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16章 ゴールデン・ロード
第721話 デビュタント⑨君を手に入れる
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一通りの祝福を受け、椅子に座って喉を潤すと、フォルガードの王子・ラストレッド殿下がお祝いを言ってくれた。
「ありがとうございます」
「クラウス候は潔いな」
兄さまを眩しそうに見ている。
言いながら、自分の気持ちに迷い込んでいるのが見て取れた。
「おふたりで心のうちを話してみたらいかがですか?」
「え?」
「おふたりは特殊なケースですから、お互い気持ちだけ思いあっても、状況が掴めませんわ。話し合わずに思い合っているだけでは」
「……なるほど。年下の女の子に教えられるなんて」
「こういうことって自分が一番見えなくなるのかもしれませんね。わたしたちも兄に背中を押してもらったんですの。だから今度はわたしが殿下の背中を押します」
すると殿下はわたしの前で跪いた。
え?
そしてわたしの手をとり、手の甲に口づけた。
「あなたに大いなる祝福があらんことを」
周りがザワっとしている。
笑顔を貼り付けた兄さまがやってくると、殿下は兄さまの手をとって、同じように甲に口づけた。それでもっと周りが湧き立つ。
「で、殿下……」
「君たちに祝福を!」
殿下の声は明るい。立ち上がり、そしてわたしにウインクすると、離れて行った。
兄さまと笑い合う。
それから兄さまは父さまに挨拶に行ったみたいだ。わたしは椅子に座っていた。
靴ズレができてしまったみたいで、歩くと痛むのだ。
今度はガインがやってきたので、わたしはなんと言えばいいのかと頭を悩ませた。
「彼と、本当に婚姻を結ぶの?」
「はい」
余計な言葉はつけずに返事をした。
「俺を選んで欲しい。君を幸せにしたいんだ」
「……若君。わたしは幸せにして欲しいんじゃないんです。一緒に幸せになりたいんです」
つまりはそこなのだ。
誰かから幸せをもらいたいんじゃない。わたしも幸せにしたいのだ。そうでなければ、本当の意味でわたしは幸せになれない。それを説明するのはとても難しいのだけれど。
「そうか……残念だ。リディア嬢、ガゴチという国を知っているね? ガゴチは狙った獲物を必ず手に入れる。君の意思で国に来て欲しかったけど、そうじゃないなら……今後、俺を今までの俺とは思わないで。君を絶対に手に入れる」
「新生ガゴチになるんじゃなかったんですか?」
そう尋ねれば、彼は痛みを覚えた表情になる。
「新生ガゴチになるのに、君が必要なんだ」
わたしがガインといるのに気づいたみんなが、こちらに向かった時には、ガインはわたしに背を向けていた。
青髪の付き人が、後ろ髪を引かれるように振り返り、それを赤髪に引っ張られて遠ざかっていった。
「リー、大丈夫か?」
「……後で話す」
アラ兄は不安そうに目を細めたけど、わたしの気持ちを汲んで笑ってくれた。
今日はめでたいデビュタントだもの。
「オレと踊ってくれる?」
わたしはもちろん手を差し出した。靴ズレが心配だけど。
アラ兄は踊り出すとすぐにわたしの足に気付いて、ほぼ抱えて踊ってくれた。
「なんで足が痛いって言わなかったの?」
「これ以上、心配かけたくなかったの。せっかくのデビュタントだし」
アラ兄はふっと笑った。
「ロビンから聞いた。ドナイ候がらみの人に絡まれたって?」
「それも家で詳しく話すけど、お仕事一緒にしているのよね? 派手に断ってしまったけれど、大丈夫?」
「仕事以外に何か含みがあるようで嫌だったんだ。リーを狙っていたなんて。オレからも抗議するから」
ちょっとびっくりした出来事だった。
まぁ……終わり良ければ全てよしではないけど、兄さまとの婚約を公けにできることになったし。ガインの言葉を思い出してふと暗い気持ちになったけれど、それを振り払う。
「ロビンはやっぱり大したやつだ」
「うん! アラ兄もだけどね!」
それは心から言えた。
その後、アラ兄に介護室に運ばれて、宮廷の光の使い手に傷を治してもらった。
普段のパーティーでは常駐していないけれど、デビュタントや特別なイベントには光の使い手がいるんだって。
そうだったのか!
陛下たちにはわたしが光の使い手ということはバレた。魔力300じゃあのエリア回復はできないだろうから魔力がもっとあることもバレているし、魔力を測った時にそう出ないのだから、どうにか隠蔽していることもバレている。ただはっきり伝えると、それは記録に残ってしまうので、あの時公けにすること以外は無理に言わなくてもいいという言葉に甘え、言葉を濁している。
だから対外的には今も、わたしは光の使い手と公表せずにいるから、光魔法を大っぴらには使わない。
会場に戻れば、知り合いのほとんどからダンスを申し込まれ、わたしは踊った。躍りまくった。みんなに祝福され、チヤホヤされた。抱えてもらっていたので楽チンだった。
最後は父さまだ。
「リディーおめでとう」
「父さま……ありがとう」
「リディーはフランツと一生、一緒に歩く約束を交わした」
わたしは頷く。
「だからもうフランツとのことを一番に考えていいんだ」
え?
「家族のこと、誰かの立場なんて考えなくていいから、これから作っていく家族のフランツを大事にしなさい」
それは少し突き放されたような、不思議な感覚が胸の中を巡った。
その後は女性陣に囲まれた。
化粧品のことを聞きたかったんだと。根掘り葉掘り聞かれ、答えているうちに手応えを感じた。
これは明日、みんなRの店に行ってくれそうだ。ノエルにセズを王都まで連れてきてもらおう。アクシデントがあったものの、幸先がいい気がして、わたしは少し前にあった嫌なことなど忘れかけていた。
だから素敵な時間を過ごした。
白いドレスのなりたて淑女は、今日だけは特別に蝶よ花よと扱ってもらえるし。
王宮のお菓子は、味はそこまでではないけど、見た目はため息が出るほど可愛くて、見ているだけで癒されるし。
そこここでRの店の話題が尽きないし。
やり切った感があり。
チヤホヤされるって自分を見失いそうになるね。
自分がすっごく可愛くて、みんなから愛されているような気持ちになれる。
その上、大好きな人に優しい瞳で見つめられたら、言われたことを頭の中でずっとリピートしちゃう。
デビュタントは広告塔と張り切っていたんだけど、途中から本当に楽しんでいた。もちろん化粧品の手応えも感じたからだけど。
フレデリカさまがかけてくれた空の粉が、わたしを舞い上がらせているのかしら。
わたしはずっとふわふわした気持ちで、多分はしゃいでいた。
忘れられないデビュタントになった。
帰りの馬車では疲れて眠ってしまった。幸せな気持ちで。
兄さまも一緒だったから。兄さまはそのまま母さまにも挨拶に行ってくれたそうなのだが、そんなスペシャルな催しを見ないで、わたしは眠ってしまった。
次の日学園を休むつもりはなかったんだけど、ガインのことを話しておいた方がいいと思って、家に泊まり、父さまに時間を作ってもらった。アラ兄とロビ兄にも相談した方がいいと思ったので、一緒に学園を休んでもらった。
「ありがとうございます」
「クラウス候は潔いな」
兄さまを眩しそうに見ている。
言いながら、自分の気持ちに迷い込んでいるのが見て取れた。
「おふたりで心のうちを話してみたらいかがですか?」
「え?」
「おふたりは特殊なケースですから、お互い気持ちだけ思いあっても、状況が掴めませんわ。話し合わずに思い合っているだけでは」
「……なるほど。年下の女の子に教えられるなんて」
「こういうことって自分が一番見えなくなるのかもしれませんね。わたしたちも兄に背中を押してもらったんですの。だから今度はわたしが殿下の背中を押します」
すると殿下はわたしの前で跪いた。
え?
そしてわたしの手をとり、手の甲に口づけた。
「あなたに大いなる祝福があらんことを」
周りがザワっとしている。
笑顔を貼り付けた兄さまがやってくると、殿下は兄さまの手をとって、同じように甲に口づけた。それでもっと周りが湧き立つ。
「で、殿下……」
「君たちに祝福を!」
殿下の声は明るい。立ち上がり、そしてわたしにウインクすると、離れて行った。
兄さまと笑い合う。
それから兄さまは父さまに挨拶に行ったみたいだ。わたしは椅子に座っていた。
靴ズレができてしまったみたいで、歩くと痛むのだ。
今度はガインがやってきたので、わたしはなんと言えばいいのかと頭を悩ませた。
「彼と、本当に婚姻を結ぶの?」
「はい」
余計な言葉はつけずに返事をした。
「俺を選んで欲しい。君を幸せにしたいんだ」
「……若君。わたしは幸せにして欲しいんじゃないんです。一緒に幸せになりたいんです」
つまりはそこなのだ。
誰かから幸せをもらいたいんじゃない。わたしも幸せにしたいのだ。そうでなければ、本当の意味でわたしは幸せになれない。それを説明するのはとても難しいのだけれど。
「そうか……残念だ。リディア嬢、ガゴチという国を知っているね? ガゴチは狙った獲物を必ず手に入れる。君の意思で国に来て欲しかったけど、そうじゃないなら……今後、俺を今までの俺とは思わないで。君を絶対に手に入れる」
「新生ガゴチになるんじゃなかったんですか?」
そう尋ねれば、彼は痛みを覚えた表情になる。
「新生ガゴチになるのに、君が必要なんだ」
わたしがガインといるのに気づいたみんなが、こちらに向かった時には、ガインはわたしに背を向けていた。
青髪の付き人が、後ろ髪を引かれるように振り返り、それを赤髪に引っ張られて遠ざかっていった。
「リー、大丈夫か?」
「……後で話す」
アラ兄は不安そうに目を細めたけど、わたしの気持ちを汲んで笑ってくれた。
今日はめでたいデビュタントだもの。
「オレと踊ってくれる?」
わたしはもちろん手を差し出した。靴ズレが心配だけど。
アラ兄は踊り出すとすぐにわたしの足に気付いて、ほぼ抱えて踊ってくれた。
「なんで足が痛いって言わなかったの?」
「これ以上、心配かけたくなかったの。せっかくのデビュタントだし」
アラ兄はふっと笑った。
「ロビンから聞いた。ドナイ候がらみの人に絡まれたって?」
「それも家で詳しく話すけど、お仕事一緒にしているのよね? 派手に断ってしまったけれど、大丈夫?」
「仕事以外に何か含みがあるようで嫌だったんだ。リーを狙っていたなんて。オレからも抗議するから」
ちょっとびっくりした出来事だった。
まぁ……終わり良ければ全てよしではないけど、兄さまとの婚約を公けにできることになったし。ガインの言葉を思い出してふと暗い気持ちになったけれど、それを振り払う。
「ロビンはやっぱり大したやつだ」
「うん! アラ兄もだけどね!」
それは心から言えた。
その後、アラ兄に介護室に運ばれて、宮廷の光の使い手に傷を治してもらった。
普段のパーティーでは常駐していないけれど、デビュタントや特別なイベントには光の使い手がいるんだって。
そうだったのか!
陛下たちにはわたしが光の使い手ということはバレた。魔力300じゃあのエリア回復はできないだろうから魔力がもっとあることもバレているし、魔力を測った時にそう出ないのだから、どうにか隠蔽していることもバレている。ただはっきり伝えると、それは記録に残ってしまうので、あの時公けにすること以外は無理に言わなくてもいいという言葉に甘え、言葉を濁している。
だから対外的には今も、わたしは光の使い手と公表せずにいるから、光魔法を大っぴらには使わない。
会場に戻れば、知り合いのほとんどからダンスを申し込まれ、わたしは踊った。躍りまくった。みんなに祝福され、チヤホヤされた。抱えてもらっていたので楽チンだった。
最後は父さまだ。
「リディーおめでとう」
「父さま……ありがとう」
「リディーはフランツと一生、一緒に歩く約束を交わした」
わたしは頷く。
「だからもうフランツとのことを一番に考えていいんだ」
え?
「家族のこと、誰かの立場なんて考えなくていいから、これから作っていく家族のフランツを大事にしなさい」
それは少し突き放されたような、不思議な感覚が胸の中を巡った。
その後は女性陣に囲まれた。
化粧品のことを聞きたかったんだと。根掘り葉掘り聞かれ、答えているうちに手応えを感じた。
これは明日、みんなRの店に行ってくれそうだ。ノエルにセズを王都まで連れてきてもらおう。アクシデントがあったものの、幸先がいい気がして、わたしは少し前にあった嫌なことなど忘れかけていた。
だから素敵な時間を過ごした。
白いドレスのなりたて淑女は、今日だけは特別に蝶よ花よと扱ってもらえるし。
王宮のお菓子は、味はそこまでではないけど、見た目はため息が出るほど可愛くて、見ているだけで癒されるし。
そこここでRの店の話題が尽きないし。
やり切った感があり。
チヤホヤされるって自分を見失いそうになるね。
自分がすっごく可愛くて、みんなから愛されているような気持ちになれる。
その上、大好きな人に優しい瞳で見つめられたら、言われたことを頭の中でずっとリピートしちゃう。
デビュタントは広告塔と張り切っていたんだけど、途中から本当に楽しんでいた。もちろん化粧品の手応えも感じたからだけど。
フレデリカさまがかけてくれた空の粉が、わたしを舞い上がらせているのかしら。
わたしはずっとふわふわした気持ちで、多分はしゃいでいた。
忘れられないデビュタントになった。
帰りの馬車では疲れて眠ってしまった。幸せな気持ちで。
兄さまも一緒だったから。兄さまはそのまま母さまにも挨拶に行ってくれたそうなのだが、そんなスペシャルな催しを見ないで、わたしは眠ってしまった。
次の日学園を休むつもりはなかったんだけど、ガインのことを話しておいた方がいいと思って、家に泊まり、父さまに時間を作ってもらった。アラ兄とロビ兄にも相談した方がいいと思ったので、一緒に学園を休んでもらった。
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