プラス的 異世界の過ごし方

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16章 ゴールデン・ロード

第742話 もふさまの悪夢①眠った聖獣

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「「リーー!」」

 わたしは横たわっていて、みんなに覗き込まれていた。
 わたしは目をこする。

「良かった! リーが目を覚まして」

 あ、小箱。小箱を握りしめていた。
 後で中を見ようと、わたしはそれを収納ポケットに収めた。

「108階クリアしたみたいだ」

 少し前に、下へと続く階段が現れ。この階にいたうんざりするほどのアンデッドが、いなくなったという。
 やっぱり、ローレライはボスだった。ダンジョンにいるにはチグハグな優しい魔物は悪夢という現実から解放された。
 他のアンデッドも、ローレライと一緒に地に還れたんだと、ほっとした。

「もふさまと会えた?」

 アラ兄が少し不安な顔をする。

「え?」

 そうだ、もふさま!
 もふさまはわたしの隣にいた。うずくまって寝ているまま? 起き上がらない。
 寝息に合わせ体が上下に静かに揺れているけれど。
 声をかけた。揺すってみた。でも起きなかった。
 みんなで代わる代わる、思いつくことをやって起こそうとしたけれど、もふさまは起きなかった。
 もふさま、どうしちゃったの??


 わたしたちは、起きないもふさまを抱えて家に帰った。
 見た感じは、わたしの魂がローレライに囚われていた時と同じ感じだという。
 
 もふさまの耳を塞いだわたしは、ローレライのメロディーを聞いてしまって、そのまま眠ったように見えたという。
 わたしが眠ると、音は聞こえなくなり、湖も静まりかえっていた。

 もふさまが、わたしの魂はあの湖の中にいる魔物に囚われたようだといい、自分が助けに行くと言った。
 アラ兄が魂が囚われたところに行く手筈があるのかと尋ねれば、聖獣だからそれができて、わたしがもふさまを思い出して強く呼べば、繋がるだろうと言っていたそうだ。
 そして、わたしたちは繋がった。
 それからは、もふさまも眠ったようになっていた。
 少しすると、湖にかかっていた霧が晴れて、わたしがぱちっと目を覚ました。けれど、もふさまは眠ったまま……。

 わたしはレオに、海の主人さまのところに連れてって欲しいとお願いした。いつもの海辺に行って眷属さんたちを呼び出せば、海の主人さまと連絡が取れるはずだ。レオに大きくなってもらっているときに、庭に降りて来た影がある。

『あれ、どこかにお出かけ?』

「ノックスさま!」

 火を纏っているし、姿は喧嘩っ早そうだけど、喋り方はどこかおっとりしている。

「海の主人さまのところに行くんです」

 だから今日は遊べないんだと、続けようとした。

『森の守護者はどうしたの? 眠っているの?』

 わたしたちは一刻も早く出発したいから、ノックスさまに状況を話すのは憚られたんだけど、尋ねられるままにお話した。

『森の守護者は、そのアンデッドの魔法に触れてしまったようだね』

「え? ノックスさまにわかるんですか?」

 失礼な言い方になってしまったが、ノックスさまは気持ち胸を張る。

『我は神獣ぞ?』

 あ、そうだった。

「でもローレライは、もふさまを眠らせたりしなかったのに……」

『……魂だから、影響を受けやすかったのかもしれない』

「どうしたらもふさまが起きるか、わかりますか?」

 わたしはノックスさまに詰め寄った。

『そりゃあ、夢の中に入って起こすしかないだろうね』

「夢の中に入る?」

『私が!』
「オイラが!」

 みんな次々にもふさまの夢の中に入って、自分が起こすのだと名乗りをあげた。
 けれど、ノックスさまは首を横に振る。

『残念だけど、瘴気が多い者は危険だ。もしそこで瘴気が膨れ上がったら、夢を見ている守護者ごと命を落とすぞ』

 そう言って、ノックスさまは息を落とす。

『我は神獣ゆえ、聖獣のことには関与できない』

「わたしが行く」

『リディアが??』

 みんなして声を揃える。

「わたしは瘴気が少ないもの。一番適している」

『夢の中ではリディアは外の者。魔法も使えないよ。繋がったときに守護者と話せるぐらいだよ? それでも?』

 ノックスさまに確かめられた。
 わたしは頷く。

「ダメだよ、危険すぎる」

「何があるか、わからないんだぞ?」

 兄たちには反対された。

「でも、そんな危険の中、もふさまはわたしを助けに来てくれた」

 友だからって。今度はわたしが助ける番だ。

『決めたのなら、夢の中に入る手伝いぐらいはしてやれる』

「ノックスさま、ありがとうございます!」



 レオに、行く前にちょっとだけ話せるかと言われる。
 急ぎたかったけれど、レオの目が真剣だったので、わたしは頷き、声が聞こえないぐらいのところまで、みんなから離れた。

『主人さまが、記憶を失くしていることは知っているな?』

 レオも知ってたんだ……と思いながら頷く。

 恐らく信じた人族に騙されて心に傷を負い、記憶を封印したのだろうと言っていた。記憶をなくしたのだと思っても別に困ることもないから、それは取り立てて覚えていたい過去もないことなんだと思い。だけれど、いつも闇夜にいるような心地だと言っていた。
 それが時々記憶が蘇るようになり、その記憶は心地いい、じんわりとあたたかいものだったと教えてくれた、少し嬉しそうな、もふさまの深い森の色の瞳を思い出す。

『私は、主人さまが記憶をなくす前の友達だったんだ』

 え?

『でも主人さまに辛いことがあって、弱ってしまって。それを見兼ねて、聖なる方がその時の記憶を封印したんだ。そしたら、私のことも忘れてしまったんだよ』

 いつもの自信に溢れたレオから考えられないぐらいの弱々しい笑みを浮かべる。
 胸がギューッとして、わたしは唇を噛み締めた。

『辛いことを忘れられたはずなのに、楽しいことも 見出みいだせないみたいで、仕事ばっかでさー。そんな姿を見るのが辛かった。忘れられたことより、その方が辛かった』

 ひとつ不思議に思ってた。レオは人懐っこいけど、上下関係というか、群れの掟を重視していた。もふさまのことを〝主人さま〟と呼び続けるぐらいだ。
 もふさまを聖獣と知っていて、顔見知りだったとは思っていた。500年前にウチの領地の森でもふさまと貝を食べたというから。それもレオから誘ったみたいだった。それでね、人懐っこいからと思えばおかしな行動ではないけれど、でも……。
 たとえば爵位重視の貴族社会で、伯爵の父さまが公爵さまに、人懐っこいからって、ここの美味いんですよーとかいって、そこらへんのレストランへ一緒に行ったとは違和感があった。それが爵位(上下関係)を全く気にしない人ならアリかもしれないけどね。

 だから納得する。そうか、友達だったんだ。だけど、忘れられて……でもレオは、思い出させるようなことをせずに、新しく知り合いから始めることを選んだ……。

『だけど、主人さまは、また人を友とした。また人族を愛した。前よりずっとずっと楽しそうで満たされていて。だから、私は嬉しかったんだ。そうしてくれたリディアに感謝してる』

 そんな、感謝するのはわたしの方だと首を横に振る。

「……レオは、もふさまと人族の間に、何があったか知っているのね?」

『それを話しておこうと思ったんだ。さっきのローレライの話を聞いて、主人さまは共感しちゃったんじゃないかと思ったから』

「共感?」

『ノックスさまが影響を受けたって言っただろ? 現実がとても辛くなった時のことを、思い出したんじゃないかって。それで夢に閉じこめられちゃったんだ』

 そう前置きしてから、レオはもふさまの昔話をしてくれた。





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