもふさまから、話を聞き出したという。

 もふさまが少女を見かけたのは、村はずれを流れる川原だった。
 傷だらけの桃色の髪をした少女が、血を洗い流していたのだと。
 そこに悪ガキたちがやってきて、少女を囃し立てた。
 髪が変な色だと。親と似ていない。お前は捨てられっ子だと。
 少女は口答えするでもなく、静かに泣いて耐えていた。
 もふさまは人族にかかわることはなかった。けれど目の前で見てしまったこともあり、不憫だと思って、少女が脱いで置かれた靴のすぐそばに、森の恵みを置いてきた。

 もふさまはそれから、その川原を気にするようになった。
 ある時は悪ガキたちに追いかけられているのを見たり、大人に打たれているのを見たりした。
 少女は川原に来ては、泣いているのだった。
 もふさまは少女が川原に来ている時は、そうっと森の恵みを置いていくようになった。

 そんなある日、もふさまは少女から話しかけられた。
 森の恵みをくれるのはあなたね?と。一度お礼が言いたかったのだと。
 恵みものはいらないから、私と話をしてくれない?と少女は頼んできた。
 自分と話してくれる人はいなくて、とても寂しいのだと言った。
 守護補佐の力を使って話してもいいが、痩せ細った少女から魔力を奪うのはどうかと思えた。
 でもここで話さなかったら、少女は無視されたと思うだろう。
 もふさまは姿を現した。
 少女は息をのむ。

「綺麗……。あなただったのね、私を気にかけてくれたのは」

 そうにっこりと笑った。
 なんと少女はもふさまの言葉を理解した。
 ふたりはすぐに親しくなった。
 少女の生い立ちも分かってきた。
 少女は変わった髪色のことで、ずいぶん辛い思いをしてきたようだった。
 生まれてすぐに、気味が悪いと母親に捨てられる。母親は父親に毛色が違いすぎる、どこの誰の子だと責め立てられ、耐えきれず逃げ出した。
 父親はどこの誰の子かもわからない子を置いていかれて、憤っていた。だから物置小屋で暮らすよう言われ、用事をただ言いつけられた。
 男は新しく女性を妻として連れてきて、やがて妹が生まれた。すると余計に家族からの風当たりは強くなった。その場所に居たくはなかったけれど、他に行く当てがなかった。

 仲良くなってから少女は言った。
 自分を何処かに連れてってくれないかと。ここで暮らすのは辛すぎるのだと。
 もふさまは、そうすることができなかった。
 なぜなら自分は聖獣で、人族の後ろ盾についてやることはできない。違うところに運ぶことはできるが、そこがここより悪い場所ではないかは、暮らしてみなければわからない。
 もふさまは、今は連れていくことはできないけれど、少女に約束した。
 大人となって、自分のことは自分でできるようになり、それで行きたい場所があったなら運んでやろう、と。

 それからふたりは、静かに親交を温めていった。
 活発そうな少女に見えるのに、悪ガキにも家族にもやられっぱなしで一言も言い返さないところが、もふさまにはもどかしかった。
 何度もやり返せと煽動してみたが、少女が動くことはなかった。

 そうして月日が過ぎていった。
 少女はいつしか美しい娘になっていた。
 大きくなっても体に傷は絶えなかった。
 もふさまは、小さい頃の約束、どこかへ連れていくかと再び尋ねたけれど、娘は首を横に振った。
 そして、もうすぐ、もふさまと会えなくなるかもしれないと言った。
 もふさまがどうしてか尋ねると、娘は寂しそうに笑う。
 自分はとうとう売られるのだと。
 ここ何年か天候が悪く、流行病なども発生して、食べ物の収穫も少なく、人々は貧困に喘いでいた。平民は特にそれが顕著だ。
 17歳になったこともあり、娼館へと売られることになった。
 もふさまは、それなら尚更、どこか他のところへ行こうと言ったそうだけど、自分がいなくなったら妹が売られてしまうから、自分が売られるしかないのだと涙ながらに語ったという。
 どうにかお前も妹を売られない方法はないのかと聞くと、一つだけ、方法があるという。
 もふさまは協力すると約束した。
 娘は嬉しそうにして、それなら、夜に家まで来てくれと言ったそうだ。

 レオが、もふさま自身から聞いた話はここまでだそうだ。
 ーーここからは、弱ったもふさまから、他の聖獣たちが後に聞き出したこと。さらに時を経て、海の主人さまがレオに教えてくれたことだそうだ。

 もふさまがその夜、言われた通りの家に赴くと、娘が頬を腫らしていた。そしてもふさまが贈った森の恵みをお金に替えて買ったという、綺麗な色のショールがくたびれた色の布切れに変わっていた。
 どうしたと聞くと、売られ先で取られるだけだと、ショールは妹に取られたのだという。頬は、やはり行きたくないと言ったら、父親から頬を打たれたという。

「我が親御たちを吠えてやるか?」

 もふさまは尋ねた。

「いいえ。でもついてきてくれますか?」

 もふさまは娘の後をついていく、開けたところで、少し待っていてくれと言われる。
 もふさまがその場にいると、ガシャンと音がして、檻のようなものに閉じ込めらた。
 触ると力が抜けた。……これは聖霊石。

「お父さま、なんてことを。主人さまとお話をされるだけと言ったではありませんか!」

「これが森の主人か」

 娘の父親であるらしい男は、もふさまを舐めるように見ていたそうだ。

「お父さま、おやめください。主人さまをどうなさるおつもりです?」

「王に献上するに決まっているだろう? お前は向こうに行っていろ」

 男は娘の背中を蹴った。
 吠えれば一瞬怯えた顔を見せたが、すぐに優越感ある表情に変わる。
 檻が聖霊石でさえなければ、すぐに壊してやるのに!と、もふさまは思った。

「主人さま、ごめんなさい」

 娘は目にいっぱい涙を溜めていたそうだ。
しおりを挟む
感想 45

あなたにおすすめの小説

願いの代償

らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。 公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。 唐突に思う。 どうして頑張っているのか。 どうして生きていたいのか。 もう、いいのではないだろうか。 メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。 *ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。

離縁してくださいと言ったら、大騒ぎになったのですが?

ネコ
恋愛
子爵令嬢レイラは北の領主グレアムと政略結婚をするも、彼が愛しているのは幼い頃から世話してきた従姉妹らしい。夫婦生活らしい交流すらなく、仕事と家事を押し付けられるばかり。ある日、従姉妹とグレアムの微妙な関係を目撃し、全てを諦める。

義妹が私に毒を盛ったので、飲んだふりをして周りの反応を見て見る事にしました

新野乃花(大舟)
恋愛
義姉であるラナーと義妹であるレベッカは、ラナーの婚約者であるロッドを隔ててぎくしゃくとした関係にあった。というのも、義妹であるレベッカが一方的にラナーの事を敵対視し、関係を悪化させていたのだ。ある日、ラナーの事が気に入らないレベッカは、ラナーに渡すワインの中にちょっとした仕掛けを施した…。その結果、2人を巻き込む関係は思わぬ方向に進んでいくこととなるのだった…。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった

ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。 しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。 リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。 現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!

魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~

月見酒
ファンタジー
 俺の名前は鬼瓦仁(おにがわらじん)。どこにでもある普通の家庭で育ち、漫画、アニメ、ゲームが大好きな会社員。今年で32歳の俺は交通事故で死んだ。  そして気がつくと白い空間に居た。そこで創造の女神と名乗る女を怒らせてしまうが、どうにか幾つかのスキルを貰う事に成功した。  しかし転生した場所は高原でも野原でも森の中でもなく、なにも無い荒野のど真ん中に異世界転生していた。 「ここはどこだよ!」  夢であった異世界転生。無双してハーレム作って大富豪になって一生遊んで暮らせる!って思っていたのに荒野にとばされる始末。  あげくにステータスを見ると魔力は皆無。  仕方なくアイテムボックスを探ると入っていたのは何故か石ころだけ。 「え、なに、俺の所持品石ころだけなの? てか、なんで石ころ?」  それどころか、創造の女神ののせいで武器すら持てない始末。もうこれ詰んでね?最初からゲームオーバーじゃね?  それから五年後。  どうにか化物たちが群雄割拠する無人島から脱出することに成功した俺だったが、空腹で倒れてしまったところを一人の少女に助けてもらう。  魔力無し、チート能力無し、武器も使えない、だけど最強!!!  見た目は青年、中身はおっさんの自由気ままな物語が今、始まる! 「いや、俺はあの最低女神に直で文句を言いたいだけなんだが……」 ================================  月見酒です。  正直、タイトルがこれだ!ってのが思い付きません。なにか良いのがあれば感想に下さい。

家族もチート!?な貴族に転生しました。

夢見
ファンタジー
月神 詩は神の手違いで死んでしまった… そのお詫びにチート付きで異世界に転生することになった。 詩は異世界何を思い、何をするのかそれは誰にも分からない。 ※※※※※※※※※ チート過ぎる転生貴族の改訂版です。 内容がものすごく変わっている部分と変わっていない部分が入り交じっております ※※※※※※※※※

異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!

明衣令央
ファンタジー
 糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。  一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。  だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。  そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。  この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。 2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。

処理中です...