プラス的 異世界の過ごし方

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16章 ゴールデン・ロード

第733話 眠れる獅子②筋違い

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 ルーム経由で、王都の家に行こうとする父さまを引き止める。

「父さま、変だわ」

 振り返った父さまが、非常に険しい顔をしていたので、わたしはビクついた。

「変、とは?」

「ド、ドナイ侯爵さまからは、わたしの縁談は来てなかったのよね? だとしたら恥をかかされたって筋違いじゃない。あんなデビュタントの王宮の舞踏会で、侮辱されたわたしの方が謝罪して欲しいところだわ」

 言っているうちに憤ってしまうと、父さまは少しだけ表情を和らげた。

「どこがどうするとウチが謝罪なんておかしな考えになるの? 変じゃない? 仮にも爵位があって、貴族の人たちなのに、頭が悪すぎるわ」

「ああ、本当に、ただ頭の悪いだけの、おかしな人ならいいんだがな」

 え?

「父さま、何かわかってるの?」

 父さまはため息を落とす。

「外国……セインと繋がっていなければいいと思っている。ただの勘だけどな」

 父さまはわたしの頭を撫でた。

「レオたち、リディアがどんな理不尽な責めを受けても、ぬいぐるみのままでいられるか? できないなら、ルームにいて欲しい」

 父さまは滅多にこういうことを、もふさまやもふもふ軍団にはお願いしない。
 だから、もふもふ軍団はお互いに顔を合わせている。
 舞踏会での話を聞いて、もふもふ軍団は怒り心頭だったからね。
 う、でもやっぱりそうか。手紙でわたしに同席しろということは、やっぱそうだよね。わたしは罵詈雑言を浴びせられるのかしら?

「もし、頭が悪いのでなかったら、セインからでも確かめるように言われたのだろう」

「確かめる?」

「リディアの加護がどんなものだか知るためにな。本当にリディアに加護があるのか。加護はどんなふうに跳ね返ってくるのか。リディアに手を出さなければ、家族の場合は大丈夫なのか。リディアのいるユオブリアも守られているのか」

 父さまを見上げる。

「外国人でユオブリアに何かをしようと思っていた時に、その国に神と聖霊の加護を持つ少女がいると聞いたら、父さまなら確かめる」  

 ……そっか……。
 言われてみればそうだ。そしてわたしだけじゃなく、ユオブリアを図ることもあるってこと? それはオオゴトだ。

『わかった。何があってもぬいぐるみは解かない』

 もふもふ軍団も、父さまが意図してお願いしたことがわかったみたいだ。
 レオが宣言すれば、他のみんなも頷いた。

「わ、わたしはどうすればいい?」

 父さまは表情を緩めて、微笑む。

「リディアは、リディアの思う通りにしていて構わない。
 お前には、。いいな、行くぞ?」

「はい」

 わたしは背筋を伸ばした。

「フリンキー」

 父さまが呼びかける。

『なぁに、父さま?』

「私が合図することがあったら、家族でないものを例の部屋に送ってくれ」

『例の部屋に? わかったよ』

「例の部屋って?」

 わたしが聞くと、父さまはわたしの頭を撫でて、言わずに済ませた。



 王都の家に着くと、アルノルトが幾分ほっとした顔で迎えてくれた。

「まだ、いらっしゃっていません」

「無礼があったら私の合図で、例の部屋へぶち込むよう、フリンキーに頼んである」

「それは、ようございますね」

 アルノルトが父さまに頷く。
 そのタイミングで、アルノルトがピクッとする。

「いらしたようです」

 玄関へと向かって歩き出すと、御者の馬をなだめる声が聞こえた。
 ドアベルが鳴らされる前に、アルノルトが扉を開ける。
 わたしたちは中で並んで待つ。もふさまもわたしの隣にちょこんと座っている。リュックにはもふもふ軍団が、ぬいぐるみに成り済まして入っている。

 鷹揚と入ってきたふたりは、中にわたしたちが控えていたので驚いたみたい。

「これは! シュタイン伯とシュタイン嬢に出迎えてもらえるとは」

 そう言ったのはタヌキ腹をした、ハの字の口髭をしたドナイ侯爵だ。

「お初にお目にかかります、ドナイ侯爵さま」

 父さまは真面目な表情を崩さず、胸に手をあて挨拶をする。

「ははは、急に押しかけてすまないね。今日は会ってもらえて嬉しいですよ」

 脅すようなやり方で、会えと言ってきたくせに。

「モーリッツ・ヴェルナーです、シュタイン伯。リディア嬢は、今日も可愛らしいですね」

 うわー。笑みを絶やさないようにするのに、労力がいる。
 鳴呼、挨拶として返すのでも、「いらっしゃい」などと言いたくない。心から。

「中へどうぞ」

 玄関で話すわけにはいかないので、とりあえずふたりだけ中へと入ってもらう。護衛やら何やらは招き入れない。
 フリンキーには、ふたりが入った時から、録画と録音を任せている。
 謝罪要求というわりには、ふたりがフレンドリーで余計に気持ち悪い。
 それは父さまも同じようだ。ふたりを眺める目が、胡散臭いと物語っている。

 アルノルトがお茶を出して、部屋のすみに控える。ガーシもドアのところで控えていたので驚いた。応援で呼んでいたのだろう。
 貴族が相手の時は、お茶を出すのもアルノルトがすることが多い。

 父さまは、爵位が上のドナイ侯が話し始めるのを待たず、早々に切り出した。

「手紙を拝見しましたが、何をおっしゃりたいかよくわかりませんでした。今日はどういったご用件でしょうか?」

 うわー、父さま結構、喧嘩ごし!

「おふたりが揃っていたので、謝罪いただけるかと思いましたが、そうきますか」

 優雅に紅茶のカップに口をつけたヴェルナー氏は、馬鹿にした笑いを浮かべる。

「はい、全くわかりませんね。ウチの者がいったいいつ、どこで、謝らなければいけないことをしたのでしょうか?」

「令嬢から聞いていませんか? 令嬢は女でありながら、私に口答えをしたんですよ」

 はい?
 え、謝罪を要求するって、そこ?
 ちっちぇぇ!
 いや、婚姻を断ったことでネチネチいってくるんだとばかり……。

「ふざけているのか?」

 低い、低い声がする。父さまだ。

「あぁ?」

 ガラ悪くヴェルナー氏が聞き返す。

「男だとか女だとか、そんなことは関係ありません。ウチでは思ったことは堂々と言うように、そして言ったからにはその言葉、言動に責任を持つよう教育しています」

「はっ、なんてことだ。そんな考えだから、娘がつけ上がるんだ」

 もふさまは、わたしの足元で、なぜか尻尾を振っている。この好戦的な会話が繰り広げられている中。

「つけ上がる? 全く自分の言動に責任の持てない大人ほど、厄介なものはない」

「なんだと?」

 呆れて言った言葉なのはわかったみたいで、ヴェルナー氏の顔が赤らんでいく。

「娘も最悪だが、親の教育が悪いんだな!」

 おさまりがつかないのか、ヴェルナー氏は立ち上がった。

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