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16章 ゴールデン・ロード
第727話 Rの店
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「ありがとうございました。気をつけてお帰りください」
本日最後のお客さまをお見送りする。
すこぶる笑顔だった。
体を起こしてから、セズと手を取り合って喜び合う。
「セズ、お疲れさま! 最後の方も、とても喜んでくださったわね」
「お嬢さまの巧みな話術も見事でした。見てください。今日もすっからかん、です!」
本当によく売れた。今日もよく売れた。お土産でも2つまでにしてもらっているんだけど、結構いくつも買ってくれる方が多くて。色も迷うと2つ買ってくれたりね。
セズがお化粧を教えて、スキンケアはわたしが担当した。
スタッフで来てもらっている方も、みんな実践してくれているので、頼りになる。
トラブルらしいトラブルもなく、とにかく売れたし、話題になった。
それに、商業ギルドやら、ホリーさんのところ、領主の父さまにまで、問い合わせが殺到。他商会でも、化粧品やスキンケアものを売り出さないかというお誘いだ。Rの店のオーナーはわたしってこともオープンにしたので、わたしを評判ままに思っていた人たちを驚かすこともできた!
ふふふ、シュタイン家の真ん中もやるもんでしょ?
「お嬢さま」
外から声を掛けられた。アルノルトだ。迎えがきた。
「お嬢さま、後のことはやっておきますので、どうぞお帰りになってください」
セズやスタッフが勧めてくれる。
「みんな、ありがとう。5日間、すっごく忙しかったのに頑張ってくれてありがとうね! 〝ボーナス〟出すから!」
デビュタントの翌日からお店がすっごいことになってねー。嬉しい悲鳴をあげっぱなしだったけど、スタッフは大変だったと思う。わたしもなんだかんだ用事があって、今日やっと来られてヘルプに入れた。それでも大変だったもの。みんな連日で大変だったと思う。
「お嬢さま」
「なあに?」
「もしできたらなんですけど、ボーナスより、私、お菓子の券が欲しいです」
「お嬢さま、私もできたら、お菓子の券か、カフェの優待券!」
「え、現金よりそっち?」
「お給金は、これまでもしっかりいただいておりますので」
「はい、お昼休みに行ってもお菓子売り切れちゃうんですもん。お菓子の券があると取り置いてもらえるんですよね?」
「ええ、そうよ。そう、わかったわ。お菓子の券とカフェの券ね。他にも券の方がいい人はいる?」
尋ねると全員が手を挙げた。
「わかったわ。券のボーナスにするわ」
若いお嬢さんたちが湧きあった。
「さ、お嬢さま、アルノルトさんがお待ちですよ」
わたしはセズに押し出されるようにして、店を出た。
あれ、ガーシの他にもう一人が馬に乗っている。
護衛が増えた?
馬車に乗るときにアルノルトに尋ねれば、そうだと言った。
父さまは護衛がいるところを見せた方がいいという考えで、馬車に乗るとき、ガーシが馬でガードしてくれるようになったんだよね。
それだけで十分目立つので、ちょっと嫌だったんだけど。それが増え、ふたりになった。
家に着くと、新しい護衛の人が挨拶をしてくれたんだけど、なんとシモーネだった。フォンタナ男爵夫妻の継子の第一子で、孫にあたる。シモーネは次の次のフォンタナ家当主になるはずだから、わたしの護衛なんて……と思ったが、いろんなことをさせる方針らしい。
これからよろしくと挨拶をした。
さて、帰りつけば、お客さまはもういらしていた。
父さまぐらいの年代の方がおふたりと、オドオドしているトワレ。
「お待たせいたしました」
「いえ、時間より早く来てしまい、申し訳ありません」
感じの良さそうな人たちだ。
わたしは一口紅茶をすすり、それから切り出す。
「お手紙は読ませていただきました」
とにっこり微笑む。それ以上はこちらから言わない。
こちらを有利にするのに、相手に話させる。アダム戦法だ。
「はい。巷で大人気の〝異世界物語〟、作者はお嬢さまとトワレさんから聞きました。お手紙にも書かせていただきましたが、ウチは大手ではありませんが、良い本だけを読者さまに届けていると自負しております。
こちらの異世界物語も、女性たちが活躍する素晴らしいもの。まさに時代にあっていて、世の女性たちを活気づけるものになっております。
トワレさんは独自の方法で本を複写し、広めていらっしゃいますが、限りもありましょう。
そこで、私たちのハンテー出版で、こちらの異世界物語を出版させていただきたいのです!」
「その場合の取り分は、いかがとお考えです?」
踏み込めば、そこまで交渉する気だったようで、スラスラと数字が出てきた。
トワレと目を合わせる。頷くから、トワレはこの出版社で問題ないってことだ。
手紙をもらってから、こちらもできる限り調べている。
ハンテー出版は小さいながらも、手堅く良作を庶民に届けている出版社だと思えた。
一度、新聞社からのオファーで浮き足たってみたら、違う目論見で近づかれていたこともあるので、今回はしっかり調べた。
謀反騒動の後から、わたしは密かに書き出した小説がある。
それが異世界物語だ。この世界で生きた記憶を持った女の子が、異世界に転生するお話だ。転生先は、わたしの前世の世界。
ある日転んだことによって、少女は前世の記憶を思い出す。生活に不自由はないけれど、魔法やスキルがないことを残念に思う。
前世のように、よく目を凝らせば貧富の差は激しいし、爵位はないけれど、それなりの位置付けはある。でもそれをなくそうとする動きも絶えずあり、女性に門戸が開かれていることが何よりも嬉しく感じる。
爵位がないのはわかりにくいだろうと思ったので、通う学園を社会的序列が色濃くある設定にした。女の子が読みやすいよう、そこでの恋物語だ。学園で底辺にいる彼女と、学園のトップ生徒会生たちとの恋物語。
わたしは女性が主人公の物語を読みあさり、それらを出版している出版社を調べた。そこでわたしの好きな物語を出しているところが、個人で細々とやっているところとわかった。
その代表がトワレで、21歳の女性だ。
わたしは原稿を持ち込んだ。彼女はその物語を絶賛してくれて、好きだといってくれた。でも、だからこそ、ウチのような小さいところではなく、大きなところに持ち込むべきだと。
わたしはわたしの物語を好きだと言ってくれたトワレを信じた。
もし本当に人々の目にとまるものなら、それはどこで何をやったって広まると言って、トワレ書房で本を出してもらった。
それは少女たちにじわじわと広がり、簡単に手に入らないことも手伝って、希少価値もつき、話題になった。
噂になれば、書房自体を買おうとした人や、高飛車にこの本だけ権利を売って欲しいなど、まぁいろんな人たちが現れたけど、やっとまともな出版社が現れた。
それがハンテー出版だ。
本日最後のお客さまをお見送りする。
すこぶる笑顔だった。
体を起こしてから、セズと手を取り合って喜び合う。
「セズ、お疲れさま! 最後の方も、とても喜んでくださったわね」
「お嬢さまの巧みな話術も見事でした。見てください。今日もすっからかん、です!」
本当によく売れた。今日もよく売れた。お土産でも2つまでにしてもらっているんだけど、結構いくつも買ってくれる方が多くて。色も迷うと2つ買ってくれたりね。
セズがお化粧を教えて、スキンケアはわたしが担当した。
スタッフで来てもらっている方も、みんな実践してくれているので、頼りになる。
トラブルらしいトラブルもなく、とにかく売れたし、話題になった。
それに、商業ギルドやら、ホリーさんのところ、領主の父さまにまで、問い合わせが殺到。他商会でも、化粧品やスキンケアものを売り出さないかというお誘いだ。Rの店のオーナーはわたしってこともオープンにしたので、わたしを評判ままに思っていた人たちを驚かすこともできた!
ふふふ、シュタイン家の真ん中もやるもんでしょ?
「お嬢さま」
外から声を掛けられた。アルノルトだ。迎えがきた。
「お嬢さま、後のことはやっておきますので、どうぞお帰りになってください」
セズやスタッフが勧めてくれる。
「みんな、ありがとう。5日間、すっごく忙しかったのに頑張ってくれてありがとうね! 〝ボーナス〟出すから!」
デビュタントの翌日からお店がすっごいことになってねー。嬉しい悲鳴をあげっぱなしだったけど、スタッフは大変だったと思う。わたしもなんだかんだ用事があって、今日やっと来られてヘルプに入れた。それでも大変だったもの。みんな連日で大変だったと思う。
「お嬢さま」
「なあに?」
「もしできたらなんですけど、ボーナスより、私、お菓子の券が欲しいです」
「お嬢さま、私もできたら、お菓子の券か、カフェの優待券!」
「え、現金よりそっち?」
「お給金は、これまでもしっかりいただいておりますので」
「はい、お昼休みに行ってもお菓子売り切れちゃうんですもん。お菓子の券があると取り置いてもらえるんですよね?」
「ええ、そうよ。そう、わかったわ。お菓子の券とカフェの券ね。他にも券の方がいい人はいる?」
尋ねると全員が手を挙げた。
「わかったわ。券のボーナスにするわ」
若いお嬢さんたちが湧きあった。
「さ、お嬢さま、アルノルトさんがお待ちですよ」
わたしはセズに押し出されるようにして、店を出た。
あれ、ガーシの他にもう一人が馬に乗っている。
護衛が増えた?
馬車に乗るときにアルノルトに尋ねれば、そうだと言った。
父さまは護衛がいるところを見せた方がいいという考えで、馬車に乗るとき、ガーシが馬でガードしてくれるようになったんだよね。
それだけで十分目立つので、ちょっと嫌だったんだけど。それが増え、ふたりになった。
家に着くと、新しい護衛の人が挨拶をしてくれたんだけど、なんとシモーネだった。フォンタナ男爵夫妻の継子の第一子で、孫にあたる。シモーネは次の次のフォンタナ家当主になるはずだから、わたしの護衛なんて……と思ったが、いろんなことをさせる方針らしい。
これからよろしくと挨拶をした。
さて、帰りつけば、お客さまはもういらしていた。
父さまぐらいの年代の方がおふたりと、オドオドしているトワレ。
「お待たせいたしました」
「いえ、時間より早く来てしまい、申し訳ありません」
感じの良さそうな人たちだ。
わたしは一口紅茶をすすり、それから切り出す。
「お手紙は読ませていただきました」
とにっこり微笑む。それ以上はこちらから言わない。
こちらを有利にするのに、相手に話させる。アダム戦法だ。
「はい。巷で大人気の〝異世界物語〟、作者はお嬢さまとトワレさんから聞きました。お手紙にも書かせていただきましたが、ウチは大手ではありませんが、良い本だけを読者さまに届けていると自負しております。
こちらの異世界物語も、女性たちが活躍する素晴らしいもの。まさに時代にあっていて、世の女性たちを活気づけるものになっております。
トワレさんは独自の方法で本を複写し、広めていらっしゃいますが、限りもありましょう。
そこで、私たちのハンテー出版で、こちらの異世界物語を出版させていただきたいのです!」
「その場合の取り分は、いかがとお考えです?」
踏み込めば、そこまで交渉する気だったようで、スラスラと数字が出てきた。
トワレと目を合わせる。頷くから、トワレはこの出版社で問題ないってことだ。
手紙をもらってから、こちらもできる限り調べている。
ハンテー出版は小さいながらも、手堅く良作を庶民に届けている出版社だと思えた。
一度、新聞社からのオファーで浮き足たってみたら、違う目論見で近づかれていたこともあるので、今回はしっかり調べた。
謀反騒動の後から、わたしは密かに書き出した小説がある。
それが異世界物語だ。この世界で生きた記憶を持った女の子が、異世界に転生するお話だ。転生先は、わたしの前世の世界。
ある日転んだことによって、少女は前世の記憶を思い出す。生活に不自由はないけれど、魔法やスキルがないことを残念に思う。
前世のように、よく目を凝らせば貧富の差は激しいし、爵位はないけれど、それなりの位置付けはある。でもそれをなくそうとする動きも絶えずあり、女性に門戸が開かれていることが何よりも嬉しく感じる。
爵位がないのはわかりにくいだろうと思ったので、通う学園を社会的序列が色濃くある設定にした。女の子が読みやすいよう、そこでの恋物語だ。学園で底辺にいる彼女と、学園のトップ生徒会生たちとの恋物語。
わたしは女性が主人公の物語を読みあさり、それらを出版している出版社を調べた。そこでわたしの好きな物語を出しているところが、個人で細々とやっているところとわかった。
その代表がトワレで、21歳の女性だ。
わたしは原稿を持ち込んだ。彼女はその物語を絶賛してくれて、好きだといってくれた。でも、だからこそ、ウチのような小さいところではなく、大きなところに持ち込むべきだと。
わたしはわたしの物語を好きだと言ってくれたトワレを信じた。
もし本当に人々の目にとまるものなら、それはどこで何をやったって広まると言って、トワレ書房で本を出してもらった。
それは少女たちにじわじわと広がり、簡単に手に入らないことも手伝って、希少価値もつき、話題になった。
噂になれば、書房自体を買おうとした人や、高飛車にこの本だけ権利を売って欲しいなど、まぁいろんな人たちが現れたけど、やっとまともな出版社が現れた。
それがハンテー出版だ。
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