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16章 ゴールデン・ロード
第737話 眠れる獅子⑥ケイタイ
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「魔具? どんな?」
わたしはふたりに〝ケイタイ〟を渡す。
「指輪?」
「指輪型魔具。今はベルが鳴るようにしてあるから、鳴ったらここを押して。そうするとウィンドーが出てくるから、指示通りに操作して!」
そう告げて、わたしは離れた岩陰に座り込む。
そしてウインドーを出して、ふたりに預けたケイタイ通話を選ぶ。
ベル音が微かに聞こえた後、あちらも通話のボタンを押したみたいだ。
指輪からホログラムのように、ふたりが覗き込んでいる姿が浮かび上がる。
「「リー」」
ケイタイからではなく、生の驚いた声が届く。
わたしはホログラムのふたりに手を振って見せた。
向こうでも、ホログラムのわたしが手を振っているはずだ。
「離れたところにいるのに、リーがまるでここにいるように見える。どういうこと?」
「会話のやりとりができる伝達魔法よ。映像つきで、リアルタイムに話せるの。どう、面白いでしょ?」
わたしのギフトで付与をプラスして魔具を作るのは難しくないんだけど、それをいかに普通の魔具らしくするかというのが、時間がかかったし悩んだ。
アラ兄に魔具の講釈を何度もしてもらい、やっと高度に見える魔具が出来上がった。
アクセサリーに組み込むことができる、ケイタイ魔具だ。
リアルタイムの姿を見て話すことができるケイタイ。
例の謀反事件で地下基地にいた時、兄さまと魔具の開発に勤しんだ。もっと連絡を楽に密にしたくて、必然的にそんな魔具に寄ったものが多かった。
伝達魔法のように、魔力があれば誰でもってわけにはいかないけれど、お互いに魔具を持っていれば言葉を届けるものができるものとか。録画した映像を、転送する魔具とか。本当はリアルタイムで話せる魔具を作りたかったんだけど、そう付与するためには工程が多すぎて、そんな多くの工程をつけても耐えられるような魔石もそうそうあるわけでもなく。だから、工程のひとつひとつを魔具ひとつひとつに込めて作っていった。
その下地があったから、やっと完成したといえる。
「一体いくつの事象を組み込んでいるんだ? オレが必死に勉強して3年かけてやっとできるようになった、それ以上のことを、リーはできちゃうんだね」
魂が抜けたような目で、そう口にするアラ兄の肩をロビ兄が叩く。
わたしはケイタイを切って、ふたりのところに戻った。
「わたしのはギフトやスキルだから! アラ兄のおかげで、魔具らしき形にできたから、世にも出せる。っていうか、しばらくはblackとウッド家情報網専用だけどね」
「報酬はこれか。なるほど、これなら情報をすぐ届けられるし、欲しいわなー」
「おじいさまはこれで引き受けるって?」
「ん? いや、情報網はその案だけでいいと思うって引き受けてくれてたの。報酬をね、受け取ってくれないから、これ渡したら、使うのもだけど、解体していいかきかれた」
「それで?」
「もちろんいいって。ただこれはわたしのギフトとスキルを掛け合わせて、アラ兄とロビ兄のギフトとスキルも使って、魔具にしてあるって言ってあるから、よろしく!」
おじいさまはわたしのギフトをご存知だし、いいんだけど、建前だ。対外的には、そういう風に作ったとしたいということを伝えるための。
アラ兄とロビ兄は顔を見合わせている。
「これ、父さまも欲しがるんじゃない?」
「母さまも」
わたしは口をつぐむ。
「家族用は作らないの? オレ欲しいけど」
「ふたりとも、もしそれが父さまや母さまの手に渡ったら、いつ何時も出なくちゃいけないんだよ? 絶対にめんどくさいことになるよ?」
「……確かにどこにいるか、何しているか見えるんだもんな。それは全部バレるってことだな」
「そうだよ。母さまの手に渡っちゃったら、毎日登園前の身嗜みチェックになって、わたし、絶対遅刻する!」
「リー、それは身嗜みを気にした方がいいんじゃないかな?」
「リーは髪結ぶの苦手だもんな」
ロビ兄の慰めは、なんだか傷つくんですけど。
静かだと思っていたら、もふもふ軍団は寄り添ってうとうとしていた。
「そうやってドナイ候の情報を集め、弱みを見つけて、やっつけるってとこか?」
「基本そうだけど、表に出ないで済むなら、それに越したことないなーと思ってる。セイン国と仲違いして痛み分けとかが一番いいかと思うんだけど。そんないい材料があるかはわからないから」
「ドナイ侯はセイン国かはわからないけど、外国と繋がってるのは間違いないと思うんだ。その技術はユオブリアのような恵まれたところではなくて、もっと必要としているところに買ってもらう方が、喜ばれるし、価値通りの値にもなるって言ってたから」
アラ兄が教えてくれた。
「そういう考えの人なのか」
あの場ですぐに態勢を立て直した人だから、一筋縄では行かないと思ったけど、案外手こずるかもな。
「リーに結婚申し込んできた、あいつは大丈夫なのか?」
「営業停止にしているし、100万ギル払ってきたよ。今はドナイ侯爵の手前、大人しくしているけど、後から報復を考える人だと思う」
特に女を見下していたからな。
「エリンとノエルを連れ出したのもドナイだったのかな?」
「タイミングからみて、そうだろうねー。って父さまが言ってた。
ノエルの転移で領地との行き来をしていることを知っていて、ノエルがいなければ王都の家には間に合わないって思ったんじゃないかな。
ヴェルナー伯は生意気なわたしとシュタイン家を叩きたかっただけだと思うけど、ドナイ侯はきっと最初から企んでいたのよね。あの謝罪だって横暴な話だったし。だとすると、謝罪はとっかかりで、父さまと繋がりを持つこと、それが最初からの目的だったのかも」
「父さまと?」
「うん。エリンとノエルのことに触れてあったのも、いつでも濁せるようにしてあったのも、様子見だったんじゃないかな。父さまがどんな人物で、どう物事を捉える人なのかを見にきた。
権力に屈するような人なら、エリンとノエルのことで脅してもいいし。王都の家にわたしたちが行けなくて、上からの呼び出しを無視したってところで、大ごとにしたかったのかもしれないし」
「でもノエルがいなくても、クジャクのおじいさまに頼むかもしれないことは考えなかったのかな?」
「それはそれで、すぐに親戚に頼るって思われただけじゃないかな?」
それもドナイ侯が本当はどんな目的だったのかはわからずじまいで、これからも注視するしかない。
今はウッド家+blackにドナイ侯のことならなんでも情報を集めてもらっているから、集まってくるまで待つ。
「何はともあれ、奴らは眠れる獅子を起こしちゃったな」
アラ兄が呟いた。
「ああ、父さま? 普段あまり怒らないけど、怒ると怖いもんね。あの日なんて父さまから冷気が漂ってたよ」
アラ兄とロビ兄が、顔を合わせて笑っている。
「エリンは激情型だし、ノエルもエリンを宥めるフリをして沸騰していることもあるけど、父さまに誰より似ているのはリーだよ」
「え、わたし、父さまに似てる?」
「母さまにも似てるよ。静かに怒りを膨らませていくところとか」
「そう。父さまに似て、あまり怒らないけど、怒らせると誰よりも怖いところも」
「えー、何それ」
わたしは兄たちの冗談を笑い飛ばした。
わたしはふたりに〝ケイタイ〟を渡す。
「指輪?」
「指輪型魔具。今はベルが鳴るようにしてあるから、鳴ったらここを押して。そうするとウィンドーが出てくるから、指示通りに操作して!」
そう告げて、わたしは離れた岩陰に座り込む。
そしてウインドーを出して、ふたりに預けたケイタイ通話を選ぶ。
ベル音が微かに聞こえた後、あちらも通話のボタンを押したみたいだ。
指輪からホログラムのように、ふたりが覗き込んでいる姿が浮かび上がる。
「「リー」」
ケイタイからではなく、生の驚いた声が届く。
わたしはホログラムのふたりに手を振って見せた。
向こうでも、ホログラムのわたしが手を振っているはずだ。
「離れたところにいるのに、リーがまるでここにいるように見える。どういうこと?」
「会話のやりとりができる伝達魔法よ。映像つきで、リアルタイムに話せるの。どう、面白いでしょ?」
わたしのギフトで付与をプラスして魔具を作るのは難しくないんだけど、それをいかに普通の魔具らしくするかというのが、時間がかかったし悩んだ。
アラ兄に魔具の講釈を何度もしてもらい、やっと高度に見える魔具が出来上がった。
アクセサリーに組み込むことができる、ケイタイ魔具だ。
リアルタイムの姿を見て話すことができるケイタイ。
例の謀反事件で地下基地にいた時、兄さまと魔具の開発に勤しんだ。もっと連絡を楽に密にしたくて、必然的にそんな魔具に寄ったものが多かった。
伝達魔法のように、魔力があれば誰でもってわけにはいかないけれど、お互いに魔具を持っていれば言葉を届けるものができるものとか。録画した映像を、転送する魔具とか。本当はリアルタイムで話せる魔具を作りたかったんだけど、そう付与するためには工程が多すぎて、そんな多くの工程をつけても耐えられるような魔石もそうそうあるわけでもなく。だから、工程のひとつひとつを魔具ひとつひとつに込めて作っていった。
その下地があったから、やっと完成したといえる。
「一体いくつの事象を組み込んでいるんだ? オレが必死に勉強して3年かけてやっとできるようになった、それ以上のことを、リーはできちゃうんだね」
魂が抜けたような目で、そう口にするアラ兄の肩をロビ兄が叩く。
わたしはケイタイを切って、ふたりのところに戻った。
「わたしのはギフトやスキルだから! アラ兄のおかげで、魔具らしき形にできたから、世にも出せる。っていうか、しばらくはblackとウッド家情報網専用だけどね」
「報酬はこれか。なるほど、これなら情報をすぐ届けられるし、欲しいわなー」
「おじいさまはこれで引き受けるって?」
「ん? いや、情報網はその案だけでいいと思うって引き受けてくれてたの。報酬をね、受け取ってくれないから、これ渡したら、使うのもだけど、解体していいかきかれた」
「それで?」
「もちろんいいって。ただこれはわたしのギフトとスキルを掛け合わせて、アラ兄とロビ兄のギフトとスキルも使って、魔具にしてあるって言ってあるから、よろしく!」
おじいさまはわたしのギフトをご存知だし、いいんだけど、建前だ。対外的には、そういう風に作ったとしたいということを伝えるための。
アラ兄とロビ兄は顔を見合わせている。
「これ、父さまも欲しがるんじゃない?」
「母さまも」
わたしは口をつぐむ。
「家族用は作らないの? オレ欲しいけど」
「ふたりとも、もしそれが父さまや母さまの手に渡ったら、いつ何時も出なくちゃいけないんだよ? 絶対にめんどくさいことになるよ?」
「……確かにどこにいるか、何しているか見えるんだもんな。それは全部バレるってことだな」
「そうだよ。母さまの手に渡っちゃったら、毎日登園前の身嗜みチェックになって、わたし、絶対遅刻する!」
「リー、それは身嗜みを気にした方がいいんじゃないかな?」
「リーは髪結ぶの苦手だもんな」
ロビ兄の慰めは、なんだか傷つくんですけど。
静かだと思っていたら、もふもふ軍団は寄り添ってうとうとしていた。
「そうやってドナイ候の情報を集め、弱みを見つけて、やっつけるってとこか?」
「基本そうだけど、表に出ないで済むなら、それに越したことないなーと思ってる。セイン国と仲違いして痛み分けとかが一番いいかと思うんだけど。そんないい材料があるかはわからないから」
「ドナイ侯はセイン国かはわからないけど、外国と繋がってるのは間違いないと思うんだ。その技術はユオブリアのような恵まれたところではなくて、もっと必要としているところに買ってもらう方が、喜ばれるし、価値通りの値にもなるって言ってたから」
アラ兄が教えてくれた。
「そういう考えの人なのか」
あの場ですぐに態勢を立て直した人だから、一筋縄では行かないと思ったけど、案外手こずるかもな。
「リーに結婚申し込んできた、あいつは大丈夫なのか?」
「営業停止にしているし、100万ギル払ってきたよ。今はドナイ侯爵の手前、大人しくしているけど、後から報復を考える人だと思う」
特に女を見下していたからな。
「エリンとノエルを連れ出したのもドナイだったのかな?」
「タイミングからみて、そうだろうねー。って父さまが言ってた。
ノエルの転移で領地との行き来をしていることを知っていて、ノエルがいなければ王都の家には間に合わないって思ったんじゃないかな。
ヴェルナー伯は生意気なわたしとシュタイン家を叩きたかっただけだと思うけど、ドナイ侯はきっと最初から企んでいたのよね。あの謝罪だって横暴な話だったし。だとすると、謝罪はとっかかりで、父さまと繋がりを持つこと、それが最初からの目的だったのかも」
「父さまと?」
「うん。エリンとノエルのことに触れてあったのも、いつでも濁せるようにしてあったのも、様子見だったんじゃないかな。父さまがどんな人物で、どう物事を捉える人なのかを見にきた。
権力に屈するような人なら、エリンとノエルのことで脅してもいいし。王都の家にわたしたちが行けなくて、上からの呼び出しを無視したってところで、大ごとにしたかったのかもしれないし」
「でもノエルがいなくても、クジャクのおじいさまに頼むかもしれないことは考えなかったのかな?」
「それはそれで、すぐに親戚に頼るって思われただけじゃないかな?」
それもドナイ侯が本当はどんな目的だったのかはわからずじまいで、これからも注視するしかない。
今はウッド家+blackにドナイ侯のことならなんでも情報を集めてもらっているから、集まってくるまで待つ。
「何はともあれ、奴らは眠れる獅子を起こしちゃったな」
アラ兄が呟いた。
「ああ、父さま? 普段あまり怒らないけど、怒ると怖いもんね。あの日なんて父さまから冷気が漂ってたよ」
アラ兄とロビ兄が、顔を合わせて笑っている。
「エリンは激情型だし、ノエルもエリンを宥めるフリをして沸騰していることもあるけど、父さまに誰より似ているのはリーだよ」
「え、わたし、父さまに似てる?」
「母さまにも似てるよ。静かに怒りを膨らませていくところとか」
「そう。父さまに似て、あまり怒らないけど、怒らせると誰よりも怖いところも」
「えー、何それ」
わたしは兄たちの冗談を笑い飛ばした。
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