プラス的 異世界の過ごし方

seo

文字の大きさ
上 下
726 / 799
16章 ゴールデン・ロード

第726話 若君の野心④蔑まれない国

しおりを挟む
 それにしても、女王がそんな役目だったとは。
 目の前のガインは、少しだけ申し訳なさそうな顔をしていた。
 多少おかしな考えを持っているのはわかっていたのか?
 エリンが怒ってくれたので、わたしは冷静になることができた。
 ガインの考えはいただけるものではないけれど、聖霊王が降りてこられない限り、無効な話となる。

「神聖国と関係なく、部隊の幅を広げて行ったらどうですか? 神聖国は2度と興せないんです。一層のことガゴチから離れて……」

「ジジィたちが、よからぬことを考えている」

 え?

「気味の悪い奴らと手を組んでいるようなんだ。ジジィの……ガゴチの武力は相当だ。それが妙な方向に行きそうで怖いんだ。その前に、俺がガゴチを引っ張っていきたい」

 ああ、それがガインの願いだ。
 ガゴチのトップになりたい目的は、将軍が何かするんじゃないかと思えて、それを止めたいんだ。
 そう思ったけど、それはわたしの推測。しっかりとガインの言葉で聞きたい。

「ガインの本当の願いは何? 神聖国を立ち上げることじゃないよね?」

 ガインは顔を上げ、わたしを見た。

「……ジジィが何かしようとしている。それを止めたい。ガゴチのみんなを本当に蔑まれるべき、国の民にしたくない」

 やっぱりだ。ガインは悪い子じゃない。国を思って、その国のみんなのことを考えられる人だ。ガゴチは好きになれないけれど、今は幼いとしても、そういう心持ちの人に是非、長になって欲しいと思う。

「じゃあ、まず、神聖国は2度と興せないことを知らしめるべきじゃない? 若君だけじゃなくって、それはすべての人ができないことだってわかるように。
 腕っぷしでは若君は将軍たちに勝てないのだろうけど、情報を持てるっていうのは、腕っぷしと同じぐらい武器になることだと思う。
 それから将軍が本当に何をしようとしているのかを知らないとだね。そうしないと止めるべきことなのかも、どうすればいいのかも分からないから」

 我に返ったような顔だ。

「……そうだな。俺は焦って……怖くて、確かめることもしなかった……」

「家族のことだけに、見えなくなることもあるよ。でも、若君は大丈夫。怖くてもまず、止めることを考えた人だから」

 新生ガゴチも何もかも、〝俺俺〟のようでいて、いつも誰かのことを思いやってのこと。
 それから少しその気味の悪い人たちのことを聞いた。
 わたしに話すうちに、ガインも何をしていくか自分で筋道を立てられたようで、表情が明るくなっていく。
 わたしもできることは協力することにして、定期的に情報を交換する約束をし、ガインは帰って行った。



「姉さま、ごめんなさい」

 ノエルが転移で送り届けている間、エリンがわたしに謝る。
 わたしはふわりと抱きしめる。

「姉さまを守ろうとしてくれてありがとう。でもね、エリン。姉さまもエリンに何かあったら嫌だわ。だから無茶はしないでね。エリンが大好きよ」

 伝えれば、エリンがぎゅーっと抱きついてくる。
 案の定、父さまをはじめ双子兄たちもモニターで見ていたみたいだ。
 そして後ろで見ていたエリンが驚くべきスピードで、客間に突撃したと。そこで連れ帰ろうと入れば、自分たちも「見て」いたことがわかってしまう。
 それでわたしに判断を委ねたらしい。

「それにしてもガゴチの若君が気味悪がるなんて、何者なんだか……」

「呪術師とか」

 うー、確かに呪術師は、得体の知れない感じがありそうだね。

「グレナンの生き残りとか」

「……それもありそう」

 生き残るためにみんな必死で。そしてちょっとでも何か目的があるのなら、それを叶えられそうな居場所を探す気がする。その考えは至極真っ当だ。その生き残るためのことが、極端な方向に振られていなければいいのだけれど。
 ガゴチの将軍はもっともっと力を欲している。
 グレナンの生き残りは何を考えているのかは分からないけれど……。世の中への復讐とか考えていない……よね?



 自分の部屋に戻りながら、もふさまに尋ねる。

「ねぇ、もふさま、言えないことなら言わなくていいんだけど。聖なる方が地上に降りられないのは決まり事なのよね?」

『……ああ、そうだ』

「それを知らしめる方法ってないのかな?」

『人族には神殿があるだろう。神からの言葉を下ろせばいいのではないか?』

 聖なる方のことを、神さまからの言葉でおろせるの?
 どうもそこらへんが、こんがらがるんだよな。

「ねぇ、もふさま。神さまと聖霊王は敵対しているの?」

『敵対はしていないが、お互いよくは思ってないな』

「聖域は神さまから人族を守れるところだったって聞いたけど、そうなの?」

『知ってしまったのだから、いいだろう。そうだ、元はそうだった。けれど、人族は聖霊を忘れてしまったため、〝人族のすべての者が入ることができ、守られる場所〟ではなくなった』

「神殿は神さまが降り立つために作られたところ。でももふさまは入れたよね?神域に規制はないの?」

『神域に規制はない』

「神域は神殿を建てて、神を敬う神官がいれば作れるみたいだけど、聖霊王さまが降り立つ以外に聖域ができる方法があるの?」

『あることはあるが、人族に教えることはできないし、どうにもならないものだ』

「そっか、ごめんね。いっぱい聞いちゃって」

 わたしはもふさまに手を伸ばして、抱き上げる。

『なぜ、謝る?』

「だって、もふさまが聖獣ってことを利用しているでしょ?」

『それで今までも、あまり聞いてこなかったのか?』

「え、うん。でもやっぱり聞いちゃった」

『……答えられぬことは答えられないと言うから、尋ねてくれて構わない。リディアに利用されていると思ったことはない』

 もふさまは優しいなーと再び抱きつく。
 もふさまが聖獣ってことにすっごく甘えているのに。
 聖域にも連れてってもらったり、聖水をもらったりもしている。

 ガインが気味の悪い人たちを探ると言っていた。次に会う時に、神殿から神も聖霊王も降り立つことはないことを言ってもらうのはどうかと言ってみよう。

 そういえば神話と名がつくぐらいだから、神さまの物語は多くあるけど、聖霊王や聖霊の話ってのは聞かないな。それが忘れられていったってことなのかな?

「リディー」

 父さまに呼ばれる。
 そばに行くと、もふさまごと、ふんわりと抱きしめられた。
 もふさまはブルッと震えて、わたしたちの間から降り立つ。苦しかったかな?

「父さま、話すことを許してくれてありがとう」

「……今回はいい方向にいったようだが、気を抜いてはいけないよ」

「はい」

「リディーの〝学んだ〟ことで、ガゴチの若君も、ガゴチもいい方向に向かうかもしれない。心配ではあるが、とてもリディーが誇らしいよ」

 わたしは父さまにギュッと抱きついて、胸の中で言った。

「父さまを見ていたからよ。父さまはいつも領地の人たちの話を聞いていた。争いがあっても両方の言い分をじっくり聞いていたわ。わたしはそれを真似ているの」
 
 父さまがわたしの肩を持って離して微笑む。そうして、もう一度わたしを抱きしめた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

ハイエルフの幼女に転生しました。

レイ♪♪
ファンタジー
ネグレクトで、死んでしまったレイカは 神様に転生させてもらって新しい世界で たくさんの人や植物や精霊や獣に愛されていく 死んで、ハイエルフに転生した幼女の話し。 ゆっくり書いて行きます。 感想も待っています。 はげみになります。

転生しても山あり谷あり!

tukisirokou
ファンタジー
「転生前も山あり谷ありの人生だったのに転生しても山あり谷ありの人生なんて!!」 兎にも角にも今世は “おばあちゃんになったら縁側で日向ぼっこしながら猫とたわむる!” を最終目標に主人公が行く先々の困難を負けずに頑張る物語・・・?

魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで

ひーにゃん
ファンタジー
 誰もが魔力をもち魔法が使える世界で、アンナリーナはその力を持たず皆に厭われていた。  運命の【ギフト授与式】がやってきて、これでまともな暮らしが出来るかと思ったのだが……  与えられたギフトは【ギフト】というよくわからないもの。  だが、そのとき思い出した前世の記憶で【ギフト】の使い方を閃いて。  これは少し歪んだ考え方の持ち主、アンナリーナの一風変わった仲間たちとの日常のお話。  冒険を始めるに至って、第1章はアンナリーナのこれからを書くのに外せません。  よろしくお願いします。  この作品は小説家になろう様にも掲載しています。

【完結・短編】婚約破棄された悪役令嬢は、隣国でもふもふの息子と旦那様を手に入れる

未知香
恋愛
 フィリーナは、婚約者の護衛に突き飛ばされここが前世の乙女ゲームの世界であることに気が付いた。  ……そして、今まさに断罪されている悪役令嬢だった。  婚約者は憎しみを込めた目でフィリーナを見て、婚約破棄を告げた。  ヒロインであろう彼女は、おびえるように婚約者の腕に顔をくっつけて、勝ち誇ったように唇をゆがめた。  ……ああ、はめられた。  断罪された悪役令嬢が、婚約破棄され嫁がされた獣人の国で、可愛い息子に気に入られ、素敵な旦那様と家族みなで幸せになる話です。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

処理中です...